パイソンカマムシのほのかな想い
コロン様主催の『酒祭り』参加作品です。
——いつかあなたにあの景色を見せたい。
『パイソンカマムシのほのかな想い』/Aju
宇宙船が故障して、この星の小さな島に不時着した。
銀河連邦に加わっていないこの星では、修理のための部品の調達すらできない。
この星で手に入る材料で作れるものは、唯一、星間デリバリーの船に連絡をとる通信機だけだった。
わたしはその材料を入手するために、この星で働くことになった。
「おーい、カマちゃん。頼むわ。この小っこい重機じゃ動かん。」
ゲンさんがユンボの上から声をかけてくる。ゲンさんはこんなわたしでも、分け隔てなく仲間として扱ってくれる会社で数少ない同僚の1人だ。
年齢的には「お爺さん」の部類に入る。
「はあい。」
わたしはそんなゲンさんにできるだけ明るい声で応えて、大きな庭石を2本の肢で抱え込む。
後ろの4本の肢を踏ん張って、「うんしょ!」と力を入れる。
猿から進化したというゲンさんたち地球人の顔は、シワも多くて複雑な表情を見せるので、わたしのような昆虫系人には感情のありどころがつかみにくい。
だから、わたしはどんな場合でも、職場ではできるだけ明るい声で応えるようにしている。地球人から見ると、わたしには表情がなく、気持ちが分かりにくいのだというから。
庭石は割と簡単に地面から抜けた。
「おう。やっぱ、カマちゃんいると助かるわぁ。」
ゲンさんがユンボの上から声をかけてくれた。
わたしが地球で就職した会社は、解体業者だ。
別に解体業が好きなわけじゃなく、他のどんな会社も、わたしの姿を見て雇ってくれなかっただけなのだ。
「力はあるのか?」という社長の問いに、「トン袋」というのを持ち上げて見せたら、一発で採用が決まった。
今日は、今では珍しい一戸建ての木造邸宅の解体。大きな石を使った庭もあるけれど、道が狭くて入って来れる重機はこれで精一杯なのだ。
こんな時、わたしは「役に立てている」と思うことができる。
ただ会社にいる同僚は、ゲンさんのような人ばかりじゃない。たいていの同僚はわたしの姿を見てヒソヒソ話をする。
「何考えてっかわかんないよな、パイソンカマムシって。」
「宇宙人だろ? 社長なんであんなの雇ったんだろ?」
「力あるからじゃね? でもなんかキモいよな。」
全部聞こえてますよ。わたしたちパイソンカマムシは耳いいんです。
でもわたしは、今は船が故障して良かったなぁ——って思える。
なぜって、この職場でタカハシさんに会えたから。
タカハシさんは、現場の人じゃなく事務の人だ。
みんなからは、いてもいなくても同じように思われてるらしい影の薄い人ではあるんだけど。
でも、その黒ブチの眼鏡と伏目がちな瞳が、少しパイソンカマムシの雰囲気にも似ていて、わたしには落ち着けるのだ。
しかも、他の人たちと違って、こんな姿のわたしにも優しい。
「お疲れさん。」
玄関脇のコンクリートに座っていたわたしに、自販機で買った温かい飲み物を持ってきてくれたのはタカハシさんだった。
わたしには甘酒、自分はコーヒーだ。わたしがコーヒーでひどく酔っ払うのを知っているから。甘酒が好物なのを知っているから。
「遅くなっちゃったね。」
そう言ってタカハシさんはわたしの隣に座る。
わたしの心臓がドキドキし始める。
でもきっと気づかれたりはしないはず。だってパイソンカマムシは地球人みたいに表情が豊かではないから。
わたしは甘酒を一口すする。
温かな甘さと、少しふわふわの粒々が舌の上でたゆたって、喉へと流れ込んでゆく。
「美味し。」
素直に気持ちを言葉にした。
少し甘え声になっちゃったかな。わずかに酔ったかも。地球の飲み物、酔っ払うのが多いね。
「早く帰れるといいね。でも、カマちゃんがいなくなっちゃうと少し寂しいかな。」
どきん。
「ま・・・まだまだ、かかりそうですから。」
タカハシさんがにっこり笑ってわたしを見る。
この人の表情はストレートでわかりやすい。
どきん。 どきん。
ええ。そうです。
わかってはいます。
タカハシさんとは種が違うのだから、結ばれることのない恋だってことは。
「どんな星なんだろう? カマちゃんの星って。」
「い・・・行ってみます? 船直ったら、一緒に・・・。」
わたしは、見せたい。
タカハシさんに。
わたしたちのエメラルドグリーンの美しい星を。故郷の美しい景色を——。
この青い星もすごく美しいけど、わたしたちの故郷の星も美しいんですよ。
「あ。いいなあ、それ。」
タカハシさんは両手でコーヒーの缶を包むように持って、星空を見上げた。
(了)
パイソンカマムシの「ラブストーリー」を書いてみよう。
と思い立ち、書いてみました。(・・)
未来屋ワールド風に仕上げてみましたが、いかがだったでしょうか?
(ガチファンに怒られるかも・・・(°艸°;) あくまでも『風』ですから・・・)
幕田さん、すいません。タカハシさん、勝手に借りました。。(^◇^;)