5-14 妹と対決しよう 3
ディロックを先頭にしたパーティーは道を逸れ、林の中に入った。ここからさらに北へ進むとプラチナ1のダンジョンがある。
林の中に入るには馬車を置いていかなければならない。シルミナはかなりの間、馬車から降りることを渋った。
「服が汚れてしまいますわ」
「着替えなら用意してある。二人でダンジョンに入らないと、なにも手に入らないから」
それでも降りたくないとごねていたものの、結局、ともしびの泉という存在がシルミナの背中を押した。
馬車は御者を残し道の脇に置いていく。馬だけならなんとかなりそうだったので、ディロックは自分の馬をシルミナに譲り、彼は手綱を取った。
「ディロックは紳士的でいらっしゃいますのね」
シルミナにしてみればお世辞はタダだ。そしてディロックもかなり機嫌が良かった。
冒険者が一人先導する。腕利きで地図を読むことにも長けているから、迷うことはなかった。
「このあたりは、恐ろしいモンスターがいると聞きましたが、平和ですのね」
「きっと僕とシルミナの幸福に目が眩んで、襲ってこられないんだよ」
この会話は上空を飛ぶブラウンバットとペンダントのおかげで、小さいながらもエヴェリーナに届いていた。
鏖竜要塞の広間で、エヴェリーナは吹き出した。
「オクトバーが近づけないようにしてるってのに」
モンスターはヘイラによって回収され、しばらくの間隔離される。ダンジョンまでの間、ディロックたちの安全は保証されているのだ。
一行は緩やかな斜面に差しかかる。木々が少なくなり、ごつごつした岩が増えてきた。
やがて岩肌にぽかりと開いた穴が見えた。
「あそこだ」
ディロックが呟く。ダンジョンの入り口だった。
脇には冒険者ギルドによって看板が立てられていた。「プラチナ1」と記されている。
ディロックと冒険者たちは身を引き締めていた。シルミナにとっては自分のギルドを潰したものたちの看板なので、目に入れることすら憎い。
「早く入りましょう」
彼女がうながす形で、ダンジョンの中へと進んでいった。
内部は暗く、ランタンか松明を掲げないととても見えない。そしてこの暗さを利用し、あちこちに監視用の魔具が設置されていた。
エヴェリーナには動きがはっきりと見える。ブラウンバットにつけたものとは違い、暗がりでもかなり明るく視認できた。
緩やかな下りはすぐに終わり、四方が石で囲まれた通路に出る。
「ここは人の手が加わっているみたいだ」
ディロックが呟く。
「恐らく、古代の墳墓かなにかなのだろう」
実際はエヴェリーナがドルルたちと突貫で作りあげたものだ。石や土壁を年季が入っているように見せる作業が大変だった。
先頭の冒険者が止まる。足元を調べると、壁際を歩くよう指示した。
「なんですの……?」
「多分落とし穴だよ」
冒険者が慎重に落とし蓋を上げる。ランタンをかざすと、紫色の液体が底に溜まっていた。
「毒沼だ。落ちたらおしまいだった」
ディロックはシルミナに、「僕のあとからついてきて」と告げた。もちろんこの様子もエヴェリーナは見ていた。
◇ ◇
エヴェリーナはカップに入ったお茶を、ゆっくりすすっていた。大きな鏡には、落とし穴を避けるディロックたちが映し出されていた。
「あれはわざと見つかるようにしてるからねえ」
彼女は独りごちる。落ちた底には毒沼にしようとしたが、引っかからないだろうということで、水に毒々しい色だけをつけていた。
オクトバーたちが帰ってくる。モンスターの追い払いは、さほど面倒ではなかったようだ。
「おつかれさま」
「途中でテラルに会った。村の拡張がしたいって言ってたな」
「大きくするの好きねえ」
「いずれハーネリア城と城下町を整備し直すのが夢らしい」
「シルミナとお義父様がいなくなったらお願いするわ」
ディロックたちが落とし穴を通過し、小部屋に入る。そこは宝箱があり、ダンジョンの地図が収められていた。ただこの地図は偽物である。構造も罠の位置も間違っている。
宝箱を開けたディロックは地図を見て喜んでいた。だが冒険者の一人が首を振り、破いてしまった。
「あらら」
「未練をなくさないように処分したんだ。思い切りがいい連中だ」
「あの冒険者、オクトバーの知り合い?」
「見たことないな」
「わしは知ってるぞ」
ホグレンが斧の汚れを拭き取りながら言う。
「ウィンラート三兄妹だ。王国の東部ダンジョンを攻略していた。かなりできる連中だぞ。ハウベ大公領じゃ一番だろう。一度だけこっちに来たはずだ」
「さすが詳しいのね」
「赤竜を倒して名をあげたかったらしいんだが、もういないって聞かされて帰っていったな。こいつが封印しちまったから」
オクトバーを指す。言われた方は肩をすくめた。
ディロックたちは先を進む。地下墳墓を模したダンジョンは、このあたりから複雑になってくる。彼らが歩く道は、三方向に分岐した。
「さあどうするかしら」
ディロックがなにか言おうとしたが、冒険者の一人が右に行くと決めた。魔術師らしい冒険者が進み出て、なにやら呪文を唱える。正面と左の通路は、蜘蛛の巣みたいな網が張られて塞がれた。
エヴェリーナが感心する。
「やるわね。どこ選んでも、残りの道からサンドゴーレムが出てきて後ろから襲いかかるはずだったのに」
「封鎖して後ろの安全を確保したんですね」
オクトバーの声ではない。見ると、いつの間にか隣にコリーがいた。
「あら。今日は魔術屋にいるんじゃなかったの」
「ハイニーレーンさんが代わると言ってくれました。レザーラさんの店で食事を取りたいのだそうで」
「仲直りしたのね」
「口を聞かずに食事ができるか挑戦するみたいです」
「……意味が分からない」
コリーは「私もです」と答えて鏡に目を戻した。
ディロックたちはさらに奥へと進んだ。そっちには鎧をまとった骨装兵が複数体いるはずだった。




