5-9 財布にダメージを与えよう 2
カラベルの村へ帰還すると、リュカが出迎えてくれた。
「お帰りなさいエヴェリーナさん。やっぱり城下町は人がいっぱいいました?」
「? そりゃそうだけど」
「受付できるくらいの人もいましたよね?」
「いえ……探さなかったわ」
「なんでですか! 探してください!」
「で、でも頼まれなかったから……」
「あの受付募集のチラシ、もう何日も貼りっぱなしなのに、いい人が面接に来ないんです! なにがなんでも探してください!」
「リュカの望みが高すぎるんじゃないかしら」
「高くしてるのは誰ですか」
明らかに仕事量のことを言っているので、エヴェリーナは「ちゃんと探すから」となだめた。
一緒に帰還したオクトバーたちは、酒場でひと休みしていた。エヴェリーナは自分も牛乳を飲んだ。
「休息したら鏖竜要塞に行ってくれる?」
「いいよ。またダンジョンの試作?」
「もっと他のこと」
エヴェリーナ自身は牛乳を飲み干すと、またリュカの元へとおもむいた。
「もう受付探したんですか?」
「まだ。それよりこれ鑑定に出してもらえる?」
宝箱に入っていた水晶を見せた。リュカは受取って光に透かす。
「高価そうですけど……こういうのは見たことありません」
「リュカも鑑定できるようになったの?」
「宝物をいくつも見ているうちに、覚えちゃいました」
彼女は奥へ持っていく。そこにドルルの部下のコボルドがいて、宝の見極めをやっていた。
すぐに戻ってきた。
「見覚えがないそうです」
「そりゃそうよね」
「どうしましょう」
「いいわ、あたしが持ってる」
水晶をポケットに戻した。
グリフォンを使って鏖竜要塞へ帰る。土と金属の匂いが妙に懐かしく、安心感がある。すっかり実家同然になっていた。
最初にドラゴンに会う。そこで自分の計画を話した。
「なるほどな。やってみるといい」
「こんな目にあうなんて、シルミナったら本当に性格悪いんだから」
「俺も似たような目にあった」
次にノームに会う。ここでは冒険者ギルドのチラシを大量に刷るよう頼んだ。今までのものとは違い、文言が追加されている。
最後はドルルだ。ゲキャや、亜人たちの長を集めるように告げた。
「旦那、なにか、物騒」
「本当に物騒になるのはこれからよ」
一番大きい広間を使った。亜人たちの長がずらりと並ぶ。カラベルの村から戻ってきたオクトバーたちもいた。
エヴェリーナは皆に聞こえるよう、声を張り上げた。
「もう知ってる人がいるかもしれないけど、商売敵が出たわ」
特に驚きの声はない。知っていたようだ。
「商売を真似るのはいいの。本当は良くないけど、止める法はないわ。だけど連中は私たちが苦労して作ったダンジョンまで自分たちのものにしてるのよ。これは許せない」
これには怒りの声が上がる。彼らには自分たちが作ったものだという自負がある。それをないがしろにされて怒っているのだ。
「みんなの怒りは当然ね。対抗策を考えたわ」
「旦那、あいつら襲うか」
「あたしも一瞬考えたけど、大戦争に発展するわ。そうじゃなくて、もっと穏やかにやりましょう」
「どうする」
「いい。あなたたちはダンジョンのことを良く知ってるわ。特に作ったところなら知らないことなんてないでしょう」
「旦那、設計した」
「ありがとうドルル。あなたたちには私たちのダンジョンの入り口に、これを貼って欲しいのよ」
彼女は冒険者ギルドのチラシを掲げる。
「今冒険者ギルドに入会すると、ダンジョン攻略のための手引きがついてくるわ。それと薬草や食料。あとどんな武器防具が必要か助言もするの。これはあとでリュカとターメイアお願いする」
また怒られそうだと、彼女は心の中で謝った。
