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まやかし幻士郎  作者: 佐藤遼空
第五話 宗家戦
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討魔三様

 幻士郎の耳――ではなく、直接頭に白川博子の声が響いてくる。霊観具の作用なのだと判った。

“――それじゃあ、みんな所定の位置についたわね。宗家戦を――開始します!”

 博子の宣言とともに、幻士郎は気力を高めた。

「行くぞっ」

 発力踏法を使って、道なき道の山を駆け登る。一歩で数mを飛ぶように上がる。発力踏法を、幻士郎は完全にものにしていた。

「……役魔がいる。近くだ」

 僅かに魔の気配がする。幻士郎はその気配のほうへ歩を進めた。


 突然、何かが飛来してくる。幻士郎はそれを横に跳んで躱した。

 幻士郎がいた場所に、放射された水が飛んでくる。水の勢いが普通ではなく、それは地面に穴をあけた。

「火炎射!」

 幻士郎は手から火炎放射した。その火炎が水の飛んできた場所へと向かう。その炎が燃える場所から、巨大なクラゲが姿を現した。

「姿を消せるのか」

 幻士郎は驚いたが、対峙するクラゲを睨んだ。その額の中心に、方眼が現れる。幻士郎は剣を抜いた。

「破ッ」

 斬りつけるが、クラゲは意外なほどの速さでそれを躱す。と同時に、長い触手から水を放射してきた。


 幻士郎はその水の放射を剣で防ぐ。

「……水行の役魔か。相性が悪い相手だ」

 幻士郎は発力踏法を方力に切り替えた。と同時に、剣に気力を込める。

「中段の太刀――飛燕一閃!」

 幻士郎は頭を低くして、両手を後ろに下げる。その頭を無防備にさらした形のまま、幻士郎はまっすぐクラゲに突っ込んだ。

 幻士郎の頭をめがけて、クラゲの水放射が襲い掛かる。その時、片手持ちの幻士郎の剣が翻る。水放射の軌道を僅かに逸らしながら後ろへ振りかぶり、脇を抜けると同時にクラゲの胴体を切り抜けた。

 クラゲの身体が霧消し、魔粒が幻士郎の元に跳んでくる。幻士郎はそれをキャッチした。

「よし、これで一体」

 幻士郎がそう口にした時、博子の声が聞こえてきた。

“残り、九体”

 幻士郎は方眼を消しながら、森の中を見上げた。

「そっか、残り数はカウントされるんだ。……ってことは、今のが一体目。ぼくが最初かあ」

 えへへ…と、幻士郎は一人ニヤついた。


   *


 博子の声を聴き、揺介は苛立ちに舌打ちをした。

「チッ、誰かが一体倒したのか。あかりか――まさか、あの幻士郎が?」

 揺介は歯噛みすると、身体中から炎を巻き上げた。

「ちまちま探してたんじゃラチがあかねえ。手荒にいかせてもらうぜ!」

 揺介の足元が、ロケットのように炎を噴射し始める。揺介の身体は、少しずつ宙に浮いた。両手を広げると、揺介の背中に火炎弾が輪になって現れる。

「灼熱爆炎弾!」

 揺介は近くの森に爆炎弾を一斉放射した。次々と方向を変えて、爆炎弾をまき散らしていく。森の木々は爆砕されたり、炎上したりし始めた。

 その爆炎の中から、クラゲがでてくる。揺介はにやりと笑った。

「やっと出てきやがったな。死にやがれ!」

 揺介は爆炎弾をクラゲに集中砲火した。一瞬で、クラゲは跡形もなくなった。

“残り、八体”

