第十八話 人間の町
⦅あれが町かぁ~⦆
「おおーっ!」
魔獣の谷を抜けて、三日ほど。ようやく町が見えてきた。確か、ハポーンって名前の町。
想像していたほど大きなものではなくて、大き目のショッピングモールぐらいの広さかな?
「そろそろ、例の擬態になったほうが良いかもしれません」
⦅ああ、わかった⦆
俺はプラムさんに促されて、スズネの頭に乗った。そしてそのまま、フード付きのマントに擬態する。
こうすれば俺は擬態しても不自然じゃなく、スズネは猫耳が隠せる。準亜人のスズネは、念のため耳や尻尾を隠した方がいいという話になったのだ。
⦅スズネ、大丈夫? 重くないか?⦆
「うん! 普通のコートと変わらないよ」
スズネは嬉しそうに、クルクルっと回ってみせる。擬態すると、重さも擬態した物質になるのか。マントの裾がヒラヒラと広がっていく。
⦅おい、マントが広がって尻尾が見えてるぞ。気をつけろよな⦆
「あ、ごめんごめん」
「ふふ。さぁ、行きましょうか」
実際に町に到着したのは、昼過ぎくらいだった。人がたくさん行き交って、そこらじゅうで美味しそうな香りがする。
町に入るときはすごく緊張したけど、すぐそれも薄れた。
「お、魔獣狩りじゃないか! 戻ってたのか」
「ああ、プラムちゃん! あとでうちにも寄ってっておくれよ!」
とにかくプラムさんが目立つ!
外だと少し離れた場所で行動してるキヨさんとケルシーが、それぞれプラムさんの肩とソル君の背中に乗っている。
見た目のインパクトだけでもすごいのに、魔獣狩りって何? プラムさんって、そんなに強いことでも有名なの!?
意外だ……見た目は普通に可愛い女子高生ぐらいなのに。
⦅人気者なんだな、プラムさん⦆
「よく来るので、馴染みの人が多いんです。皆さん、良くしてくれるんですよ」
「そうなんだ」
それにしても、色んな人がプラムさんに話しかけていくなぁ。それにソル君やケルシーも、子どもたちが寄ってきて撫でまくっている。
プラムさんも俺たちと話すときと違って、口調が堅苦しくない。
なんかこう、知り合いの田舎に行ったときの感覚だ。初めて町にはいるのに、プラムさんと一緒で本当に良かったな。
「もうお昼ですし、まずは食事にしましょう。私の知り合いの店で、良いですか?」
⦅ああ、もちろんだよ⦆
「うん!」
案内された店は、日当たりの良い場所にあった。入口にはたくさんの鉢植えが所狭しと置いてあり、花が咲き乱れている。
まるで田園風景の水彩画のような店だ。
「ドナさん、こんにちは!」
「おや、プラムじゃないか。いつもの席、空いてるよ」
「ありがとう! スズネさん、こっちです」
店の扉を開けて店員さんとあいさつすると、プラムさんは外から店の裏手に移動した。そこにはテラス席があって、ソル君たちがそれぞれ好きな場所に移動する。
なるほど。魔物を連れていても、気軽に入れるお店って事か。
「珍しいね、プラムにツレがいるなんて」
「初めまして、スズネと申します」
「ふぅん、可愛い子だね」
テラス席の扉から、貫禄のある女性が出てきた。
この人がドナさんか。まるで母親みたいな感じで、プラムさんやスズネに接している。
「それで、何にするね?」
「ソルたちは、いつものでお願い。私たちは……」
プラムさんはこちらを見て、少し考え込む。
そしてかなりオーバーな動きで、注文する。
「ありったけの料理をお願い! パイとかタルトが多いと、嬉しいな」
「そんなに食べるのかい? あい、わかったよ」
オーダーを聞くと、ドナさんはお店の中に戻っていった。
その背中を見送りながら、プラムさんが俺たちに耳打ちする。
「食べきれない分は、ヒロアキさんに保管してもらいましょう。そうしたら、町の外でも食べられますし」
「! うん!」
⦅気をつかってくれて、ありがとう⦆
