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「それで、どうしてこの診療所はあんなに人が多かったの?」
エメリアは疑問に思ったことを質問してみた。
「シュテイラー様、ここに来るまでに違和感はありませんでしたか?」
「あ、エメリアでいいですよ。そうですね。確かにこの周辺の設備が他の場所よりあまり整っていないように見えました」
デールに連れていかれながら感じたことだった。ライラや護衛達は何も言わなかったが事情は知っていたのかもしれない。
「この地区の管理者は以前から環境整備に力を入れずに自分の関係している店ばかりを融通していると噂されていました。そして、この地域が見放される原因の一部に私がここに住みついたということです」
「リックさんも原因になっているんですか?」
「はい、ここの管理者はどうやら俺が縦付いたあのじーさん貴族の遠縁らしいんだ」
「えっ?」
リックは苦笑いをしながら話を続けた。
「この場所を貸してくれた人は『気にしなくていい、私が許可を出しているから』とおっしゃってくださったが、今は他の領地に出かけているんだ。その時を狙って色々嫌がらせをしてきやがる」
「その方とは?」エメリアが尋ねた時ドアの向こう側が慌ただしくなった。
エメリアとライラとリックは耳を済ませていると、護衛と誰かが軽く言い争っているようだった。
「今は、このドアを開けることはできません」
「私はこの地区の管理者だ、お前に指図されるような身分ではない」
「我らはシュテイラー当主専属の護衛、お前こそ立場をわきまえよ!」
「はっ、そんなでたらめ通用するわけがない。ご当主様は今日はお屋敷で会合しているのだ!」
あまりに傲慢な態度にエメリアはおかしくなり思わずクスリと笑ってしまった。
リックはそんな様子を見て豪胆だなと感心しながらもどうしようかと悩んでいると
「エメリアお嬢様、リックさん、ここは私が対応します。エメリアお嬢様をどこか見えない場所に待機させてもらってもいいですか?」
ライラの言葉にリックは反応し、薬草とかのパントリーになっている場所に隠れてもらうことにした。
「こんな場所にいてもらうのは申し訳ねぇが・・・」と渋っていたが、子どもは狭いところが大好きな生き物、エメリアは目を輝かせながら
「全然大丈夫よ!」と嬉しそうに入っていった。ライラは少し苦笑いをしていた。
エメリアを隠した後、ライラはリックに「私が対応いたしますので、口裏を合わせてくださいね」と微笑みながら言われた。
リックは「ああ」と返事したが、よく見ると自分の娘のキャロルより年下じゃねぇのか?と驚いていた。
玄関がいよいよ騒がしくなってきたとき、ライラが
「ドアを開けても大丈夫です」と外の護衛に声をかけた。
いつもならフレンドリーな護衛も今はお互いの立場を理解し
「今すぐ開けます」と丁寧な口調で対応した。
「早くそうしなさい!」と怒りながら入ってきた男性は、貴族らしく綺麗な衣装に身を包んだ神経質そうな人だった。
そして、ライラを値踏みするようにジロジロを見た後
「お前は誰だ?」と聞いてきた。
ライラは一瞬こめかみが上がりそうになり、久しぶりにこいつを浄化してやろうかと思ったが息を軽く整えてから。
「私は、シュテイラー当主家で働いている侍女ライラと申します。今日はご当主様の使いでここにやってきました」
と丁寧にカーテシーをしながら挨拶をした。
正確には、エメリア専属の侍女だがいざとなったら自分の名前を出しなさいと言われているので活用させてもらうことにした。
「こちらは、名乗りました。そちらは名乗らないのですか?」
本来ならば立場の低い方から名乗らなければならないがライラが少女ということもあり機転をきかせ先に名乗ったのだった。
「もっ、申し訳ございません。私はこのオーロム地区を管理しております。ソーン男爵家当主 ジョン・ソーンと申します」
ジョンは軽くお辞儀をしながら自己紹介をした。
「ソーン様、あのように人様の入り口で大声を上げられては困ります。どうか以後お気を付けください。あと、護衛の者たちとの会話は聞いておりました。当主様にご報告さえていただきますね」
ライラの言葉にジョンは怯えながら
「あとで、護衛の方々に謝罪をしますのでどうかお許しください!」
先ほど挨拶したときのお辞儀の二倍ぐらいの深さで頭を下げられた。
「・・・考えときます」ライラは呆れながら伝えた。
ジョンは許されたと勘違いし「ありがとうございます」とお礼を言った。
そして、ジョンはリックの方を向くと
「で、いつになったらここを立ち退くんだ?」
「だから言ってるだろ!ここを立ち退く気はないって!」
リックは以前から言われていたのか苛立った様子で答えた。
「この地区は、我がソーン家が管理している。そして、この場所は娯楽施設を作るという事に決定したんだ!」
ジョンの言葉にリックはチッと舌打ちをした。
「わざわざこんな場所にそんなもん作る必要ねぇだろ!」
「お前から見てもこのエリアが廃れているのは分かっているだろう?それをわざわざてこ入れしてやろうと考えているんだ。こんな寂れた診療所なんていらないんだよ!」
リックは悔しそうに拳を作りながら震えていた。さすがに貴族に暴力を振るうことはできない。
「それに・・・。」
ジョンはニヤリと笑うと
「誰かさんがここに居座るから、この地区が整備されないんじゃないかな?」
と脅しをかけてきた。
「ライラ様、私の用件はすみましたのでこれで失礼いたします。くれぐれもご当主様によろしくお伝えください」
そういうとジョンは部屋をとっとと出ていった。
バタンと大きな音を出して玄関のドアを閉めた。
「・・・あれは本当に貴族出身なのですか?」
ライラは疑問に思い、リックに確認した。
「ああ、そうだな。元は庶子だったそうだが貴族の方が認知したって噂だ。こんな感じに表立ってできないことを上手に遂行するから可愛がられているみたいなんだ」
ライラはそうですか・・・。と言った後エメリアが隠れている場所に向かった。
「お嬢様もう大丈夫ですよ」その言葉を聞いたエメリアはそっとパントリーから出てきた。
狭い場所に隠れて楽しい気持ちが、話の内容を聞いている内になんとも言えない気分になった。
「この施設を商業施設に建て替えるの?」
エメリアは不思議そうにリックに確認した。
リックは、言葉を選びながら分かりやすく説明する。
「そうだな・・・。ん~。大人の遊び場になるってやつかな・・・。」
それ以上はモゴモゴ言って聞き取れなかった。
「という事は、社交クラブでも作るのかしらね?」
エメリアは片手を頬に置きながら答えた。
エメリアが考える大人の遊びとは、両親が夕食後にしているカードゲームや盤面に駒を乗せて遊ぶゲームだった。
そのことをリックに説明しながら
「わざわざ、治療院をつぶしてまで作るものではないと思うのだけど?」
と不思議そうにしていた。
リックは、アハハと苦笑いしながら「そうだな。そんな施設なら隣にでも作ればいいもんな」と乾いた声で答えていた。
ライラはリックの反応からそのような生ぬるい施設ではなくもっともっと大人が遊ぶ所なんだろうなと思った。しかし、さすがに女神といえエメリアに説明するのは早いような気がした。
ちょっとダラダラした進行ですみません。
最後までお読みいただきありがとうございました。




