5-16 妹と対決しよう 5
「この階層は攻略した」
ウィンラートの長男が報告した。
プラチナ級のダンジョンは複数階によって構成されている。深ければ深いほど攻略には時間がかかる。各所に罠があり、そもそも下層階に降りるための階段を探さなければならない。そのためパーテイーが何日も時間をかけるのもざらだ。
「いったん休息しよう。この階に拠点を作って、別の階に攻略に向かい、随時戻ってくる形にしたい」
ディロックのパーティーは攻略速度が速い。冒険者たちが腕利きなためだ。それでも今後なにがあるか不明なので、慎重さも見せていた。
「もっと速くできませんの」
と言ったのはシルミナだ。ウィンラートの長男は顔をしかめる。
「これでもかなり無理をしている。この下にどれくらいあるのか分からないんだ」
「でもこれまで、罠やモンスターは全て撃退したではありませんか」
「下にあるのはただの階層じゃなくて、別の罠やモンスターなんだ」
「わたくしは一刻も早くこのような場所ではなく、ともしびの泉にたどり着きたいのです!」
シルミナの怒りに、冒険者は口をつぐんだ。
彼女の怒りはディロックにも向けられる。
「どうしてわたくしの味方をしてくださいらないの!?」
「彼らは腕利きだから、意見には耳を傾けて……」
「あなたはわたくしの夫となる方です。結婚したくないのですか!」
「もちろんしたい。そのためにここに来たんだ」
「でしたら向かってください!」
ディロックはためらっている。彼は強力な魔炮銃を所持している。最深部まで一本道なら即座に出発したかもしれない。だが枝分かれした通路は無数にあり、冒険者たちは先へ行くのを拒んでいた。
心情ではシルミナの言うとおりにしたくても、冒険者の態度とかつての経験が歯止めをかけていた。
「うーん……」
「あんまり時間がかかるようでしたら、わたくしは帰ります! 攻略が終ったら呼んでください!」
つんとそっぽを向いた。
この会話を、石壁を挟んだ反対側で聞いていた人物がいた。
「だったらディロックの背中を押してあげるしかないわねえ」
こう呟いたのはエヴェリーナ。彼女はディロックとシルミナの動きをすぐ近くで観察していた。
◇ ◇
鏖竜要塞で一番早グリフォンというヘイラの説明に偽りはなく、かなりの短時間でプラチナ1ダンジョンに到着した。ただあまりに速度が出たため、全員突風に晒されてかなり寒い目にあった。
入り口からは離れた場所に着陸する。古王朝時に作られたという建前でドルルが建設した祠があった。
これは転送装置で、最深部までの攻略が完了するとこの場に移されて帰りが楽になる。それだけでもヘンリだが、ある手順で動かすとここから最深部まで直接移動できた。
「みんな、私の近くに寄って」
エヴェリーナは祠の裏に回り、掘られている溝に指を這わせると、幾度もなぞった。
空気が歪み、瞬時に最下層へ到達する。室内にいたモンスターが動き出そうとしたが、すぐに停止した。
「あいつらはもっと上だよな」
「ええ、だから移動しなきゃ。ここからは歩くしかないけど」
「道を短縮する装置はないのか?」
「あるわよ。そこまで歩くの」
エヴェリーナはオクトバーにそう告げた。
たいした距離ではなかった。石像や壁に彫られた壁画の前で装置を動かしたり呪文を唱えると、上の階に移動する。それを繰り返した。
ある程度まで来ると、ホグレンが耳を澄ませた。
「人の気配がするぞ……隣だ」
皆、なにも喋らず、気配を探ろうとする。
「この石壁の向こうですね……」
フィーリーが呟いた。
「なにか喋っているんでしょうか……」
「聞いてみよう」
エヴェリーナが、これもコリーに持たされた麻袋を取り出した。中にはコップを二つ繋げたようなものが入っている。片方を壁に押しつけた。反対側から、かすかな音声が流れてくる。魔力によって増幅された会話である。音声は小さいが、石壁が厚いので、これが限界だった。
全員で、しばらく会話を聞く。
フィーリーがうんざりした顔を見せた。
「シルミナ様はいつもああで……」
「ディロックもためらっているわね」
「出発したいようにも聞こえます」
「だったら背中を押してあげるしかないわねえ」
エヴェリーナは会話用の指輪の起動させた。しばらく点滅すると、指輪の真上にコリーの幻影が出現する。
「あら、これすごい」
「エヴェリーナさん、なにか大変なことでも起りましたか?」
「私たちが危険な目にあったわけじゃないけど、シルミナがごねだしたから、ちょっと楽させてあげようかなって。ドルルに代わってもらえる?」
すぐに幻影がコボルドに変化した。
「旦那、遠い、面白い」
「あなたの旦那って言葉聞くと安心するようになっちゃったわ。今居るところから、ディロックとシルミナが最下層まで移動できる方法ない?」
「ある、できる」
ドルルは手順を一から説明する。エヴェリーナはその通りになぞった。
「この壁を遠隔からこう操作して、こっちの宝石を寄せて、あそこをこうして……」
次の瞬間、壁にくっつけたコップからは悲鳴ともつかない声が流れてくる。そして止んだ。
エヴェリーナがドルルの幻影に微笑んだ。
「成功したみたい」
「一番下、移動した、旦那も、行くべき」
「もちろん」
先ほど移動したのと逆の手順で、最下層に戻る。
そこではいきなり激戦が繰り広げられていた。




