5-8 ライバルを探ろう 5
市場まで行き食料を買込んで、いざダンジョンへ。先ほどのパーティーによると、城下町の南方向にあるとのことだった。
今日は天気はいい。空気は澄んでおり、遠くまでよく見えた。エヴェリーナはこのあたりを訪れたことがなく、興味深げに見回していた。
「私たち、こっちにはダンジョン作ってなかったわね」
「ということは、元からあるダンジョンね」
レザーラがひとりごとのように言った。
「人と物資は本部を作るのに投入して、ダンジョンまで手が回っていないはず。既存のダンジョンに難易度つけたのね」
「あらかじめ人をやって確認してるのかしら」
ダンジョンの入り口が見えてきた。
森林の中にある、朽ち果てた神殿だった。わずかに残っている柱の文様から妖王朝時代のものと分かるが、これはドラゴンがでっち上げた時代である。実際に神殿が建てられたのは、かなり近い時代のはずだ。
神殿の入り口が地下への階段となっていた。レザーラが進み出る。
「私が先に行くわ」
彼女は元レンジャーで、未知の場所では常に斥候を務める。危険な役目であり、負傷も多かった。
ハイニーレーンが小声で呪文を唱える。手のひらほどの光球が出現し、レザーラの前を照らす。歩くと一緒に移動した。
「どうも」
「いえ」
二人の間で素っ気ない言葉が交される。
階段が下まで続いていた。その先に小部屋がある。
天井の低い部屋だ。警戒したがなにもない。木箱がいくつか壊されているが、これは新冒険者ギルドの外で出会ったパーテイーが探った跡だろう。
反対側の壁には扉が二つあった。レザーラが呟く。
「右か左か……」
「左にしましょう」
ハイニーレーンが答える。
「前に右を選んで後悔しました」
「私は後悔してないけれど」
「レザーラは残りましたからね。私はそのためにパーテイーを離れました」
「止めたでしょう。フェイニレンが偽名だと知ったときは腹が立ったけど、それでもあなたにいて欲しいと言った」
「離れた方が良かったのです。あのときは」
二人の会話がよく理解できず、エヴェリーナは首を傾げていた。オクトバーは所在なげにしている。
彼をつついた。
「あれ、あなたのこと?」
「どうしてそう思うんだ」
「他になにがあるのよ」
「俺だけのことじゃない。ずっと冒険を続けていれば、入れ替わりだって普通にあるだろ」
「嫌なことだったの」
「避けられないことだったんだよ」
「ふーん、もてるのね」
適当な言葉だったが、オクトバーが目に見えて動揺したので、やはりこのへんかと思った。
レザーラとハイニーレーンは相手を無視したり邪魔したりはしない。むしろ協力している。このあたりは腕利きの成せる技で、割り切りがきっちりとしていた。エヴェリーナはそれらを興味深く眺めており、居心地が悪そうなのはオクトバーだけである。
左の扉を開ける。やはり通路だった。
平らな石が敷き詰めてあり、先は左方向へ湾曲している。そのため見通せなかった。
光球がふわふわ浮かんで照らす。一行は進んだ。
突然、両側の壁が崩れ、土でできた人形が二体出現した。人間を模しているが、顔に当る部分に目鼻がない。両腕に長大な剣を持っていて、襲いかかってくる。一行を挟み撃ちにした。
オクトバーが叫ぶ。
「レザーラ、右!」
彼は左の土人形を相手にした。流れるような動きで腕を切り落とすと、続いて胴を両断する。
が、土人形は動きを止めない。それどころか切断面から新しい部分が生え、身体を増やしていた。
「おっと、こいつは面倒だ」
同時にオクトバーは頭を下げる。その後からハイニーレーンの放った魔術が飛んだ。
命中。土人形が白く煙る。全ての土人形が、同時に凍りついた。
右側でも土人形は動きを止めている。レザーラの放った矢が壁に縫いつけていた。
エヴェリーナは感心した。
「さすが腕利きは違うわねえ」
レザーラがにこりとする。
「褒められると嬉しい」
「あたしが作ったダンジョンでは怪我していたのに」
「油断したのよ」
またレザーラが先に立ち、奥へと進んだ。
行くにつれて罠が増えていった。落とし穴や吊り天井。触れると石になってしまう氷柱。ただの貨幣に見えるが触ると全身が金属になる呪いの硬貨。真っ直ぐ歩いているように見えて同じところを周回する脇道など、多種多様だ。
主にレザーラが罠を解除していった。ときおり壁に偽装した植物や腐った狼などが攻撃してくるものの、それらはオクトバーとハイニーレーンが対処した。
エヴェリーナはというと、罠やモンスターを全部記録していた。
「参考になるものもあるからね。あたしたちのダンジョンにも組み入れようかって」
「見上げた管理人っぷりだな」
オクトバーが呆れる。