「ヘッ、どうよ」

 揺介は口元を歪めた。


   *


「ヤバい、ヤバい。出遅れてんじゃん!」

 あかりはポニーテールを揺らしながら、森の中を走っていた。その姿は、森に慣れた小鹿のように身軽である。あかりは視線の先に、宙に漂うクラゲを見つけた。

「あ、いた!」

 しかしクラゲは、あかりの姿に反応してか、遠ざかろうとする。

「ちょ、ちょっと待って! 逃げるなんてアリ?」

 あかりは当惑した顔を見せるも、すぐに舌をチラっと出して笑みを浮かべた。

「けどね、このあたしから逃げようなんて、ちょっと甘いんじゃないの?」

 あかりは弓を引き絞る。その手の中に、炎の矢が現れた。

「追尾火炎弓!」

 矢が放たれる。炎の矢は森の木々を縫うようにジグザグに飛んでいく。クラゲはその間にも、逃げようと飛行していた。

 しかし炎の矢があたり、クラゲは一瞬で爆発した。

「はい、いっちょうあがり!」

 あかりはそう言うと、笑顔を浮かべた。


   *


 二時間が経とうとしていた。

 幻士郎は、巨大なクラゲと森の中で対峙している。

 空中に浮かぶクラゲは、4mはある。普通の家の屋根より高い。

 クラゲはゆらゆらと揺れながら、突然、その触手を鋭く伸ばしてきた。幻士郎は発力踏法で、それを躱す。が、その躱した先を狙って、クラゲは光線を発射してきた。

「むっ!」

 幻士郎はかろうじて、その光線を剣で受け止める。その剣は炎をまとっている。幻士郎の額の方眼が、一層強い光を放った。

「ムンッ!」

 剣を横なぎに振ると、幻士郎は光線を振り払った。そのまま幻士郎は発力で急襲すると、炎をまとう剣でクラゲに斬りつける。しかし、クラゲは触手でその攻撃を防御した。


「ウオオオォォッ!」

 幻士郎は防御する触手に対し、全身から炎を発しながら押し込んだ。じり、と触手に剣がめり込む。と、触手が堪えきれずに剣に斬られる。その剣はクラゲの大きな頭部に斬りかかった。

「イヤアッ!」

 気合と共に、幻士郎は剣を振りぬいた。クラゲの頭が両断される。クラゲは爆発するように霧消した。

「ふう……今のは妖力と金行魔力の融合型か。かなりの強敵だったな――」

 幻士郎が息をついた時、脳裏に博子の声が響いた。

“残り一体”

「よし!」

 飛んできた魔粒を回収しながら、幻士郎は声を上げた。

 幻士郎は額から方眼を消しながら、一人呟く。

「残り一体か……ぼくが三体倒して、あとの六体は、どうなったんだろう? 火高先輩と赤羽先輩は、それぞれ何体ずつ倒したんだろうな?」

 幻士郎は首を傾げた。


   *


“残り一体”

 博子の声を聴き、揺介は焦った。

「まずいぞ……」

 揺介は森を見回す。しかし、役魔の気配は何処にもない。

(オレが倒したのが二体。残りの七体は幻士郎とあかりがやったって事だ。最低で考えても、どっちかが四体は倒してる。……オレがの最後の一体を倒しても、もう逆転できない)

 揺介は空を睨んだ。

「誰かを見つけて魔粒を奪わなければ、ここでゲームオーバーだ。…いや、最後の一体を見つけられても勝負が終わる。なんとか先に最後の一体を見つけて、勝負を終わらせる事を阻止しないと――」

 揺介は気配を探った。しかし、何も感じない。


(牙羅蛇の奴――本当に来てるのか?)

 揺介は内心で、疑惑を感じていた。牙羅蛇の気配をまったく感じなかった。

(クソ……どいつもこいつも、頼りにならねえ。結局は、オレ一人だ!)

 揺介は発力踏法を最大にし、森を駆け抜けた。やがて気配を感じる。行った先に、クラゲがいた。

「見つけたぜ!」

 揺介は火炎弾を両手に作ると、クラゲに投げつけた。クラゲに直撃し、爆発する。

「ク……倒しちゃいけない相手か」

 揺介は両手を前に出すと、その間に薄く赤い光の輪を三つ造り出した。

「ハッ」

 揺介は両手を振って、クラゲに輪を投げつけた。クラゲの胴体を赤い輪が締め付ける。揺介は片手をかざすと、クラゲを手元に引き寄せた。

「よし……これで、他の奴の魔粒を奪うだけだ」

 揺介はそう言って、笑みを口元に浮かべた。


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