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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第五幕 悪役令嬢は妹を嵌める
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5-10 財布にダメージを与えよう 3

 ゲキャとオクトバーは協力して、いくつもの冒険者パーテイーを作りあげた。その上でハイニーレーンが幻影の魔術をかけ、一般的なパーティーらしくする。装備品は鏖竜要塞から直接供給された。

 同時に冒険者ギルドに出戻った冒険者と初心者のための物品が用意される。初心者の助言役はリュカとターメイア。リュカは増加した仕事量に目を回しそうになり、エヴェリーナは何度も頭を下げた。

 まずはハイニーレーンのパーティーが新冒険者ギルドにおもむき、壁に彫られたダンジョンの場所を一つ残らず記録し、鏖竜要塞に伝える。コリーの開発した石榴石ガーネットの指輪は文字の転送能力があり、大いに力を発揮した。

 ダンジョンの場所が知らされると、パーティーは猟犬のように放たれた。武器防具以外にも看板とチラシを携えている。これらは武器以上に役立つものだった。

 オクトバーたちは場数を踏んでおり、亜人たちは身体が強靱だ。多少の罠などものともしない。それでも困難なダンジョンは、いくつものパーテイーが共同して攻略していく。

 こうしてダンジョンには、それぞれに適切な難易度が記されていった。


「少しずつ、冒険者たちが戻ってきるみたいです」


 フィーリーがエヴェリーナに言った。彼はギルドの経理を担当している関係上、人数も把握している。


「そろそろ効果が出てくるはずよ」

「僕たちはカムバックキャンペーンをやっても、お金はあげないんですよね」

「お金だけ目当てにする人はちょっとね。いくら登録をしっかりしても、シルミナの失敗をこっちでやりかねないし」

「シルミナ様のところはハウベ大公が後ろについているって聞きました。だからお金をあんなに使えたって」

「そういえば、向こうで聞いたかも。じゃあディロックもいるはずね」


 エヴェリーナはしばらく考える。

 無言の時間が続いたので、フィーリーが心配になって声をかけようとする。だが彼女は突然「ドルルに会ってくる」と言い残し、鏖竜要塞へ向かった。


 ◇   ◇


「おかしいわ……」


 ハーネリア城の自室で、シルミナは何度も呟いた。

 彼女は毎朝、新冒険者ギルドに登録される冒険者の数を確認していた。増えれば増えるほど、エヴェリーナの冒険者ギルドに打撃を与えたことになる。膨大な費用がかかるが、それはディロックが負担しているから問題にならない。増加する数値を眺めるだけで、一日中上機嫌になれた。

 それがどうもおかしい。冒険者の数は確かに上昇している。なのに城下に流れる新冒険者ギルドの噂が、どうも芳しくないのだ。

 彼女は兵たちに噂を収集させていた。最初は「新冒険者ギルドは気前がいい」ということで、評判は上々だった。それが徐々に「あそこで教えてくれるダンジョン攻略しづらい」との噂が増えていき、やがて噂そのものがなくなった。

 なのに冒険者の数だけは増加が止まらない。これはどういうことなのだろう。

 不思議がっているところにディロックがやってきた。


「シルミナ、いいかな」


 顔色が冴えない。もっとも最近の彼は両方の親族から「次はしくじるな」と圧力をかけられているため、常に具合悪そうにしている。


「父から聞いたんだけど……」


 言いにくいらしく、小声だった。


「新冒険者ギルドにとても金がかかっているらしいんだ。そろそろ控えて欲しいと叱られた」


 なに弱気なことを、いつまでも子供でいるんじゃないと言いかけて、シルミナは言葉を飲み込んだ。代わりににっこり微笑む。


「ディロック……ギルドは費用がかかるものです。最初にお伝えしたではありませんか」

「でも冒険者より、登録したときに渡す金が多いみたいだ」

「そんなことありません。登録者の人数はずっと増えています」

「父の部下がギルドの本部で数えたんだ。同じ人が登録を繰り返しているみたいだって」

「なんですって!?」


 いつものおしとやかな仮面が剥がれかかった。

 ディロックが説明をする。本部にやって来る自称冒険者を全て受け入れているのと、確認作業を怠っているため重複登録し放題だった。そのため何日も本部に通い詰めで、大金を稼ぐものが千単位でいる。この方法は広範囲に広がっており、王都からや他の貴族領からも貧民が押し寄せていた。

 新冒険者ギルドの運営費はディロックのハウベ大公家が七割を負担していた。そのため、まずディロックの父親が気づいたのであった。

 シルミナはなんとか平静を装うとした。


「そ……それくらいハウベ大公家なら、なんということないでしょう」

「我が家は慈善家ではないと言われたよ。このままだと僕たちの婚姻にも影響が出てしまう」


 再びの婚姻が決ったわけではないが、大公家との繋がりを失うのはまずい。領地からの収入はクララホルト侯爵家よりも大きいのだ。

 召使いがやってきた。城に古くからいたものたちは自ら辞めるかシルミナが追い出したため、あらたに雇い入れた一人だった。

 シルミナに大きめの紙を渡すと、召使いはすぐに退出した。

 彼女は文章を読むや、驚愕で気が遠くなった。

 新冒険者ギルドからの、緊急の報告書だった。各ダンジョンの入り口に看板が置かれ、新しい難易度が記されている。それだけならいいのだが、実情に即していたため非常に正確だった。冒険者たちは今まで騙されていたと知り、続々と冒険者ギルドに鞍替えしているというのだ。

