6-3 ドラゴンと戦おう 3
ハーネリア城城下町北西の空に、黒い点が浮かぶ。
黒点はゆっくりと大きくなっていく。物好きなものたちが空を見ては、あれはなんだと指をさした。
空の点は徐々に翼と尻尾を持つものに変化していく。そして口から地面に向けて炎を吐くところも見えた。
人々がざわつく。多くの人間は、まだあれが災厄をもたらす大空のモンスターだと信じたくない。だがやがて、旅のものたちが青い顔をしてやってきて、赤いドラゴンが地面を焼き尽くしていると叫びだした。
ざわめきは戸惑いに、そして意味のない感情の発露へと変化していく。空の点はいまやはっきりとドラゴンに変わっていた。進行方向に城下町があることは、誰の目にも明らかだった。
ついに人々の感情が恐怖へと変わる。
ドラゴンが災厄を振りまくモンスターだということくらい、誰でも知っている。だからこそ冒険者は一番困難なダンジョンを攻略し、討伐して名を挙げるのだ。それが今、自分たちの元へ向かっていた。
悲鳴と混乱。意味のない叫び。絶望。
そんな市民の頭上に、グリフォンの群れが飛んできた。
赤龍は地表に火を吹きながら飛行していたため、グリフォンは先回りができた。追い抜いて城下町に到着した。
背から下りた異形ものたちは、口々に避難を呼びかけた。逃げるべき方角と場所を教え、助けがいることを伝える。
亜人たちに感じた恐怖は一瞬だった。それよりもドラゴンから降り注ぐ災厄への恐れが上回った。
亜人たちは逃げろと繰り返す。やがて一人の市民が反応した。
示された方角に駆ける。続いて、二人、三人。
やがて雪崩を打って逃げ出した。
動けないもの、老人、子供はグリフォンが背に乗せた。一声鳴くと大空に飛び立ち、カラベルの村へと向かい、戻ってくる。
その頃にはスレイプニルをはじめとする俊足のモンスターたちが駆けつけていた。背に子供らを乗せ。やはりカラベルの村へ。
村ではテラルとリュカが避難民たちを集めていた。一人一人の名を確かめ、親兄弟がはぐれないようにする。そして寝具と簡易なテントを与え、ひとまず近くで野宿をするように言う。避難民の数はどんどん増えていくため、冒険者たちも協力していた。
混乱は大きいものの、ハーネリア城城下町の避難は進んでいく。そしてエヴェリーナたちと、ドラゴンのフジタも到着した。
「ドラゴンに乗ったのははじめてだよ!」
風を切る速度で飛んでいるのと吹きさらしのため、かなりうるさい。オクトバーは負けないように叫んでいた。
「君はこんなのと、いつ知り合ったんだ!」
「城から追い出されてすぐ!」
エヴェリーナも負けないように叫び返す。
「フジタがいなきゃ野垂れ死んでた!」
「それドラゴンの名前!?」
「ええ! 変な名前よね!」
エヴェリーナが指さした。
「いた! あれ、あれ!」
前方には、火炎を吐き続けている赤龍が飛んでいた。
赤龍の首が動く。
「なんか目つきが悪い!」
「前からずっとそうだ」
フジタが答える。エヴェリーナが驚いた。
「知ってるの!?」
「まあな」
赤龍は、自身に接近する古代竜を見つめていた。その瞳が爛々と輝く。
「お前はフジタ! フジタか!」
「久しぶりだなタナカ!」
フジタが吼えるように返事をする。
「くだらない小細工で復活するとは、まったくお前らしい!」
「うるせえ! 俺に冒険者をけしかけたのはお前だろう!」
タナカと呼ばれた赤龍は、地面に火炎を吐くのも忘れ、こっちらに向かってきた。
「あんな岩の中に閉じこめられた俺の気持ちが分かるか!」
「お前が俺と対立しなけりゃ、こんなことにはならなかったぞ!」
「前の世界でもお前に売り上げで負けて、こっちでもダンジョンで負けるのは耐えられないんだ!」
「一緒の世界に飛ばされることはないだろう。ストーカーか!」
「ストーカーじゃねえ、敵だ!」
タナカがフジタに向かって火を吹いた。
フジタは身体を捻り、上昇する。エヴェリーナたちは振り落とされそうになり、慌てて掴まった。
エヴェリーナは大声を出す。
「あなたたち仲悪いの!?」
「そうだ! タナカが俺を嫌ってる」
「前にダンジョンに閉じこめた連中ってのが、あのドラゴンなの!?」
「いや、あれは別だ。タナカは担当していたソシャゲがサービス終了になってから、俺を憎むようになったんだ」
「よく分からないけど、憎むってことは私とシルミナの関係みたいね!」
「だいたい同じだ」
フジタは羽ばたきながら空中で止まる。口から青い炎を吐いた。タナカも火炎を放射する。灼熱が空中で激突し、空を照らした。




