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異世界で俺はスライム、嫁はネコ ~転生しても妊活します~  作者: 明桜ちけ
第一部 転生して初めての子を産む話
15/42

第十五話 魔物の妊娠

 俺たちはプラムさんたちと一緒に、洞窟のあった森を出て町に向かうことにした。

 町までの道のりは、約二週間。森を抜けて、魔獣の谷という場所を通るらしい。

 そこは森よりも強い魔物、魔獣がたくさんいる場所なんだとか。


⦅うおぉっ!?⦆

「ミュアァッ!?」

 

 魔獣の谷に差し掛かったあたりで、上空をあの大きなドラゴンが飛んでいく。襲ってこないと分かっていても、威圧される……。


「森からだいぶ離れたのに、こんなところまで飛んでくるミュ?」

「ふふ。あのドラゴン、谷を越えて町を越えて、更にその先までひとっ飛びなんですよ」

⦅すごい……⦆


 俺たちはこれから、一週間近くかけてこの谷を超える予定なのに。さすがドラゴンって感じだな。


「さて、ちょっとした提案なんです。実は森に向かう途中で、魔素だまりに留まる妊娠してる魔物を見つけまして。もし興味がありましたら、見ていきませんか?」

「そんなことして、大丈夫ミュ?」

「少し離れた場所からですので」


 プラムさんの提案に乗って、俺たちはその魔獣を見に行くことにした。魔素交配による妊娠か……今後のためにも、見学させてもらおう。


⦅なぁ、プラムさん。魔獣って、魔物と違うのか?⦆

「えぇっと……魔物は総称ですね。準亜人種も魔獣も、魔物の一種ということです」


 谷を下りながら、プラムさんは説明を続けた。


「魔獣は亜人とは真逆に、力を求めて進化した魔物です。その多くは、力と引き換えに自我を失っていると言われています」


 なるほどな。亜人を目指している俺たちとは、真逆の存在だ。

 それにしても、自我が無くても妊娠するのか……本能ってやつなのか?