「入り口には看板も立てる。大きくダンジョンの難易度を表示するの。看板には冒険者ギルド認定ダンジョンって印もつける。あとダンジョン最深部の宝箱の中にもチラシを入れて。攻略済みのところよ。攻略されていないところにあるのは変だからね。最深部に到達した新冒険者ギルトの冒険者は、体感で難易度が適切だって分かるはず。そしてチラシを見るのよ。これで心が動くわ」
今度はオクトバーたちを見る。
「幸いあたしたちには頼りになる冒険者がいる。オクトバーたちはパーティー組んで、新冒険者ギルドにあるダンジョンを片っ端から攻略して欲しいの」
「結構数があった。時間かかると思う」
「だからオクトバー、ホグレン、レザーラ、ハイニーレーンがそれぞれパーティーリーダーになって、パーティーを組んで欲しいのよ。こっちも数で勝負する」
場が少しざわつく。ホグレンが発言を求めた。
「ギルドの他の冒険者にも頼むってことか?」
「いいえ。うちの冒険者はあくまでお客様。こういう舞台裏を見せることはしたくない。ゲキャ、あなたの部下を貸して」
「構わないが、俺たちゴブリンが冒険者になるのか」
「そうよ」
当然だという風に答えた。ざわめきが大きくなる。
「そのへんを歩くだけで、俺たちを見た人間が攻撃してくるぞ。あいつら見た目でしか判断しない」
「そうね、人間って愚か。だからハイニーレーンは魔術で人間っぽい外見にして欲しい」
エルフの女性は軽くうなずいた。
「なるべく長持ちする魔術をかけます」
「ゴブリンだけじゃなくて、オークだろうとコボルドだろうとトロールだろうと、誰でもいい。冒険者になってダンジョンを攻略して。たまにはそっち側に回りましょう」
「そりゃいい。やろう」
ゲキャの顔が輝いていた。
「いっぺんやってみたかった。おい、他にいるか!?」
広間のあちこちから手が上がる。かなりの数にのぼった。オクトバーが見回しながら言う。
「俺たちだけじゃパーティーが足りないな」
「じゃあパーティーリーダーも募るわ。ゲキャに頼んでいい?」
「いいとも。パーティーリーダーのうちの一人は俺だ」
「調整は任せるわ」
またホグレンが発言した。
「コリーはどうするんだ」
「魔術と魔具に専念して欲しい。冒険者ギルドには他にないものがあるって、たくさん示したいから。もちろん武器と防具もね。チックス、頼むわ」
隅で聞いていた鍛冶職人は「やります。任せてください」と答えていた。
「ここからが肝心よ。攻略したらダンジョンの入り口に看板立てて欲しいの。本当の難易度と冒険者ギルドの印入りをね。それからこのチラシも貼る」
色刷りされた綺麗なチラシを見せた。
「あたしたちの冒険者ギルドからあっちに移ったのも結構いるはず。向こうを辞めて戻ってきたら、新しい魔術、武器、防具のうちひとつをあげるってことにする。カムバックキャンペーンよ!」
広間のざわめきは、今までで一番大きくなった。
レザーラが訊く。
「カムバックキャンペーンってなに……?」
「ドラゴンが言ってたんだけど、戻って来いって意味らしいの。ソシャゲとかネットゲーム……ってのがなんだか分からないけど、とにかくそういうところでおこなわれて、効果的らしいわ」
ドラゴンのフジタに教えてもらったのだ。ドラゴンは「こういう企画をよくやった」と感慨深げに述べていた。
「適切な難易度と報酬。さらに勧誘。これをはっきり示せば、必ず冒険者はあたしたちのところに帰ってくる。そして向こうしか知らない冒険者もいただくの。これで勝利はあたしたちのもの! 気合い入れてやるわよ!」
エヴェリーナは拳を振り上げる。あちこちから賛同の声があがり、広間は耳をつんざくような喧噪に満ちた。




