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まやかし幻士郎  作者: 佐藤遼空
第五話 宗家戦
20/30

風城蓮士郎

 大樹はひとり、人気のない夜の公園に来ていた。

「霊弾銃、とか言ってたな」

 大樹の手には、火高あかりから奪った銃がある。

 鉄製ではなく軽い。素材はプラスチックのような感じだが、硬度は高かった。強化プラスチックか、硬質アクリル板、といったものを大樹は連想した。

 銃身は灰色で、シャープな鋭角で象られている。安全装置のレバーはあり、それを解除すると引き金が引けるようだった。


 引き金傍のボタンを押すと、グリップから弾倉が出てくる。見てみると、7発の緑の弾丸が装填されていた。

「これが忘癒弾ってやつか。記憶を消して、傷を治す。――あかり先輩は、装填なしで撃つと、霊弾を発射するって言ってたな。…弾を込めてなくても、発射できるって事なのか?」

 大樹はグリップを抜いたまま、両手で銃を構えた。狙うのは、公園の木であった。引き金を引く。

 パン、と乾いた音がして、銃を向けた先の木の幹に、何か当たる気配がした。衝撃音は大きくない。

「あ、何か出たな」

 大樹は近づいて木の幹を見てみた。木の皮が、少し傷ついたような気がする。大樹は公園内にあった自販機で缶ジュースを買うと、それをベンチの背もたれに立たせて狙ってみた。


 カン、と金属の衝撃音がして、缶ジュースがベンチから落ちた。近づいて拾ってみると、少し凹んでいる。

「ふうん……威力はこんなもんか。これじゃあ、空気銃以下だな」

 空気銃はポンプの圧縮度合いによっても変わるが、缶に穴を開けたり、鳥を撃ったりすることは十分に可能な威力がある。大樹が撃った感触では、今の霊弾の威力はそれ以下だった。

 大樹は苦笑した。

「これじゃあ、俺が殴った方が早いよ。いや、待てよ――」

“慣れてないと大きい霊弾を作りすぎて射手の命に関わるわ”

 大樹は、あかりの言葉を想い出した。


(逆に言うと、それだけ威力のある弾丸を造り出せるってことだ)

 大樹は再び缶をベンチの背に置くと、狙いを澄ませた。

 今度はすぐに引き金を引かず、その状態のまま缶を見つめる。

 不意に、自分の中の何か銃に流れていくのが判った。

「これが……霊気が流れてるって現象か――」

 少し疲労感が出たとろろで、大樹は引き金を引いた。

 バン! と弾ける音がして、缶ジュースが破裂した。大樹が驚愕に眼を見開く。

 その瞬間、大樹は急激な虚脱感に襲われ、膝をついた。

「マジかよ……こりゃあ、ヤバい奴だな――」

 大樹は顔をあげると、苦笑いを浮かべた。


   *


 太刀筋を読む。

 左側面を狙ってくる木刀を、受ける。その瞬間、気力による波動が伝わる。そのままでは衝撃をもろに受けるはずだが、受けた木刀に気力を込めているため衝撃は相殺される。

 幻士郎は、打ち込んできた九岳の眼を見返した。

 九岳はすぐさま右側面を狙って打ち込んでくる。幻士郎はそれを受けるとすぐに、その刃筋に添わせるように九岳の左首筋を狙う。九岳は左手を放し、右手もほぼ親指と人差し指の間だけで支えながら木刀を返す。倒した木刀で幻士郎の木刀の軌道を逸らしながら、九岳はすぐさま太刀を廻すようにして打ち込んできた。


 幻士郎はそれを察知して、後方へ跳び退く。その足元は気力の発力により光っており、その飛距離は尋常なものではない。が、九岳はなんなく、その飛距離を詰めてくる。

 と、幻士郎は着地した瞬間に強く発力し、逆に向かってくる九岳に対して突進した。

 その切先が、九岳の水月を狙う。九岳がぎりぎりのところで、幻士郎の突きを受け流す。しかし受け流された木刀を幻士郎は返し、胴に打ち込む。その太刀を九岳は受けた瞬間に巻き取る。巻かれた勢いに抵抗せず、そのまま巻かれた勢いを利用して振りかぶり九岳の脳天へ打ち込む。九岳が発力して横へ跳び退く。幻士郎はそれを直接追わず、九岳よりさらに横へ跳ぶ。そこには大木があり、幻士郎は両足でその大木を蹴った反動で九岳に斬りつけた。

