第十六話 魔獣狩りと準亜人種
「魔獣は食事に夢中です。今なら不意打ちで、お二方で倒せるでしょう。ただ一撃が強力なので、攻撃を受けないように気を付けて下さい」
｟ああ｠
「首を狙って斬り落とすのが、一番確実だと思います」
「お任せミュ！ 十八番ミュ！」
すっかり物そぅ……逞しくなったスズネ。俺も負けてはいられない。
竜姫の聖剣に擬態して、スズネの陰に潜り込む。
俺たちはお互いに顔を見合わせると、オスの魔獣に向かって走り出した。
「ウミュアアアアァァァァ！！！！」
スズネは咆哮を上げ、回転しながら魔獣の首に切りかかる。剣撃に重ねるように、二本の尻尾も刃となって切り込んだ。
さすがに一撃で首は落とせなかったが、かなり深く斬り込んでいる。魔獣の首からは、大量の血飛沫が噴き出す。
その衝撃で魔獣は食事を止め、のっそりと立ち上がった。こちらを向く魔獣に向かって、俺はスズネの影から飛び出す。血が噴き出すのとは反対側の首を貫く。
「グウゥオォォゥゥウオォオッ……」
ごっそり首まわりを斬り込んだのに、まだ呻り声を上げる魔獣。さすがにタフだぜ。
だけど暴れまわって反撃されると厄介だ。ここは一気に決めさせてもらう！！
｟行くぞスズネ！！｠
「行くミュ！！」
俺は天空から、スズネは大地から。竜姫の聖剣を構えて、魔獣の首に切りかかる。
二つの刃は同時に、魔獣の頸椎を捉た。白銀の閃光と交差し、俺の刀身に衝撃が貫く。
折れ曲がり、断ち切られ、崩れ去る……瞬刻のうちに広がる崩壊の響き。
大地に突き刺さった俺の横に、ゴトリと魔獣の首が転がる。残された本体はよろめきながら少し前進し、轟音と共に地に伏す。
「どうだミュ！」
少し遅れて、スズネも大地におり立つ。
着地した姿も格好よくて、痺れるぜ！ いいなぁ、人型。
「お疲れ様です」
「バフゥバフゥ！！」
プラムさんとソル君も、近づいてきた。
「妊婦の魔獣はどうなったミュ？」
かなり激しく殴られた上に、オスに喰われていたが……。
魔素だまりの方を見ると、無惨な姿になった魔獣の姿が。腹部から魔素が溶けだすように、空気中に散っていく。
｟これは……｠
「この魔素が、子どもになるはずだったものですね。形になることなく、宙に戻ることになってしまいましたが……」
魔獣の腹部から溶け出た魔素は、やがて魔素だまりに混ざり合い消滅してしまった。
後にはただ、母魔獣の亡骸だけが残されている。
「さて、可哀想ですが……この魔獣も素材としていただいて行きましょう。その前に、この魔素だまりも――」
こちらを振り向いて、プラムさんが俺とスズネをじっくりと見つめた。少し悩んだ末に、口を開く。
「どうでしょう？ そろそろスズネさんが、進化できると思うのですが」
「ミュ？ 私ミュ？」
こちらを見てくるスズネに、プラムさんは説明を続ける。
「それだけ擬態が完璧なら、ワーミューア……準亜人種に進化できると思います」
おお、とうとう準亜人種か。進化回数が少ない割には、スズネは一気に上がっていくな。
獣系の魔物は亜人化しやすいらしいけど、羨ましいなぁ。
「私が入っても良いミュ？」
｟あぁ、もちろんだよ｠
「ミュ！ ありがとうミュ！」
そういうと、スズネは魔素に触れて身体に取り込んだ。そのまま魔素の霧に包まれて、進化が始まる。
霧が晴れると、少し背丈の伸びたスズネが立っていた。今までは小学生くらいって感じだったけど、すっかり女性って雰囲気に。
顔立ちからして、プラムさんと同世代くらいに見えるな。
「わっ……すごい、大きくなってる……」
｟おぉ……ミュって言わないのか？｠
「あ、本当だ……」
「ふふ」
俺たちの様子を見て、プラムさんが笑う。
「あの話し方、少し不安だったんです。まだ準亜人ですが――これなら、獣の亜人と見分けはつきません」
「そんなことも気にしてくれてたんだ……ありがとう、プラムさん！」
すっかり大きくなったスズネは、何だか昔を思い出す姿だ。髪の毛なんかはミューアの白い毛色だけど、顔立ちは若い頃のスズネそのもの。
ちょっと見ていて恥ずかしくなっちゃうな……可愛い……。
｟そ……そういえば、猫の姿にはもうなれないのか？｠
「んんっと……擬態が、獣化ってスキルに変化してるみたい」
｟なるほど。人型がデフォルトってことか｠
スズネはミューアの姿に獣化して見せてくれた。こちらも成長していて、かなり大きな猫といった感じ。
すっかり大きくなっちゃって。
「では、そろそろ行きましょうか。少し先に川があるので、そこで魔獣の解体をします」
「あなた、魔獣二体運べる？」
｟おぉ……やってみる……｠
俺は身体を大きく広げて、魔獣を包み込んでいく。
身体がパツンパツンのゴムみたいに引き伸ばされて、ドキドキしてしまうな。
でも天の声に従って保管すると、たちまち異空間に消え去ってしまった。本当に不思議だ……。
こうして魔獣狩りを終えた俺たちは、町に向かって再び歩き出した。
ここまでお読みいただきありがとうございます！
■■■■
ヒロアキ
｟魔物は魔素だまりでしか子作りができないのか？｠
プラム
「通常の生殖方法もありますよ」
ヒロアキ
｟そうなのか？｠
プラム
「スライムは、他種族の雌に自らの分子体を植付けます。分子体は母体から栄養を吸い取り成長し、やがて母体から分離します」
ヒロアキ
｟おおっ！｠
プラム
「魔素や栄養を吸い取られた母体は、干からびて死にます」
ヒロアキ
｟ひぃっ！？｠
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