「ミュアッ!? ミュゥ……すごく滑るミュ……」

⦅気をつけてな⦆


 谷はあちこち川が流れていて、苔むしてる。滑りやすくて、森とはまた別の歩きにくさだ。

 徘徊する魔獣との戦闘を避けるために、上空でキヨさんが魔獣の注意を引いて誘導している。おかげで、戦うことなく谷を進めていた。


「あそこです。ここに隠れて、様子を見ましょう」


 プラムさんに制止され、俺たちは岩陰にしゃがみ込んだ。

 前方には魔素だまりの中に、巨大な熊のような魔物。丸まって寝ている背には、鱗のようなものがビッシリ張り付いて硬そうだ。


「あの魔物、ずっとあそこにいるミュ? 前にプラムさんが通ったときからミュ?」


 スズネが不思議そうに、プラムさんに尋ねる。

 確かに不自然だな。あまり身を隠せるような物の無い場所だ。他の魔獣に見つかったら、大変じゃないか。


「魔素交配の後は、出産まで魔素だまりから出られません。お腹の子が成長しなくなり、死産してしまうから」

⦅そんな制限があるんだ……⦆


 それで移動できずに、ずっと留まっているのか。俺たちが魔素交配するときは、ちゃんと物陰の魔素だまりを探そう。


「ミュ? なんか来たミュ……」


 巨大な熊の周りを、狼型の魔物が囲んでいる。脚が氷の篭手のようなもので覆われていて、なんか強そうだ。そして何より、数が多い。

 熊の魔獣がのっそりと起き上がると、狼の魔物が一斉に襲いかかった。


「ミュー!? 卑怯ミュ!!」

「あれぐらい、大丈夫ですよ」


 慌てるスズネに、プラムさんは冷静に魔獣たちをうかがっている。

 飛び掛かる狼たちを、熊の魔獣は腕を振り回すだけで薙ぎ払っていく。腕や背中に食らいついている狼もいるが、それもまとめて地面に叩きつけて潰してしまう。

 魔獣ってあんなに強いのか……戦い方は無茶苦茶なのに、ただ暴れるだけで狼の魔物を全滅させてしまった。そして倒した狼の魔物を、ムシャムシャと食べ始める。


⦅わぉ……豪快な食事……⦆

「あの魔獣からしたら、食事の方からやってきたという感じでしょうか」

「ミュ……また何か来たミュ」


 様子をうかがっていると、今度は新たな熊の魔獣がのそのそと近づいてきた。妊婦の魔獣よりも、一回りぐらい大きい。背中の鱗は無いので、別種だろうか?

 新たな熊の魔獣は、魔素だまりの外に倒れている狼の魔物を食らい始める。


「おそらく、番の魔獣なのでしょう。妊婦の魔獣が警戒していません」

「……夫は食べるだけミュ? 襲われてるとき、助けに来なかったのにミュ?」


 ジト目のスズネが、恨めしそうな声で言う。妊娠中の恨みは、一生ものらしい。彼女が妊娠したときは、俺も気を付けよ……。

 熊の魔獣の夫婦は、しばらくは大人しく食事をしていた。……あんまり、相手の事見ないんだな。

 食事を終えた二匹は、お互いにガウガウと声をかけあう。何か話しているのだろうか? 

 意外と意思疎通ができているんだな……と思っていると、二匹の声はどんどん荒々しくなっていく。そしてついには二匹とも立ち上がって、臨戦態勢に入った。


⦅いやいやいや!! どうなってるの!? 今まで一緒にごはん食べてただろ!?⦆

「ミュアッ!? 夫の方が殴りかかったミュ!!」

「……どうやら、食事に満足出来なかったようですね」

⦅は!? それどういう意味……⦆


 俺たちが話している間に、妊婦の魔獣は倒されてしまった。そして雄の魔獣は、こともあろうか妊婦の体を引き裂いて食べ始めたのだ。

 嘘だろ……あの二匹、夫婦だったんじゃないのか……?


⦅エグ……⦆

「魔獣の妊娠では、よくあることです。なので、無事に出産を終えることは少ないですね」

「ミュ……残酷ミュ……」


 すっかりスズネは、うなだれている。

 そうだよな、これはとんだ衝撃映像だよ……。

 

「ちょっと魔物の妊娠の様子を、見てもらうだけのつもりでしたが……想定外の事態になってしまいました。ところで……あの雄の魔獣、素材を町で売ると良い金額になるんです。折角ですから、腕試しに狩ってみませんか?」


 この光景を見ながら、そういう提案する?

 なんかこう……自然の神秘みたいの見ながら、急にお金の話になるの世知辛いよ。

 そして横ではスズネがフルフルと震えている。そりゃ、こんな残酷なシーン見たら震えちゃうよな。


⦅大丈夫かスズネ? 無理して戦わなくても良いんだぞ?⦆

「――るミュ……」

⦅ん?⦆


 空耳かなぁ。スズネ、かなり過激な言葉を言ってるような気が――


「あのDV野郎、叩っ切ってやるミュ!!」


 スズネさんが妊娠したとき、俺絶対気を付けよう!!


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

明日も夜の更新予定です。


■■■■


ヒロアキ

⦅進化は自分の意思で決まる、か。魔獣になった魔物は、自我を失っても強くなりたかったのかな⦆


スズネ

「過酷な自然の中で生きていくなら、誰でも強くなりたいって思うミュ」


ヒロアキ

⦅でも、それで奥さんや子供を食べちゃうなんて……⦆


スズネ

「ヒロアキは優しいミュ。でも人間にも、そういう人はいるミュ」


ヒロアキ

⦅そうなんだろうけど……想像もつかないよ⦆


スズネ

「……そういうところが、あなたの良い所ミュ」



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