 ダンジョンまで攻略におもむくのはまともな冒険者である。なにしろ大半は繰り返し金を受取っているだけなのだ。まともなものがいなくなっては、もはやギルドとは言えなくなる。


「……このような不快な報告書なんて!」


 召使いを叱責しようとしたが、姿はすでにない。とばっちりを避けたいのかディロックは離れたところにいた。

 慌ただしく、父のグロームがやって来た。


「おおシルミナ、こんなところにいたのか」

「お父様、どうかなさったのですか」

「城下に薄汚れた身なりのものが大勢押し寄せている。お前のギルドが受け入れているぞ」

「兵を出して、すぐに排除してください」

「向こうの方がずっと数が多いのだぞ」

「我が家には古くからの兵士たちもいるでしよう」

「お前がほとんど解雇したではないか」


 絶句するシルミナ。

 押し寄せてきたものの中には、いわゆるならずものも多く含まれている。彼らは金を貰うと飲み、暴れ、蕩尽するとまたギルドで登録して金を受取った。さらには他人の金を狙うべく、ギルド本部の前で待ち伏せて襲いかかるなどの強盗行為を働いていた。


「城下の治安が悪化しては体面にかかわるぞ」

「ですがお父様、わたくしのギルドを閉鎖するわけにはいきません。なんとか冒険者ギルドを潰すまでには……」

「我が家が潰れてしまうぞ!」

「でしたら軍を冒険者ギルドに送って焼き払うのも」

「だから兵がおらんのだ!」


 シルミナに打つ手はあまり残されていない。彼女は顔を歪ませると、絞り出すようにして声を発した。


「では……新冒険者ギルドで、お金をこちらから出すのを止めます」


 グロームは「すぐやれ」と言い残して出ていった。

 困難はそれからだった。金をもうもらえないと知ったならずものが、それでも寄越せと暴れ出したのだ。ハーネリア城に残った数少ない兵を出して鎮圧に当らなければならない。しかも数に差がありすぎるため、ならずものはなかなか大人しくならなかった。

 結局シルミナは、ハウベ大公家から兵を借りることになった。

 だがハウベ大公領は離れたところにある。兵が到着するまでに時間がかかり、ならずものたちは暴れるだけ暴れた。到着してからはさすがに鎮圧まで早かったものの、城下のかなりの面積が焼けるか破壊されるかしていた。

 ようやくシルミナはほっとしたが、ハウベ大公は兵を動かすのに使った費用を請求してきた。新冒険者ギルドはハウベ大公家のものでもあると抗議したが、それとこれとは別物らしい。

 兵の派遣費用だけではなく、ハーネリア城下の再建にも莫大な金がかかる。クララホルト大公家の財政は、見る見るうちに傾いていった。


「ああ……どうしてわたくしはこのように不幸なのでしょう……!」


 シルミナはさめざめと涙を流す。普段は演技によって泣くのだがこのときばかりは本気だった。


「エヴェリーナの残した悪行の後始末をしているだけというのに……!」

「これは言うべきか分からないが……他の貴族たちが喜んでいる。自領のならずものがみんなこっちに移動して、しかも捕まったんだから」

「慰めにもなりませんわ!」


 不幸を押しつけられただけである。今そんなことを言い出すなんて、どれだけ頭が悪いんだこの男はと思った。


「お父様に、我が家はお金がなくなってきたと言われました。このままでは王室の舞踏会にも出られません」

「うちも厳しくなってきたけど、まだ余裕はある。どうだろう……僕とシルミナとで早めに結婚しないか」


 シルミナは涙を拭きながら、ディロックを見た。


「どういうことですの」

「ハウベ大公家とクララホルト侯爵家が一体となれば、財政も安定すると思うんだ。それが一番いい」

「ええ……そうですわね……」


 口では言ったものの、気が進まない。ディロックよりもいい貴族がいるのではとの望みが捨てられないのだ。

 だがならずものの争乱があったせいで、クララホルト侯爵家の評判は悪化の一途を辿っている。貴族の子弟は露骨に避けるようになってきた。選り好みをしていられない。


「そうですね……すれ違いもありましたけど、、結婚いたしましょう」

「おおシルミナ、分かってくれたんだね!」


 無邪気に喜ぶディロック。

 だがシルミナには気になることが一つあった。貴族の婚姻にはダンジョンの攻略が必須である。今度のディロックはどこに行くつもりなのだろうか。


「僕に考えがあるんだ」


 ディロックは自信満々に告げた。

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