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まやかし幻士郎  作者: 佐藤遼空
第六話 決着! 宗家戦
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幻士郎のまやかし

 幻士郎は牙羅蛇の気配を探った。

 牙羅蛇の身体は、その下半身が地中に溶け込んでいる。牙羅蛇が左手から礫弾を発射した。

 幻士郎は躱す。が、躱した先に地中から現れた尾が待っていた。

「くっ」

 尾を刀で受け止める。が、その間に、たわみを持った尾の腹が、幻士郎にぶつかってきた。

「ぐっ――」

 車にはねられたような勢いで、幻士郎は飛ばされた。受け身を取って転がりながら、幻士郎は体勢を立て直す。

「これならどうだ!」

 幻士郎は地中に、剣を突き刺した。そのまま方力を込める。


 辺り一帯の地面から、炎が現れた。それは地中に潜っている牙羅蛇の長い身体の形だった。

 発力して、急接近する。

 尾の動きは炎によって見えている。尾の攻撃が、幻士郎に襲い掛かった。

「初学の太刀、火炎返し!」

 耳横まで刀を切り上げるように相手の攻撃を受け流し、返す刀で尾を斬り上げた。

 尾が幻士郎の刀によって斬り割られる。切り取られた先端は、炎が燃えあがり、燃え尽きて消えた。

 しかしその尾はすぐに甦る。と同時に、牙羅蛇は地面の中の身体を使って、上半身を急速移動させていた。


「くらえっ!」

 左手の蛇で礫弾を撃つ。幻士郎は刀でその攻撃を全部はじき返した。幻士郎は両手を後ろに伸ばし、そのまま牙羅蛇に急接近した。

「中段の太刀、飛燕一閃!」

 牙羅蛇が礫弾を発射するのを躱しつつ、横に抜けるように刀を一閃させる。牙羅蛇はその攻撃を、なんとか蛇の牙で受け止めていた。

「確かに貴様の力は増した。が、それでこそ、喰らい甲斐があるってもんだ!」

 嘲るような笑みと共に、牙羅蛇は右手の爪を幻士郎の顔に伸ばしていた。

「その可愛い顔を引き裂いてやる!」

 牙羅蛇の爪が襲い掛かる瞬間、幻士郎は刀に気力と方力を込めた。

「火気砲!」

 白く光る閃光とともに、火炎が爆発的に燃え上がる。至近距離にいた牙羅蛇が、吹っ飛ばされた。しかし牙羅蛇は、その爆炎を魔力でかき消す。


「残念だったな。やっぱり相性的に、俺の方が有利なようだぜ。お前の攻撃は大して効きやしない」

 牙羅蛇は口元を歪めながら、右手を立てた。牙羅蛇の右手が変形し、剣のように変わる。それは鱗を強化した、西洋剣の形をした武器であった。

 幻士郎は表情を変えない。ゆっくりと、幻士郎は刀を後ろに構えた。そのまま発力して、俊足で急接近する。

「中段の太刀、自在旋!」

 幻士郎は身体を真半身にし、右手一本で持った刀を後ろに伸ばす。相手からは、身体で刀が見えない構えである。しかしその分、前面は無防備に敵に晒す型であった。

「死ね! 紅道幻士郎!」

 牙羅蛇が突っ込んでくる幻士郎に、剣を突き出した。


 僅かに見切る。幻士郎は瞬時に身体を旋回させ、牙羅蛇の剣を躱すと同時に、刀を横へ円転させた。

 外側から牙羅蛇の胴体へ、紅吹雪で斬りつける。

 紅い刀身が斬り割っていく。牙羅蛇の顔色が変わった。

「なにっ――」

「ウオオォォォッ!」

 幻士郎が完全に身体を回転させてすり抜ける。炎の渦と共に、幻士郎は回転を止めた。

「な…ぐああぁっ!」

 斬り割った胴体部分から、炎が立ち登る。牙羅蛇は腕を使って、自分の下半身から逃げ出した。

「くぅっ――き、貴様ァッ!」

 牙羅蛇が呪詛の声をあげた瞬間、地面に残る長い下半身が燃え上がった。辺り一面が、炎に包まれる。


 幻士郎は、紅い方眼を光らせながら、揺らめく炎の中で牙羅蛇を睨んだ。

「牙羅蛇、お前を討魔する」

 ぎ……と、牙羅蛇が歯ぎしりをした。それと同時に、人型の下半身が牙羅蛇から出現する。

