5-11 妹と対決しよう 1
ゲキャとオクトバーたちは、各地のダンジョンを攻略し、満足して帰還した。
「冒険者というのは楽しいものだな」
ゲキャはパーティーのゴブリンたちと共に、満面の笑みを浮かべていた。他の亜人たちも次々に攻略しては鏖竜要塞に戻ってくる。難易度表示の看板を立てるのも、抜かりなくおこなっていた。
オクトバーたちは難しそうなところを狙って攻略を繰り返した。途中で断念して引き返すパーティーや、ダンジョン内で取り残されてパーティーと遭遇することがあり、手助けすることで冒険者ギルドにも入会してもらうという、思わぬ効果もあった。
正しい難易度付けとカムバックキャンペーンのおかげで、冒険者ギルドは再び登録者が増加していった。同時に新冒険者ギルドの苦境も伝わってきた。
「まあ、長くないわね」
エヴェリーナの予想通り、新冒険者ギルドはならずものたちの騒動に巻きこまれ、長期閉鎖の憂き目を見ることになった。実質廃止である。
「さすがだな」
聞いたドラゴンは笑っていた。
「妹を破滅に追い込むとは、悪役令嬢っぽいな」
「まだね。この程度でシルミナが諦めるとは思えない」
だがシルミナは目立った動きをしなかった。そのためエヴェリーナは、冒険者ギルドの経営に専念することができた。
「ようやく人が見つかりました!」
ある日、徹夜続きで目を血走らせたリュカが報告した。喜んでいるというより殺気立っており、エヴェリーナはつい身を引きながら返事をした。
「よ、よかったわね……。どういう人?」
「シュレーニンさんです!」
「それって……森林を管理してるエルフ?」
「週の半分は手伝ってくれることになりました」
「エルフって客商売上手なの……?」
「ハイニーレーンさんもできるんですからできます。これで完璧です。冒険者ギルドは無敵になりました! どんな敵とも戦えます!」
仕事量と喜びのため感情が高ぶりすぎ、訳の分からないことを口走っている。エヴェリーナは「あとで食べ物と飲み物を運ばせるから、ゆっくり休んで」と告げた。
当のシュレーニンは極めてのんびりしていた。
「まあ、木ばかり見てるのもなんだからね。たまには生き物とも触れあいたいと思ったんだ」
「お金の勘定とかできる?」
「200年前は結構やっていた」
人間とは根本的に生き方が違う。忘れていなければ大丈夫だろう。
クララホルト侯爵領の情報も入ってくる。一連の騒動で財政は極めて厳しくなり、このままでは冬を越せなくなるのではとの噂まであった。クララホルト家は必死に隠そうとしているものの、自然と情報は漏れる。イーレイが市場で聞いたところによると、それまでに比べてハーネリア城の食料購入量が少なくなり、質も落ちている。財政の悪化以外に考えられなかった。
ハウベ大公の援助は元々新冒険者ギルド向けだったので、侯爵領には適用されない。かつては王国の藩屏として権勢をほしいままにしたクララホルト侯爵家も、どこまで落ちぶれるのか分からないと噂されていた。
「自暴自棄になったシルミナが、カラベルの村に攻め入ってくる可能性はないのか」
ドラゴンはそんなことを言っていたが、エヴェリーナは落ち着いていた。
「兵を雇い直すほどお金ないわよ」
「借金するんじゃないか」
「もう冒険者ギルドは私たちのところしかないのよ。ここを滅ぼしたら全冒険者を敵に回すことになるわ。いくらシルミナでもそこまで愚かじゃないでしょう」
彼女の言う通り、冒険者ギルドはすでに権威として確立されつつあった。冒険者はギルドによる難易度付けを信用しており、初心者は助言を求める。装備を預かる貸し倉庫も建てられ、いずれは専用銀行も予告されていた。
王国の各地からは、支部設立の要望も届いていた。これはエヴェリーナも考えていたことだったので、早急に実現しようと計画を練りはじめた。
そんなある日、オクトバーが、鏖竜要塞までエヴェリーナの様子を見にやってきた。
「エヴェリーナ、聞きたいことがあるんだ」
「レザーラとハイニーレーンのこと? あの二人仲良くやってる?」
「……俺がそんなこと相談すると思ってるんだ……」
「相談しなくても顛末だけ知りたい」
「君、同じ立場だったら君に相談する?」
「しない」
「だろう。だから別の質問だよ。ここの北に新しいダンジョン作ってなかったか?」
鏖竜山脈の北部のことだ。北側はなだらかな斜面になっており、小川がファブの森に流れ込んでいる。
「ああ、あれね。こないだドルルたちと作った」
「やっぱり。あのあたりは前に行ったことあるんだが、こんなとこにダンジョンあったかって思ったんだ」
「内緒にしてたから」
「難易度の設定は」
「プラチナ1にした」
オクトバーが驚いた。プラチナ1は最高の難易度である。
「並みの冒険者じゃ先に進めないぞ。設定だけしておいて、立ち入り禁止にするのか?」
「まだあなたたち以外にプラチナ等級はいないんだから、普通は入ろうとは思わないでしょうね」
「じゃあ普通じゃないのがいるってことなのか」
「いるっていうか、おびき寄せるのよ」
エヴェリーナは意味ありげに微笑む。
そのダンジョンに、ハウベ大公子息ディロックのパーティーが向かったとの噂が流れたのは、しばらくたってからのことであった。