「ムッ!」


 九岳がそれを受け止める。全ては瞬間的な攻防であり、普通では眼では捉えきれないほどの速さであった。

「くっ――ムウゥゥ……」

 幻士郎は唸りながら、打ち込む木刀に気力を込めた。九岳も気力上げ、その波動を受け止める。

「ハッ!」

 二人が同時に発力することで、気力のぶつかり合いにより閃光が放たれる。二人は同時に跳び離れて、間合いをとった。

 九岳が、軽く笑った。

「いい度胸してるじゃねえか、俺に力勝負を挑もうとはよ」

「そういう相手も、いるかなと思って」

 厳しい表情を緩めた幻士郎は、汗ばんだ顔をほころばせた。


「よし、いいだろう。気力を使った剣技も、発力踏法も十分に使いこなせている」

「ありがとうございますっ」

 幻士郎は嬉しそうに笑った。

 九岳は苦笑しながら、言葉を続けた。

「じゃあ、発力踏法を使いながら、方力を使ってみろ」

「気力と、方力を一度に使うんですか? できるかなあ…」

「つべこべ言わず、やれ」

「はいっ」 

 幻士郎は方力を発した。


 額の中央が割れ、紅く光る方眼が現れる。

「かかってこい」

「行きます」

 冷静な口調で幻士郎は言うと、発力踏法で一気に九岳へ踏み込んだ。その木刀には、炎がまとわれている。

「ムッ!」

 九岳が木刀で、その一打を受け止める。と、幻士郎は触れあった太刀と太刀から、炎を襲い掛からせた。九岳は全身から気力を発し、幻士郎の炎を跳ね返している。

「ハッ」

 飛び退きながら、幻士郎は横なぎに炎の波を放った。九岳がそれを、下からの斬り上げで、炎を断ち切る。


 幻士郎は静かに青眼に構えた。

 九岳を見つめる瞳は、紅く光っている。全身からは薄く炎のような方力が発散されていた。

 幻士郎が消える。

 思わぬ速さに九岳が一瞬驚く。が、脳天に撃ちかかってきた一撃を、九岳はからくも受け止めた。

「オォォォッ!」 

 咆哮と同時に、九岳が受け止めたところから押し込む。幻士郎の身体が吹っ飛ばされるが、幻士郎はすぐさま体勢を立て直し、木刀を構えた。

「ようし、いいだろう」

 九岳が息を吐きながら言った。


「まったく……俺に本気を出させるとはな」

 九岳が苦笑する。と、幻士郎の方眼が消えた。幻士郎はどっと疲労感に襲われ、木刀持った手を下に降ろした。

「うわぁ……二つの力をいっぺんに使うの、しんどいや」

「ぶっつけにしちゃ、上出来だ。お前、最後の攻撃は移動に気力と方力の両方を使ったな?」

 九岳の問いに、幻士郎は愛らしい笑顔を浮かべた。

「いやあ、そうでもしなきゃ師匠には打ち込めないかなあ、と思って」

 九岳はその笑顔に苦笑した。


 小屋に戻った幻士郎と九岳は、正座して向き合っていた。

「お前が宗家戦に勝とうと負けようと、お前はもう充分、魔明士だ。その事だけは十分認められるだろう」

「ありがとうございますっ」

「それで、お前に話しておくことがある」

 九岳は静かな眼で、幻士郎を見つめた。

「俺と水杜紗樹人、そしてお前の父親――風城蓮士郎は、真気流の(かのう)路宇(ろう)先生について学んだ同門だ」

「そうなんですか――」


「俺たちは三人で修行し、切磋琢磨した仲だった……。お前の親父の蓮士郎は、才能もあったが人一倍努力する男だった。そして紗樹人は水行家の生まれという事もあり、頭が良く呑み込みも早かった。叶先生と紅道家との間には縁戚関係があり、その縁で俺たちはお前の母親・まほろとも若い頃から知り合いだった」

 九岳がそこで息をついた。

「美人だったからな、まほろは……。俺たちは、皆、まほろを意識してたが、一番そっけない態度をとってた蓮士郎が、結局まほろの心を掴んだのさ。まあ、けど俺たちは二人を祝福したよ。俺たちは良い仲間だった…。蓮士郎はまほろと結婚し、紅道家に婿入りした。蓮士郎はそこで、爺さんとまほろから方力の使い方も学んだ。そこで蓮士郎は、真気流の型と合わせて火行の方力を使う術を編み出した。それが火蓮真機流だ」


 幻士郎の眼が驚きに見開かれた。

「あいつは天才だったよ。ただ独自に変えてしまった以上、真気流は名乗れないという事で、気の字を機に変えたんだ。ちなみに、紗樹人は、水行の方力を薙刀術に合わせて使う戦い方を編み出した」

「そうだったんですか……」

「そうして魔明士、魔滅士として俺たちは活動していた時だった。俺たちの前に――(かみ)()()()(りゅう)が現れた」


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