第十四話 シャドウスライム
⦅そっち行ったぞスズネ!⦆
「任せるミュ!」
俺が火のブレスで追い込んだイノシシ型の魔物に、スズネが剣で切りかかる。
一閃で首を切り落とされた魔物の胴体は、直進方向にあった巨木に激突して倒れた。
「やりましたね!」
「バフバフ!」
物陰で見守ってくれていたプラムさんとソル君が、顔を出す。
彼女は薬草を集める傍ら、俺たちにこの辺の魔物の特性や倒し方を教えてくれた。
最初はソル君や猿型の魔物のケルシー、鳥型の魔物のキヨさんも手伝ってくれて……段々と、スズネと二人だけで魔物を倒せるように。
このイノシシ型の魔物――ワイルドボアを倒して、この辺の魔物は一通り倒したな。
「ありがとうミュ~! プラムさんのおかげミュ~!」
「お二方が頑張ったからですよ。ボア種は食糧になりますので、後で一緒に捌きましょう」
⦅よし、じゃぁ回収回収⦆
大木の前に倒れたワイルドボアに近寄り、体内に取り込む。すると、視線の端に光るものが見えた。
⦅あれ、魔素だまりじゃん⦆
木々の根元から漏れ出る霧の光。森の中にも、魔素だまりってあったんだ。
うわー、久々に見たなぁ。
「どうしたミュ? ……ミュアッ!」
「ん? あぁ、魔素だまりを見つけたのですね」
スズネとプラムさんが、俺の様子を気にして寄ってきた。そしてすぐに、魔素だまりに気づく。
⦅えぇっと……魔素だまり、どうしよう?⦆
今までは俺とスズネの二人きりだったから、二人で決めてたけど……。プラムさんが連れてる、ソル君たちもやはり魔素だまりを利用するのかな?
「あぁ。この子たちのことは、気にしないでください。この辺の魔素では、もうあまり成長しないので」
⦅そうなんですか? では、ありがたくいただきます⦆
プラムさんの申し出で、俺とスズネで魔素をもらうことに。さて、どうしよう……。
⦅どうする? スズネが入るか?⦆
「ミュゥ……私は、どっちでもいいミュ」
⦅うーん……⦆
俺たちの、どっちが魔素を利用するか。次、いつ魔素だまりをみつけられるか分からないし。
弱い自分が入って、バランスを取るか。スズネが入って、主力を強化するか……どちらも一長一短だな。
「私の見立てだと、ヒロアキさんがそろそろ進化しそうですね」
悩んでいる俺たちに、プラムさんがアドバイスをくれる。魔物の様子をみるだけで、そんなこともわかるのか。
「グランスライムからだと、次はシャドウスライムがいいと思います。その次に、準亜人種のスライムウォーカーに進化できますので」
⦅そうなんですね。準亜人種かぁ……⦆
先々の進化も見越して、プラムさんは教えてくれた。本当に、何でも知ってるんだな。
亜人になるにも、前段階の進化があるんだな。まだまだ、人になれるのは先みたいだ。
⦅じゃあプラムさんのアドバイスに乗って、俺が入るでいいか?⦆
「ミュ! 良いと思うミュ!」
⦅よし! 魔素だまり、いただきます!⦆
俺は魔素だまりに飛び込んだ。あっ、足場が安定しないな……ちょっと変な体勢になっちゃった……。
《魔素 を 吸収しました》
《スキルポイント を 獲得しました》
《進化ポイント を 獲得しました》
キタキタキター! 久々の天の声さんだよー!
このまま、シャドウスライムに進化する!
《シャドウスライム に 進化します》
魔素の光の霧に包まれて、俺の体が変化していく。何だか体の中が、うぞうぞしてる感じだ。
まぁ、シャドウスライムって言うくらいだ。何か闇の力に目覚めるんだろう。
全身を包んでいた魔素の霧が、徐々に晴れていく。
⦅どうだ? 俺の進化した姿は……⦆
俺はスズネに駆け寄って、新たな姿をお披露目する。
「ミュミュ……色が濃くなった……かもミュ?」
⦅えぇ……⦆
それだけ? それだけなの!?
