第十九話 亜人と魔物
ドナさんのお店で食事を終えた俺たちは、町を回って買い物をした。
お店のほとんどは個人店で、看板も下げてないところも多い。プラムさんの紹介が無かったら、利用できなかっただろう。
魔獣の皮を売りに来たこの店も、民家の横にある倉庫みたいな場所である。中では店主のおじさんが、革加工の作業をしていた。
「これはすごい。魔獣の皮を二体分か……さすがプラムと言ったところか」
「ううん。その魔獣を狩ったのは、こっちのスズネ」
「ほぅ……嬢ちゃん小さいのに、見かけによらないんだな」
「そんなことないですよぉ」
照れくさそうに、スズネはもじもじしている。マントの中で、尻尾を振りまくってるのがくすぐったいんだけど。
「初めて倒した魔獣なんです!」
「ははは! それじゃあ、お祝いしないとな。買取価格はこれでどうだ?」
皮のトレーを手にした店主が、そこへジャラジャラとコインを広げた。そういえば、この世界のお金は初めて見たな……単位や相場とか分からないぞ……。
それはスズネも一緒で、少し困った顔でプラムさんを見る。こちらの様子を察したプラムさんが、スズネにそっと耳打ちした。
「相場の二割増ぐらいです」
「!? ありがとうございます!!」
「商売はまだまだってとこか。悪いヤツに騙されないように、しっかりやるんだぞ!」
「はい!」
店主のご好意で、かなり多めの軍資金を確保できたな。有難いことだ。
次は旅に必要な物の買い出しだ。今度はいつ町に入れるかわからないから、色々買わないと。
「あんたがプラムちゃんの友達かい? これ持ってきな!」
「ありがとうございます!」
「あら、可愛い子連れてきたのね。旅用の防寒布か。この辺とかどうかしら?」
「うわー! かわいい!」
「鍋探してるってドナから聞いたよ! うちにも、お友達連れておいで」
「おじゃまします!」
いつの間にか町にはスズネの噂が広がっていて、あちこちで人に呼び止められる。もちろんプラムさんの知り合いで、みんないい人たちなんだけど……ちょっと不安になるな。
呼び止めてきた人たちの店で、買う予定だったものは一通り揃えられたか。なんか、買った以上に色々持たされた気もする……。
⦅スズネ、荷物大丈夫か? 俺の中に入れていいぞ⦆
「あ、ありがとう。すごい荷物になっちゃったよ」
「そうですね。そろそろ宿に戻りましょうか」
「うん! 久々の買い物、楽しかった」
すごく満足気なスズネ。そういえば、転生してからはずっと洞窟や森の中だったからな。こういう生活の方が、やっぱりいいのかな?
いずれは人間の社会で生きる……その方が、俺たちにとってはいいのだろう。
「おやおや、プラム君じゃないか」
突然、背後から男の声に呼びかけられる。
振り向くと、小太りな中年男が立っていた。身なりは悪くないが、どこかこの町と不釣り合いで違和感がある。
「久しぶり。町に戻っているとは耳にしたが、なかなか見つけられなくてね」
男は親しげな様子で、こちらに近寄ってきた。それがどうにも気持ち悪い。
「マドレイ」
「!」
短い言葉で、プラムさんがこちらに警戒を伝える。こいつが例の、クズ野郎か!
できれば会いたくなかったぜ……。
「その子がスズネ君かい? プラム君がお友達を連れているなんて、本当に珍しいね……本当に……」
「ひっ……」
不躾にスズネに近づく、マドレイ。このクズ野郎! 夫の目の前で、人の妻に近づくんじゃねえ!! いや、近くに居なくてもダメだけど!!
「嫌がってるでしょう。女の子の扱いがなってないわね」
プラムさんが俺たちとマドレイの間に入って、スズネを庇ってくれた。足元を歩くソル君や肩の上のキヨさんも、静かにマドレイを見つめる。
あのまま近づいてきたら、危うくぶった斬るところだったぜ……。
「これはこれは、失礼した。あのプラム君のお友達というから、どんな方か気になってしまってね」
なおもいやらしい目つきで、マドレイはスズネを舐め回すように見てやがる。スズネも気持ち悪いのか、プラムさんの後ろに身を隠す。
「魔獣狩りと名高いプラム君のお友達が、こんな可憐な少女なんてねぇ。いやぁ、実に驚いたよ」
ニチャニチャとニヤケながら、何か言いたそうなマドレイ。
こいつも魔物使い……なんだよ、な。もしかして、俺たちの正体に気づいているのか……?
「話はそれだけ? 今日は疲れてるから、もう帰りたいんだけど」
「いやはや、引き止めてすまなかった。では、私はこれで失礼するよ」
プラムさんが無理矢理話をぶった切った。
それに対して、マドレイも素直に引き下がる。さすがに、この場で事を起こす気は無いか。
「庇ってくれて、ありがとう」
⦅本当、助かったぜ⦆
「いえ……お二方も大人しくしててくれて、よかった。町で人を傷つけたら、問答無用で捕まりますから……」
そう……だよな。
どんなに相手が悪くて正当防衛だとしても、俺たちは魔物なんだ。人の町に住むということは、そういう爆弾を抱えることになる。
「とりあえず、宿に戻りましょう。疲れているのは、本当ですから」
⦅あぁ、そうだな⦆
俺たちは念のため、少し回り道をして宿へと戻った。
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ヒロアキ
⦅あのマドレイって奴も、魔物使いなんだろ?その割には、魔物を連れてなかったな⦆
プラム
「あぁ……彼は前に厄介事を起こして、魔物の連れ込みを禁じられてるんです。町の門番のところに、預けられてるのでしょう」
ヒロアキ
⦅そ……そんなことが……⦆
プラム
「特に大型の魔物を好んで連れ歩いて、他の町でもよく揉め事を起こしていますよ」
スズネ
「サイアク……」
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