「でもこの罠って、全部年季が入っているわ」
エヴェリーナは足元で解除された罠を確認していた。床の一部が動くことで、毒の沼が出現するようになっていた。
「金属のところが錆びてるし、沼の毒も半分くらい目減りしている。仕掛けたあと、ずっと放置されていたのよ」
「誰が作ったんだ。君のとこのドラゴンか」
「帰ったら聞いてみないと」
またモンスターが出現する。今度は空を飛んで不快な音を発する壺だった。催眠効果があり、長時間聞いていると仲間同士で斬り合うことになる。
これはレザーラが手際よく撃ち落とした。
「さすがね」
「ここらの罠もモンスターも、とても初心者向けじゃないわね。相当場数を踏んでいないと引っかかる」
「私たちのダンジョンならどれくらい?」
「ゴールド1ってとこかしら」
エヴェリーナは驚いた。
「そんなに? あなたたち簡単に倒しているじゃない」
「そういう役目だから」
「さっきのパーティーが疲れ切ってるわけね。こんなところを初心者用にするんだから、やっぱり誰も中を確認せずに格付けしたのね」
「壁に書いてあるダンジョンの数がやけに多かったけど、多分ひとつも確認してないわね」
「あたしたちは試作のダンジョンまで作っているってのに」
会話の最中でもレザーラは弓を下ろさない。油断なく目を配っていた。
「奥まで行く?」
「もちろん。最後まで踏破するのが冒険者の使命よ」
四人はさらに進む。さすがに慎重になり、歩く速度は遅くなった。
その代わり、罠にはひとつも引っかからず、モンスターの奇襲も受けなかった。かなり強いモンスターもいたのだが、オクトバーたちが即座に倒した。エヴェリーナは覚えた魔術を使う場面がほとんどなかった。
最後の部屋には歯車で動作する巨大な虎がいた。これもハイニーレーンの魔術とオクトバーの一撃で粉砕された。
円形の魔方陣の中から宝箱が出現する。レザーラが慎重に開けた。
中には金貨が数枚と、王冠が入っていた。
「妖王朝時代のものだ……」
オクトバーがつばを飲み込む。むろんドラゴンが作らせたものだろうが、歴史そのものを作っていたことまで彼らは知らない。エヴェリーナも黙っていた。
その下に、宝石が落ちていた。
非常に透明な水晶だった。台座に嵌められているわけでもなく、剥き出しだ。
「王冠についていたものかしら」
エヴェリーナは確認したが、王冠にはすでに宝石がいくつも嵌め込まれていて、穴も隙間もない。
これはカラベルの村に帰ってから鑑定に出そう。そう考えてポケットにしまった。
地上に戻るのは簡単だった。最後の部屋から地上に通じる縦穴があったのだ。ただ梯子のたぐいがなかったので、ハイニーレーンが魔術で円盤を出現させ、その上に乗って地上まで戻った。
新冒険者ギルドまで帰還する。あのパーティーはまだ本部の裏手で座り込んでいた。
エヴェリーナは年かさの男に金貨を渡す。
「場所教えてくれてありがとう。これ、情報料」
「攻略したのか!?」
「まあね」
「あんたらすげえな。俺たちももっと別のところにしてけば良かったよ」
「あんないい加減な難易度じゃ危ないわよ」
「星相応のところもあるって噂だ」
「よければあんなギルド辞めてこっちに来て。ダンジョンの難易度も正確だから」
カラベルの村までの地図と、冒険者ギルドのチラシも渡した。
新冒険者ギルドの本部に入ったが、相変わらずの人混みだ。重複登録者が押し寄せている。
「これじゃ攻略報告できないわね」」
「報告する義務もないみたいだ」
オクトバーが言う。冒険者ギルドにはある攻略者一覧がどこにもなかった。
レザーラが壁に掘られたダンジョンの場所をじっと見つめていた。
「ねえ……ここのダンジョン、星が一つになっている」
「さっきのとこ?」
「いいえ。こっちのダンジョンが星二つで、こっちは三つ。どれも妥当な難易度よ」
「どうして分かるの」
「私たちのブロンズとシルバーだから」
どういうことだと思い、一緒になってダンジョンの場所を確認した。
確かにそうだ。エヴェリーナとドルルが頭を捻って考えたダンジョンが記されており、難易度も同じなのである。
「あたしたちのを盗用したのね!」
「さっきの人たちが妥当なのあるって言ってたけど、これね」
「あたしたちの使って楽しようなんて、いい度胸じゃない!」
「どうする? いっそこれ削る?」
「こんな人混みでやったら、さすがにバレるわよ」
「ハイニーレーンなら全員寝かせられるわよ」
言われたエルフはにこりとしてうなずいた。
エヴェリーナは首を振る。
「いえ、これはこのままでいい。逆手に取るのよ。さっそく対抗策をとるわ」
四人は急いでカラベルの村へと戻った。




