5-6 財布にダメージを与えよう 1
新冒険者ギルドを出て街の北側へと歩く。
道はどんどん狭くなり、古ぼけたり傾いた建物が多くなった。壊れた井戸や荷車などが放置されており、ちょっとした広場には住むところのない人間が所在なげにしている。治安も衛生状態も、見るからに悪そうであった。
「ハーネリア城の城下にこんなとこがあるなんて知らなかった」
「別にここだけじゃない、どこにだってある」
オクトバーが、酔ったまま寝ている男を跨いだ。
「生きてりゃどうしたって落ちこぼれるものが出てくる。職に比べて人が多いんだ」
「あなた詳しそうね」
「似たようなところで生まれたからね」
軒先に服を何着もぶら下げている店があった。古着屋である。服を使い回したり誰かに譲るのは普通のことだが、こういうところだと、戦死者や行き倒れから剥いだものを売ることが多い。
「ちょっと寄るわね」
エヴェリーナは店に入ると、大量の服を抱えて出てきた。レザーラが驚く。
「なんでそんなに買ったの」
「まだ店に置いてあるから、持ってきてくれる」
エヴェリーナ、レザーラ、ハイニーレーンの三人で服を抱えて運んだ。オクトバーは護衛も兼ねているため武器を使えねばならず、手にはなにも持たない。
酒場が見えてくる。看板がかかっているわけではなく、雰囲気が酒場っぽいだけだ。
「あそこでフィーリーに会ったんだ。もう一度言うけど、ガラが良くない。朝から酒を飲む連中ばかりだ」
「なんでフィーリーはそこで人を集めたのかしら」
「クララホルト侯爵に、なるべく安くすませろって言われたらしい。俺たちもそのときは金がなかった」
エヴェリーナは率先して店に入った。
半分ほどの入りだった。確かにまだ陽が高いのに全員酒を飲んでいる。冒険者らしいものはおらず、法と倫理を忘れてそうな連中だった。
店主のところに向かおうとしたら、オクトバーに制された。彼は幻覚の魔術を解いてもらうと、先に行く。
中年の、禿頭の男はじろりと睨んでいた。
「……あんたか」
「あそこにいる連中は?」
店の半分を占めている男たちを示す。店主はぼろぼろの藁で木製の皿を拭きながら答えた。
「いつものやつらだ。払うもの払ってくれれば別にいい」
「金欲しそうか?」
「見ての通りだ」
欲しがっているということだろう。オクトバーは、一番騒がしそうなテーブルに近づいた。ほどよく酔った男たちが見つめる。
「なんだあんちゃん」
「こっちの人から話が」
エヴェリーナは大量の服を下ろすと、慌てて近寄った。
「えーとね、儲け話があるのよ」
「はっ」
赤ら顔の男が鼻で笑った。
「そんなのあるわけねえ。どうせくだらねえ話だろう。聞きたくねえな」
「聞いてよ」
「ふざけ……」
オクトバーがかちゃりと剣を鳴らす。赤ら顔の男は店主を見た。
店主は首を振っている。男は黙った。
「儲け話ってのはね、みんなで新冒険者ギルドまで登録に行って欲しいのよ」
「金がもらえるってところだろ。もう行ってきた。俺たちが朝から飲めてるのもそこのおかげだ」
「もう一回行けるわよ。あそこって、本人の確認してないから、重複登録し放題なの。何回も通ってそのたびに登録すれば」
「……金をもらい放題?」
「そういうこと」
男の顔に、酒とは別の赤みが差す。
「……いくらなんでも同じ顔だってバレるだろう」
「分かりゃしないわよ。受付はやる気ないんだから。どうしてもっていうなら、一回ごとにあそこにある服に着替えて」
隅のテーブルを指す。そこに三人がかりで運んだ服が山になっていた。
男たちの目の色が変わる。店主がなにかいいたそうにしていたが、ハイニーレーンが金を握らせると沈黙を貫いた。
男たちは我先に着替えをはじめた。
「仲間を呼んできてもいいか!?」
「もちろん」
「これで好きなだけ飲めるぜ! あんたは神様かなにかなのか」
「この街にちょっと関係あったのよ」
着替えた何人かが外に駆け出していく。大声で声をかけているのは仲間を集めているのだ。すぐに人が入ってきて、やり方を覚えては着替えていく。
エヴェリーナは満足すると店を出た。レザーラが感心したように口を開いた。
「シルミナに金を使わせるつもりなのね」
「そういうこと。まず新冒険者ギルドの財布に痛手を負わせるの」
「古着もそのためだったとは驚いたわ」
「教えた見返りに、一割掠め取るってのも考えたんだけど、そういう反社のやり方は駄目だってドラゴンに言われたから」
「反社って?」
「知らない。あまりよくない言葉みたい」
エヴェリーナは全員に向かって手を叩く。
「さあさあ、他の酒場にも行って、やり方広めるわよ」
まだ陽は高い。彼女たちはハーネリア城下にある酒場を一つずつ回り、やり方を伝授していった。