「ほざけーーッ!」

 右腕が急速に伸びて、鱗の剣が幻士郎を襲う。しかし幻士郎は、軽く首を傾けただけで、その剣を躱した。

 一撃、二撃――立て続けに突きを繰り返す鱗剣を、幻士郎は僅かな動きだけで躱す。その動きが素早すぎて、幻士郎の影が何重にも重なって見えるほどだった。

「なるほど……発力踏法の有効な使い方が判ってきた」

 そう言うと幻士郎は、刀を持った手をだらりと下に垂らした。そのまま普通に歩きだす。


「な…んだと?」

 牙羅蛇の鱗剣が突きを繰り出す。が、幻士郎の影が揺らぐだけで、鱗剣は空を切る。

 幻士郎は静かに歩み寄る。牙羅蛇は連続突きを繰り出すが、その全てが幻士郎の身体を透過する。

「な、なんだこれは……」

「攻撃が当たる瞬間だけ、発力踏法で瞬間的に動けば、最小限の力で最大速度を発揮することができる。大きく動く必要はない。そしてそれは、攻撃も同じだ」

 幻士郎は方眼を輝かせながら、冷静にそう言った。

 牙羅蛇の顔が歪む。

「き――貴様は…」

「お終いだ、牙羅蛇」

 幻士郎はそう言い放つと、刀を左手一本で持ち、背中で立てるようにした。右手の手刀を静かに前に構える。

「今なら……この型が使える」

 幻士郎は静かに、牙羅蛇を見つめた。


「何をしようが――俺に勝てるものかーっっ!」

 牙羅蛇が歪んだ顔で怒声をあげる。と同時に、牙羅蛇は両手から礫弾を発射した。

 凄まじい数の礫弾は、幻士郎の身体に全弾被弾する。

「みろっ! ザマァ――」

 牙羅蛇がその口に笑みを浮かべようとした瞬間、その幻士郎の影が揺らぐ。

「な…なんだこれは――」

「まやかし(・・・・)だよ」

 右手刀を構えた幻士郎が、いつの間にか左斜め後方にいる。牙羅蛇が驚愕の顔で振り向いた。


 狼狽した牙羅蛇が、鱗剣で斬りかかる。

 幻士郎が斬られる。が、その鱗剣は空を切った。牙羅蛇が驚愕すると、その幻影が消える。そのまぼろしの幻士郎の一歩後ろに幻士郎が立っていた。

「――残影幻火」

 幻士郎が口を開く。

「お爺ちゃんから聞いた時には、到底できる気がしなかったけど……発力踏法を使いこなせる今なら判る」

「な――なんだと言うんだ…」

 牙羅蛇が呻くように声をあげて幻士郎を睨む。が、その幻士郎の姿がぼんやりと消えていく。

「――薄い炎の方力の膜で、姿を映し出すんだ。お前はそのまぼろしを追いかけている」

「黙れ!」

 牙羅蛇は礫弾を発射する。しかし、それも幻士郎の身体をすり抜ける。


「僕はそこにはいない」

 耳元で囁いた幻士郎の声に、牙羅蛇は驚愕して振り返った。鱗剣をふりまわす。その剣は虚しく、幻士郎のまぼろしをすり抜けた。

 ふと気づくと、幻士郎が目の前に右手刀を構えて立っている。刀は後ろに回された左手に持たれているが、身体に隠れて見えない。その額の方眼が、紅の閃光を放っていた。

「ぐ……」

 牙羅蛇の顔に、恐怖が浮かんだ。その手刀は、真剣の切先を突きつけられている以上の圧があった。

「中段の太刀、飛蝶の舞」

 幻士郎が歩んでくる。牙羅蛇は吠えながら、鱗剣で斬りかかった。

 その剣が幻士郎の身体をすり抜ける。

「そっちだ!」 

 瞬時に振り向いた牙羅蛇は、後ろの気配に斬りつけた。

「やった――」

 幻士郎を斬り抜いた。と思った瞬間、その視界がぐらついた。


 立っている幻士郎の姿が、斜めに傾いていく。その視界が落ちていくさなか、幻士郎の姿はゆらめいて消えた。

「な……なに?」

 牙羅蛇は地面の感触を頬に受けて、自分の首が落とされた事に気付いた。

「バ――馬鹿な…」

 眼だけを横に向けると、はるか頭上に幻士郎の背中が見える。幻士郎がゆっくりと振り向いた。

「僕の勝ちだ」

 幻士郎は、静かに牙羅蛇の落ちた首を見つめた。



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