5-7 ライバルを探ろう 4
新冒険者ギルドにはさらに多くの冒険者たちが押し寄せた。
よく見ると、同じ人間が服を着替え、あたかも別人のふりをして何度も登録しているのだが、受付はまったく気づいていない。というより、気づいても咎めるつもりがなさそうだった。
「多分、受付に金けちっているのね」
エヴェリーナは言った。
「事務みたいな仕事に人を割かないからこうなるのよ。あのやる気のない男だって、もっと報酬と休みをあげればまともに働くはずよ」
「うちもリュカに頼りっぱなしだけど」
「最近あたしを恨みがましい目で見てるのよね。なんとかしなきゃ」
レザーラにそう答えた。
現在の新冒険者ギルドは赤字のはずだ。重複登録が激増しているから、余計出費がかさんでいるはず。
このことをシルミナが知るのはもう少し先になるだろう。それまでにやっておくことがある。
「あたしたちも冒険といこうじゃない」
オクトバーが訊く。
「ダンジョン行くのか?」
「というより、ダンジョンを攻略するまでにどんなことをしているか、確認したいの」
彼女たちは新冒険者ギルド本部の中に入った。
広間は相変わらずの人混みだ。以前より多いものだから、いっそう殺気立っている。時々怒号が飛び交っていた。
「ええとお薦めのダンジョンは……」
「あれじゃない?」
レザーラが受付の反対側にある壁面に向かった。
そこにはダンジョンの場所がずらりと書き込まれていた。全てが壁に掘られており、壁の上から下までびっしりと並んでいる。
「一目で分かるのはいいけど……」
「こいつは駄目だな」
オクトバーの言葉に全員がうなずいた。
まずダンジョンの場所が書いてあり、横に星印がついている。恐らくこれが等級だろう。それはいいのだが、あとはなにもない。
「星の数が少ないと難しいのか簡単なのか不明だ。多いと難しいんだと思うが、きちんと明記して欲しい。命がかかってるんだぞ」
「場所だけってのもよくないわね。地図も用意して対応させるようにしないと」
「攻略済みかどうかも分からない。一番最初に攻略するのが名誉って冒険者は多いんだ」
「壁に彫ったら消すの大変なのに。ダンジョンがなくなったらどうするのかしら」
レザーラは武器屋に行っていた。店員となにやら話していたが、肩をすくめて帰ってくる。
「武器と防具以外ないって」
「装備売ってる店が、他にあるの?」
「自分で用意しろってことみたい」
「食料とかランタンとか火打ち石とかも? 寝具も?」
「そういうのが必要だって発想がないんじゃない」
「でも外に売ってる店なかったわよ」
「それ訊いたら無視された」
ハイニーレーンは魔術屋に行っており、すぐに戻ってきた。
「恐らく、冒険者ギルドの作りを見て真似をしたのだと思いますが」
「だから武器屋と魔術屋はあるのね」
「外見だけですね。魔術屋には、どこにでもある薬草と魔具しかありません。魔術自体も一般的なものばかりです。内装はまあまあですが」
「うちはあなたとコリーがいるからねえ」
「独創的なもの、ここでしか手に入らないものがあれば、人は必ず戻ってきますから」
「そういや戻ってきた冒険者が集まる場所がないわね」
いわゆる酒場がない。宿もなかった。
「本当にただ登録して出発するだけね」
「先ほど聞いたのですが、冒険者ギルドにあるような酒場を作る予定はあったそうです。ただ、そこまで冒険者を遇する必要はないとシルミナが言ったらしく」
「金のかけ方がおかしいわよ」
登録したものには気前よくばらまくわりには、冒険に必要なものを排している。エヴェリーナの目にはかなりちぐはぐに映った。
本当に酒場がないのか、念のために外に出て一回りする。
やはりなかった。冒険者たちはそこらへんに腰掛けて、手持ちの食糧を食べたり革袋の酒をあおっていた。
手近のパーティーに近づく。全員薄汚れて、疲れた顔をしていた。
「ねえ、あなたたちダンジョンの帰り?」
「そうだ」
一番年かさの男が返答する。
「攻略した?」
「いいや。途中で出てきたんだ、星が少なくて初心者向けって聞いたのに、ひでえ目にあった」
「どこにあるの」
男は詳しく教えてくれた。
エヴェリーナは礼を言うと、皆をうながす。
「そこ行きましょう」
オクトバーが渋い顔をした。
「事前準備の確認だけじゃないのか」
「ダンジョンの難易度とずれてるらしいじゃない。確かめましょう」
「そこまでやる必要あるのか?」
「商売敵のことは徹底的に調べないと」
「楽しそうだな」
「作ったことはあっても探索したことないんだもん。楽しみに決っているじゃない」
否も応もない。エヴェリーナは全員を引っ張るようにして出発した。




