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まやかし幻士郎  作者: 佐藤遼空
第四話 宗家戦前夜
17/30

蟻唆魔多怪

 巨大な蟻人間と化した眼鏡の男が、鈍い動作で男女の二人を見た。

「許せない……」

 蟻が、大きな顎で喋る。

「許せない! ギィッ、許せないぞ、どいつもこいつも!」

 蟻は左手を掲げた。黒い虫のような腕の先に、黒くなっているが、ちゃんと人間の手がある。その手にはスマホが握られていた。

「思い知らせてやる、オレの事を馬鹿にしやがった奴らに!」

 蟻は右手の人差し指をたてると、スマホに何か書き込みしだした。

「――ねえ、ちょっと。こいつ、討魔すんの?」

 ポニーテールの娘が、嫌そうな顔で言う。オレンジの髪の男が口を開いた。

「どんな奴だろうと、オレには関係ない」


 オレンジ髪の言葉を聞いて、娘の方は肩をすくめてみせた。

「じゃあ、しょうがない。やりますか」

 そう言うと、娘は左腕を立てた。その手首にブレスレットがついてる。そのブレスレットの金色のメダルを、娘は右手の指で撫でた。

「討魔装!」

 娘の身体が、金色の光に包まれる。と、娘はそれまで来ていた制服から、一瞬で別の服装に変わり、手には弓を持っていた。

 赤い袴にブーツ、上は赤い筋の入った白い振袖という、巫女と大学の卒業式で流行っている服装を足したような格好をしている。だが、それ以前に、一瞬で服装が変わったことに、陰で様子を見瑛太大樹は驚いた。

(なんだ? 一瞬で服が変わった。それに武器も持ってる)


 続いて男の方が、胸の前に腕を伸ばし、右手の指で左手首のブレスレットを触った。

「討魔装」

 男も光に包まれ、一瞬で服装が変わる。白地のロングコートの前をはだけ、下には赤いタンクトップが覗く。黒いスラックスを履いており、手には大きな鎌を持っていた。

「おらっ!」

 男はいきなり鎌を振り上げると、蟻に斬りかかった。その瞬間、蟻が二体に分裂し、鎌が空を切る。

「なに?」

「ギッ、思い知らせてやるぞっ!」

 二体の蟻はスマホをいじる。と、蟻の触覚の間に、岩の塊のようなものが現れた。


「ギッ」

 頭を振る。と、蟻の触覚の間にあった岩石が発射され、男を襲った。男はその一つを鎌で斬り裂く。が、もう一体の蟻が発射した岩石が、既に迫っていた。

 男が一瞬、動揺の顔を見せる。が、次の瞬間、飛来して来た炎の矢が、岩石を打ち砕いていた。男は娘の方を見る。

「別に、あんたを助ける義理はないんだけどさ」

 娘が勝ち誇った顔で笑うと、男は小さく舌打ちした。男は再び、鎌で斬りかかる。娘はその背後から、弓で蟻を狙い撃ちした。

(見たことあるぞ…この感じ)

 大樹は、その化物と戦う二人を見て、何かを想い出しかけてきた。


 男が斬りかかると、蟻が分裂する。既に蟻は十六体にも増えていた。娘が声をあげる。

「ちょっと、揺介! あんたが攻撃すると増えるから止めて」

「なんだと? オレの攻撃が?」

 揺介と呼ばれた男が、娘を睨む。娘は怒ったように言葉を続けた。

「こいつは基本は土行の魔力系。けど多分、物理的な衝撃を受けると分裂する魔能がある。エネルギー系の攻撃じゃないと駄目よ」

「チッ、厄介な……これなら、どうだ!」

 揺介の背後に、火炎弾の輪ができる。揺介は鎌で相手を指しながら、火炎弾を一斉に発射した。

「灼熱爆炎弾!」

 一体の蟻が集中砲火を受けて消滅した。

「フン、ざまあみやがれ」


「いいわね、あたしも!」

 娘が弓を引き、炎の矢を発射させた。

「炎弓流星射」 

 放たれた一本の炎の矢が、飛びながら分裂し拡散する。何体かの蟻が、その一斉放射に消滅した。

「ギッ、ギギギギ――」

 蟻が呻く。と、蟻は突然、隣にいる蟻を殴った。分裂する。その隣の奴も、同じように隣の蟻を殴る。分裂する。そのまた隣も、その隣も、蟻たちは一斉に自ら同士討ちを始めた。

「ちょ――何やってんの、こいつら!」

「こいつら、わざと分裂しやがった……」

 もはや蟻は数えきれない数にまで分裂をしている。娘が呆然と声を洩らした。

「嘘でしょー―」

「ギッ!」

 蟻が一斉に、岩爆弾を投げてくる。二人は横に跳躍して、その爆撃を躱した。


(一瞬で――あんな距離を?)

