1-3 ダンジョンの作り方 1
案内されたのは、先ほどの広間よりは狭い空間であった。ただ天井は同じくらい高く、扉もドラゴンが通れるくらい大きい。
入った途端、エヴェリーナは目を細めた。
部屋の大半を、煌めくような宝物が占めていた。金や銀。名前も知らないような剣に甲冑。王族の頭や首を飾る宝飾類。文字通り宝の山であった。
「すごーい!」
「だろう」
ドラゴンは誇らしげだ。エヴェリーナは極端なほど顔を輝かせていた。
「これ使い放題なの!?」
「ちょっと違う。全部ダンジョン内に設置するものだ。あれが分かるか」
宝物の中に、木製の箱がある。
「箱の中に収めて、ダンジョンの最深部に配置する。人間たちはあれ欲しさにダンジョンまでやって来るというわけだ。無論、噂も流すぞ。さきほどのオーガを見ただろう。彼らが焚き火を囲んでダンジョンと宝の話題を出す。立ち聞きした冒険者が酒場で噂を広めるというわけだ」
「なーるほど」
エヴェリーナは感心した。ダンジョンに隠された宝物の話は、何度も聞いたことがある。こうやって作られていたのだ。
「じゃあさっそく、宝を置くことにして」
「そう急くな。手順がある」
ドラゴンは隣室の扉を開け、彼女に入るよううながす。
内部はやはり広い。しかも騒がしかった。木材や金属の塊が置かれ、工作用の台の上では、鎚や鋸が振るわれている。
それらを扱っているのは、背の低い亜人たちであった。
「わっ、コボルド」
「オーガと同じく雇っている。手先が器用だから、こうやってダンジョン内の仕掛けを作らせているのだ」
「ただ働き?」
「もちろん賃金は払う」
一人のコボルドがこちらに気づくと、首を傾げ、ドラゴンを見た。
ドラゴンはエヴェリーナに理解できない発音で、なにごとか告げる。コボルドは納得し、小さく頭を下げた。
「あの男がこの部屋の長だ。お前のことを説明しておいた」
「じゃあ私のために仕掛けをこさえてくれるのね。罠も作り放題。うふふ」
質の良くない笑みを浮かべるエヴェリーナ。ドラゴンが不安そうな顔をする。
「一応作法というものがあるぞ」
「別にいいじゃない。そういえば……」
彼女は、不意に思い浮かんだことを質問した。
「どうしてこんなに宝とか素材を手に入れたの?」
「苦労した。まず集めるところから始めねばならんからな」
「そもそもなんで、こんなダンジョン作ってるのよ」
「それはな」
ドラゴンは口を開いたが、すぐに閉じた。
思案するように、紅玉の瞳を左右に動かす。
「……ま、いずれ話すこともあろう」
「なによ」
「とりあえずダンジョンを作ってみるぞ」
「ここだってダンジョンよね」
「舞台裏だから人間に見せたりはしない。我々が迷わないように案内もある」
よく見ると、壁に地図が貼ってあった。これがあれば外に出るのも簡単そうだ。
コボルドが話の切れ目を見はからい、ひとつのスコップを持って来る。エヴェリーナに渡した。
「ただのスコップじゃない」
「魔法のスコップだ。土や岩肌、人工物でなければ砂を掘るよりも易く穴を穿つことができる」
「え、自力で掘るの」
「使われなくなったダンジョンを再利用するやり方もあるが、いちから経験するべきだと思ってな」
「任せて」
彼女はスコップを担いだ。
「ちょっと行って掘ってくる」
「慌てるな。ダンジョンの作法というものを……」
「作ってしまえばいいのよ!」
ドラゴンが止めるのも聞かず、エヴェリーナは部屋を飛び出していった。