5-17 妹と対決しよう 6
斬撃と矢が空気を切り裂く音、魔術によって放たれる炎の球。プラチナ1ダンジョン最下層は、戦闘騒音が支配する空間となっていた。
エヴェリーナたちが来たのは最下層の一番奥。つまりダンジョン最強のモンスターと宝のある大きな広間である。今あるのは宝ではなくともしびの泉だが、ディロックたちの目標なのは変わりない。
そこに出たら戦闘場面に遭遇した。
「わっ、もうやってた」
エヴェリーナは急いで、懐からコリーにもらった小瓶を開ける。薄い青の煙が出てきて全員の体を包み、他から見えないよう透明にした。
ディロックと冒険者たちを近道させたのだが、想像以上に速かったようだ。ともしびの泉を挟んだ反対側で、部屋を守護するモンスターと戦っていた。
この部屋のモンスターは腕が六本、足が四本ある青銅製の獣であり、頭にあたる部分がない。腕には剣と棍棒を三本ずつ持ち、胴体は魔法攻撃にも耐えられる頑丈さを誇る。背部には粘土でできた虫が張りついており、必要に応じて飛び降りては攻撃することができた。
最後の敵にふさわしく強大であり、一体で複数の冒険者と戦えるようになっている。パーティーの全員を戦闘に参加させるようになっており、倒したときに達成感を得るように作られていた。
ウィンラートの三人は全員がモンスターに躍りかかっている。だがなにしろモンスターは腕が六本もあるため、余裕綽々だった。胴体にもほとんど傷がついていなかった。シルミナは壁にへばりついて悲鳴を漏らしており、戦闘に寄与していない。
「あのままじゃ負けそう」
エヴェリーナが呟く。ホグレンが訊いた。
「どうやったら倒せるんだ」
「背中の虫が降りたら、そこに登って攻撃するの。あそこが弱点」
「普通の攻撃じゃ無理なのか」
「やればできると思うけど」
冒険者たちの攻撃は効いているようには見えない。腕も胴も強靱で、刃や矢が弾かれている。
「あのままじゃ、ともしびの泉に火をつけるのは無理だぞ」
「どうしようかしら……」
エヴェリーナは悩む必要がなかった。轟音が広間に響いたのである。
◇ ◇
ディロックはなんとかシルミナが帰らないよう説得を続けた。ともしびの泉を二人でともさないと財宝は手に入らず、ダンジョン攻略も認められない。これまでの苦労が水の泡となってしまう。
「せめてここに居てくれないか」
「嫌ですわ。城に帰ります!」
冒険者たちは我関さずとばかり会話に加わらない。休憩の良い機会だくらいにしか思っていなかった。
次の瞬間、目の前の空間に穴が開いた。
空間、としか言いようがない。空気に縦長の裂け目ができたと思った途端、瞬時に広がり、しかも人を吸引しはじめたのである。
「きゃああああっ!」
真っ先に吸い込まれたのはシルミナ。ディロックは吸い込まれてから手を伸ばしたため掴むことすらできず、自分の身体もまた穴へ落ちた。穴は吸引を続けながら回転し、ウィンラート三兄妹も順に吸い込んでいく。
落下の感覚に襲われ、次に冷たい床の感触があった。
ディロックは気がつく。広間に出現していた。天井は高く、空気はひんやりとしている。広間の中央は一団高くなっており、中央に水がたたえられていた。さらに女性をかたどった像があり、広げた両腕は手の部分が燭台になっていた。
「ともしびの泉だ!」
思わず叫ぶ。一緒に落下したシルミナが、これまでのことを忘れて目を輝かせた。
「まあ! あれに火をつければいいんですのね」
「あの穴は先祖の加護だったか!」
そうでもなかった。突然、六本腕モンスターが襲いかかってきたのである。
「きゃああああ!!」
もはや何度目か、シルミナの悲鳴が響く。ほぼ同時に、やはり落下してきた冒険者たちが武器を抜いた。
一斉に攻撃を開始する。だがモンスターは固く、全てが跳ね返されていた。
「ええい情けない! 僕に任せるんだ!」
ディロックは魔炮銃を手に取った。水晶が装填されているのを確認し、構えて狙いをつけ、撃つ。
銃口から魔力の塊が飛び出し、モンスターに突き進んだ。
命中。だが腕に当っただけだ。モンスターは小刻みに移動したり回転しているため、うまく狙いがつけられない。それでも腕の一本がぽっきり折れた。
「見よ! 我が家宝に恐れるものはない!」
いつの間にか家宝になっていたが、興奮したディロックには関係なかった。倒すまで攻撃するとばかりに、引き金を引き続けた。
◇ ◇
「あれやっぱり強力ね」
エヴェリーナは指輪になにごとか呟く。コリーの幻影が出現した。
「コリー、こっちの具合は見える?」
「見てます。監視装置は破壊されていないんですね」
「送り込んですぐ戦闘になったからね」
「私の姿がシルミナたちに見つかると思うんですが」
「戦闘で興奮しているから平気よ。それより、あの武器はどれくらい強いとおもう?」
「魔炮銃ですか。私も文献で読んだだけですが、威力は武器そのものではなく装填されている水晶の魔力によるのだそうです」
「どういうこと?」
「あの水晶には魔物や魔力が封印されているんです。強力なモンスターを倒すには、それだけ強力な魔力が必要になります」
「とすると、六本腕のあいつと互角に戦っているんだから……」
「かなりの魔力ですね」
ディロックは撃ち続けた。流れ弾を喰らいたくないため、冒険者は広く散った。そのためほとんどディロックが一人で戦っているようになった。
「このっ、このっ! ええい、さっさと倒れろ!」
ディロックの絶叫はエヴェリーナたちにも届いた。
広間は絶え間ない轟音に満たされる。ディロックの指は止まらない。何度も何度も撃つことによってモンスターの各部位を破壊していった。
ついにモンスターは崩れ落ち、動きを止めた。
「やったぞ! 僕とシルミナの勝利だ!」
ディロックが叫ぶ。シルミナが抱きつこうとした。
その途端、魔炮銃が基部からぽきりと折れた。
中から装填されていた水晶が転がり落ちる。水晶は回転すると浮かび上がり、全員の頭よりも高いところに浮かんだ。
大きく輝く。同時に、これまでとは比べものにならない振動が広間を襲った。