 陰で見ていた大樹は、二人のその飛距離に驚いた。およそ考えられない距離を、軽く跳んだように見える動きで移動している。

(いや……動きの速度も速い)

 二人は蟻たちの攻撃を躱していたが、その動きが考えられないほどに速い。

(一瞬で服装を替えたり武器を出したり――それに異常な運動力と、あの炎を出す力。こいつらは、一体何なんだ?)

 大樹の疑念は膨らむばかりだったが、一方で大樹は、その光景に既視感を覚えていた。

(何処かで見たことある――この感じ…)

 蟻たちは群れになって、遂には直接襲い掛かり始めた。蟻はスマホを持った腕や、頭から伸びた長い触角を振り回す。二人は俊敏な動きで、それを躱している。

 大樹はふと、二人の足元が赤く見えるのに気づいた。

(なんだ?)


 よく見ると、足の裏から炎が揺らめいているように見える。

(あれが動きの秘密か? しかし――)

 蟻の数が多すぎる。二人は迎撃しを少しずつ消滅させていたが、その度に蟻は自ら数を増やす。二人の顔に、疲労の色が見え始めた。

(まずいぞ、あいつら。疲れが出始めてる)

 大樹がそう思った時、娘の背後から蟻が殴ろうしていた。娘は気づいていない。

「まずい!」

 気が付いた時、大樹は飛び出していた。

「破ッ!」

 蟻が振り下ろした腕を、大樹は上段回し蹴りで迎撃する。娘が大樹と蟻の存在に気付いて、驚きの表情で振り返った。

「あ……あんたは――」

 大樹は振り返って、娘を見た。

「おい、どうするんだ、この蟻たち。何か打つ手はないのか?」

 大樹の言葉に、娘と揺介は、驚きの顔を見合わせた。


    *


 幻士郎は、九岳の前で突っ張りの鍛錬をやっていた。

 地面に打ち込んだ直径30cm以上ある杭に、掌を打ち込む。その時、気力を発動して、掌を守ると同時に、対象に衝撃を浸透させるのであった。

「ハッ、ハッ、ハッ――」

 左右の掌を、もう何発も打ち込み続け、幻士郎は汗だくになっていた。九岳が口を開く。

「よし、手から気力を出す感じは掴めたようだな。今度は足でやってみろ。草鞋を脱いで裸足になれ。それで前蹴りの際に、気力を出すんだ」

 九岳は杭の前に立つと、軽い感じで杭に前蹴りを出した。重い衝撃が杭に伝わる。

「正確な蹴り方じゃないが、足裏全体で踏むような感じだ。本当の蹴りは、前足指を握って、その部分だけで蹴込むんだが、今はいい。足裏全体で気力を発力する感じを掴め」

「はいっ、師匠」


 幻士郎は言われた通りに前蹴りに気力を込めて蹴る。しばらくやって汗だくになったところで、九岳はさらに言った。

「ふん、感覚を掴むのが上手いな。なら四股を踏め」

「四股……って、何ですか?」

「お前、四股も知らないのか? 全く、最近のガキは……いいか、相撲取りが足を上げて地面を踏むだろう。これだ」

 九岳は大きく右足を上げると、地面に落とすと同時に強く踏む。その時、発力している衝撃が、幻士郎にも感じられた。

「凄い!」

「感心してないで、お前もやるんだ」

 苦虫を噛み潰したような顔をした九岳だったが、幻士郎が初めて踏んだ四股に、表情を変えた。


「こんな感じですか?」

「…ああ、そんな感じだ。左右交互に踏め。強く踏むことより、気力を発力することを意識しろ」

 幻士郎の四股の稽古はしばらく続いた。足がくたくたになるまで踏んだところで、九岳が言った。

「じゃあ発力しながら、歩いてみろ」

「え? そんな事できるんですか?」

「それができると、こういう事が出来るようになる」

 九岳はトン、と軽く踏むと、幻士郎の背丈を越える程にジャンプした。幻士郎は息を呑んだ。

「討魔衆は気力、霊力、方力の違いはあるが、皆、発力踏法を習得している。つまり全員が尋常じゃない動きができるんだ。これができなければ宗家戦に勝ち目はない。できるか?」

「わ、判りました、頑張りますっ」

 幻士郎は、汗だくの顔で声を上げた。


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