なんかすごく、カッコイイ種族名なのに!?
《スキル 隠密 を 獲得しました》
《擬態 の スキルレベル が 上昇しました》
お、スキルが強くなったのか。隠密と擬態……どっちも上限レベルになってる!
すごい、もしかして忍者系スライム!?
折角だし最大レベルの擬態で、人型になってみよう!
「……なに、やってるミュ?」
⦅……うぅ……⦆
擬態した俺は、ペラペラのグミ人間となって地面に倒れてしまった。
その様子を見て、プラムさんが必死に笑いを堪えている。いいよ、いっそ笑い倒してくれ!
「同じ擬態スキルでも、種族によって得意なものが違うんです。例えば……スズネさんの剣をイメージして、擬態してみて下さい」
⦅うぅ……わかった⦆
言われるがままに、竜姫の剣をイメージして擬態する。
⦅こんな感じか?⦆
「ミュミュ……そっくりミュ!」
「スライム種は、武器や防具といった物質に擬態するのが得意なんです。そのまま剣として戦えるので、少し動いてみて下さい」
へぇ、そうなんだ。
何か適当に切っていいもの無いかな……俺は周りを見回し、木の枝に斬りかかった。
かなり太い枝だったが、スッパリと容易く切り落とせた。
「ミュアー! すごいミュー!」
切り落とされた枝を拾い、断面を見てスズネが感動している。木くずも無いほど、キレイな断面。
これまで攻撃はスズネの剣頼りなところがあったから、これは大きな戦力アップだ。
「それに、シャドウスライムの本領は潜伏です。スズネさんの影に、入ってみて下さい」
そういえば、進化したら一気に最大レベルで覚えたんだった。俺は剣の姿のまま、スズネの影に突っ込んだ。
するりと水の中に入るかのように、簡単に地面の中に吸い込まれていく。おお……なんか、不思議な空間……。
⦅なんかスゴいぞ! これ、使い方によっては戦いも生活も便利になるんじゃないか!?⦆
影から出てスライムボディに戻る。
スズネの擬態と同じように、簡単に姿を変えられるんだな。それに潜伏もあるなんて。
「そうそう、敵に使われると本当に厄介な技なんです。それに――」
プラムさんは照れくさそうに、ソル君を撫で回している。
「擬態や潜伏のスキルを上手く使えば、町に入るのも容易になると思うんです」
「ミュ!?」
⦅それで、俺に魔素だまりをすすめてくれたのか⦆
本当に、なんて良い子なんだろう……俺たちに気を遣わせないように、立ち回ってくれて。
それに……森に残るにしても町に行くにしても、それぞれに必要な力を与えてくれた。
「スズネさんの擬態は、普通の人にはもはや獣人にしか見えないでしょう。ヒロアキさんも武器や防具になれば、人に悟られることもありません。いざとなれば、人や物の影に潜伏することもできます」
俺たちの頭を撫でながら、プラムさんは二人の顔を交互に見つめる。
「薬草も充分採取できましたし、私はそろそろ町に戻ろうと思います。明日の朝までに、一緒に行くかどうか……お二方で決めておいてください」
⦅あぁ、わかった⦆
「プラムさん、本当にありがとうミュ!」
その夜。俺とスズネは話合って、プラムさんと一緒に町に行くことに決めた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
明日も夜に更新予定なので、ぜひ読みに来てください。
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ヒロアキ
⦅スライム系は人への擬態が苦手なのか……⦆
スズネ
「そんなに落ち込むことないミュ。武器や防具になれるの、すごいミュ!」
ヒロアキ
⦅あぁ。ただ俺は……いや、なんでもない⦆
スズネ
「ミュ?」
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