それにしても、穏やかだな。テラス席は裏庭のようになっていて、町の中にいるとは思えない雰囲気。
だからこそ、プラムさんはここがお気に入りなのかもな。ソル君たちも、気ままに寝そべったり飛び回ったりしている。
「食事を終えたら、買い物に行きましょう。必要な物、色々ありますよね」
「うん! 鍋とか包丁とか、料理道具欲しいな」
そういえば、ここに来るまではプラムさんに借りて料理とかしてたっけ。
この先、いつ町に入れるかわからない。必要そうなものは、ちょっと無理してでも買っておいた方がよさそうだ。
「はい、おまちどうさま」
「待ってました!」
「うわぁ! 美味しそう!!」
ガラガラとワゴンを引いて、ドナさんが料理を運んできた。
本当にスゴイ量の料理を、作ってくれたんだな。パイにタルト、肉料理に……シチューみたいなスープは鍋ごと運ばれている。
プラムさんは、ワゴンの料理をどんどんテーブルに移していく。スズネもそれを手伝う。
ドナさんはソル君たちにごはんをあげて、少し撫でて回ってるみたいだ。料理を並べ終わったスズネたちは、食事を始める。
「美味しい! 私、このパイ好き!! あ、これあなたが好きそうな味――」
「ん? 他にも誰かいるのかい?」
「あ……あれもこれも好きな味です!!」
「ドナさんの料理は、なんだって美味しいんですよ」
⦅無理のある言い訳だな……⦆
ちょっとうっかりが過ぎるんじゃないの? と、思いつつもマントの中に放り投げられた肉を食べる。
うん、美味しい。
やっぱりちゃんとした料理を食べるって大事なことだなぁ。精神が癒される。
そうこうしているうちに、ソル君たちを一通り可愛がったドナさんが席の方に戻ってきた。
「そういえば、マドレイの奴が町に来てるらしい」
「えぇ……」
「プラムさんの知り合い?」
「まぁ、知ってると言えば知ってますが……」
少し……いや、かなりうんざりした顔で、プラムさんが答える。
そんなに苦手な人なのかな?
「はっ! この町であの間抜けな業突く張りを知らない奴なんていないよ!」
かなりご立腹な様子で、ドナさんがため息をつく。
マドレイ……悪い方向で有名な人なんだな。
「はは……以前お話した、飛竜を捕まえようと手を出した人です」
「ああ!」
「あんときゃ町中大騒ぎだったよ。何も知らされないで連れて行かれた町の者も、かなりケガ人が出たからね」
そういうことだったのか。あんな怖そうな魔物を捕まえるのに、町の人まで巻き込むなんて……。
それも自分の利益のためなんだろ? うわー、最悪な奴だ……。
「プラム、関わらないように気をつけな。スズネちゃんもね」
「はい、気をつけます!」
「はぁ……ちょっと気が重いですね……」
確かに、目をつけられたら厄介そうだ。
俺もスズネの正体がバレないように、マントとしてしっかりガードしないとな!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今日は良い肉の日なので、牛しゃぶ鍋を食べました。
すごく美味しかったです。
地元の昔からあるお肉屋さんのお肉がすごく美味しくて……しかも安くて……本当にこのお値段で良いのかな? って思いながら食べてます。
■■■■
ヒロアキ
⦅ソル君達は、普通に町の中を歩いてて大丈夫なのか?⦆
プラム
「魔物使いが使役してる魔物は、基本的にどこの町でも入れますよ」
スズネ
「他の魔物使いに、攫われたりしないの?」
プラム
「私との契約魔法があるので、他の魔物使いがソル達を使役することは出来ません。なにより、この子達自身が返り討ちにしてしまいます」
ヒロアキ
⦅そっか。みんな強いもんな⦆
ソル
「バフゥ!」
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