6-1 ドラゴンと戦おう 1
水晶が割れる。
輝きながらひびが入り、粉々に砕けていく。そして破片の向こうに、翼を持つトカゲのような影が見える。
影は急速に大きくなった。長い首、鋭い角、鱗に覆われた身体、巨大な翼がはっきりと分かる。そして尻尾が伸び、鞭のようにしなり、うねっていた。
光が消える。そこには赤銅色の姿をした伝説のモンスターが存在していた。
エヴェリーナは口をあんぐりと開けた。
「……ドラゴン!?」
それは明らかにドラゴンだった。フィーリーも茫然としていた。
「エヴェリーナ様、あれも配置したんですか……?」
「してないわよ!」
広間は大きく、ドラゴン一体くらいなら十分動けるだけの大きさがある。そのためか、天井近くを浮遊し、室内を睥睨していた。
ディロック他値のパーティーも動きを止め、ドラゴンを見上げている。そこに殺意に満ちた瞳が注がれた。
ドラゴンの口が開かれ、真っ赤な炎が顔を見せる。
「危ない!」
思わず叫んだのはエヴェリーナだ。ディロックたちの真上に火炎が放たれた。
ウィンラート兄妹の誰かが魔術を発動したのか、半透明の殻でパーテイーは守られた。だが立て続けの攻撃には到底絶えられそうになかった。
「にっ……逃げろー!」
ディロックが叫ぶ。丸ごと転送されたのだから出口は分からないはずだが、とにかく階段らしきところに殺到した。
「あそこに、あそこにともしびの泉がありますわ!」
シルミナが叫ぶ。どうも実物を見て欲が出たらしい。これはこれで見上げた根性だが、それでドラゴンにはとても対抗できるはずがない。ディロックに引っ張られていった。
「うわあ……あいつ見覚えあるよ」
オクトバーがドラゴンを見て嘆いた。
「俺がとっつぁんたちと一緒に封印したやつだ。赤竜」
「えー!?」
エヴェリーナがまた驚く。ホグレンが言った。
「でかい鉱石に封印したんだがなあ。どっかの間抜けが削って水晶にしちまったのか」
「だからあの銃はあんなに強力だったんだな。撃ち続けることで封印が解けたんだ」
「理屈は分かったけど……わー、こっち向いた!」
エヴェリーナが叫ぶ。ドラゴンの首が向いた。透明になっているはずなのだが、関係ないらしい。
「走りましょう!」
フィーリーの号令で、全員駆け出した。
一瞬遅れてドラゴンの炎が地直前までいたところを舐め尽くす。広間の中央付近まで走ると、エヴェリーナは手のひらの大きさの石板を起動させた。
空気が振動し、祠の裏に戻る。全員、大きく息を吐いた。
「ふう……危なかった」
「エヴェリーナ様、これからどうします? いっそあのドラゴンもはじめからダンジョンに配置したことにしましょうか」
「こっちで具合を確認できないモンスターは危険なのよねえ……ん?」
足元が振動する。
立っていられなくなるほど震えたのち、轟音と共に目の前の地面が跳ね上がった。
まるで火山の噴火のように地面が吹き飛び、土塊が振ってくる。
穴が開いていた。そこから赤龍が飛び上がってくる。上空に舞った。
地底から大空へと舞台を移した赤龍は、日光を楽しむようにゆっくり旋回する。
そして火炎を吐いた。
炎が森林を燃やす。赤龍はいったん止めて息を吸うと、もう一度炎を吐いた。
「うわーっ、なにしてんのよあのドラゴン!」
「おい、あいつ火を吹きながら飛んでるぞ」
ホグレンが指さす。エヴェリーナは首を伸ばした。
「ええっと、あっちの方角は……」
「ハーネリア城だ」
「きゃーっ!!」
このままでは城下町が焼き払われる。どれだけの被害がでるか、想像もつかなかった。
エヴェリーナはクララホルト侯爵領に住む人が嫌いではない。むしろ大好きだ。こっそり城を抜け出してうろうろしていたときに食べ物をご馳走してくれたし、あとで侯爵令嬢だと明かしたときは「知ってた」と言われた。そして同じようにご馳走してくれた。
嫌な人間ももちろんいるが、それも含めて市民だと思う。城で世話をしてくれた使用人たちもそうだ。皆この瞬間を生きるものたちだ。彼ら彼女らの存在があって、エヴェリーナの生活は成り立っていた。
赤龍はそんな人のいるところへ、火炎を振りまきながら飛んでいこうとしている。
「助けなきゃ!」
「どうやりますか」
フィーリーが訊く。エヴェリーナは焦りながらも答える。
「とりあえず鏖竜要塞に戻る! あそこなら頼りになる人がいっぱいいるから、みんなで協力する!」
彼女はグリフォンを呼んだ。待機していたグリフォンは一声鳴くと、皆を背に乗せ全力で飛んだ。




