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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第五幕 悪役令嬢は妹を嵌める
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5-5 ライバルを探ろう 3

 新冒険者ギルドの建物は見上げれば見上げるほど、厳つくて大きかった。真下にいると首が痛くなる。

 ハーネリア城下でも建物が込み入ったところに建てられている。なにもかもが周囲と調和していないため、ある意味大変目立っていた。


「ここが敵陣ね」


 エヴェリーナが腕組みをして見つめる。ハイニーレーンの魔術はまだ効いていて、追放された侯爵令嬢と気づかれる心配はない。


「どうするんだ?」


 とオクトバー。


「潜入するわよ。あたしたちは冒険者パーティーですって顔をして、ここに登録すんの」

「そういえば、金取られるんじゃなくてくれるらしいな」

「じゃあ変装するわよ」

「君はもう化けているだろう」

「あたしだけじゃなくて、あなたたちも」


 エヴェリーナはいったん新冒険者ギルド本部の裏手に移動した。

 ハイニーレーンが順に魔術をかけていく。これは幻覚の一種であり、実際に顔の形を変えるわけではない。また体格は元のままだった。


「あたしはシルミナに顔知られているし、ハイニーレーンもでしょ。オクトバーとレザーラは冒険者の中じゃ有名人なんだから、変装するに越したことないのよ」


 こうして四人とも別人の様相になった。

 改めて新冒険者ギルドの門をくぐる。入ってすぐは巨大な広間になっており、奥にはやはり大きな階段があった。領主が演説しそうな雰囲気だ。

 広間内は冒険者で一杯だ。金をくれることにつられたのかと思ったが、それだけでもない。


「手際が悪いのね」


 エヴェリーナが呟いた。

 窓口がひとつしかなく、しかも一人しかいない。慣れていないらしくもたもたしているものだから、列がいっこうに進まなかった。冒険者たちの中には気の荒いものもいるから、不満が高まっている。

 エヴェリーナの冒険者ギルドも受付は基本一人だが、リュカは処理に長けており、多いときはフィーリーなどが助けに入る。たまに気の短い冒険者が声を荒げても、オクトバーかホグレンが出ていけば収まった。

 長いこと待ち、ようやく順番が回ってくる。

 受付は顔色の良くない中年の男だった。


「ここのギルドに入りたいんだけど」


 エヴェリーナが言う。受付の男は特に返事もせず、一枚の用紙を前に置いた。


「名前書いて」


 素っ気ないどころかいらいらしたような口調だ。恐らく受付業務を休みなしでやらされているのだろう。

 エヴェリーナはペンを取った。驚いたのだが、男の目の前で書かせることだ。狭い上に他に机もないため、後ろの人間が用紙記入できない。これでは人の数が減らないはずである。

 男は無遠慮に眺めていた。不正がないように見張っているのだろうか。


「ええと、あたしの名前はエ……エヴァンジェリンね」


 エヴェリーナと書こうとして、急いででっち上げる。


「僕は……えーと、オーティス」

「私は……そうね……レナィーテ」

「フェイニレンです」


 リザーラの眉がぴくりとするが、なにも言わなかった。

 それぞれ偽名を書き込む。男は申込用紙を一瞥する。


「あんたたち、冒険者になってからどれくらいだ」

「まだ一年未満ってとこかしら」

「そのわりには武器が使い込まれてるな。慣れてるんじゃないのか」

「あー……それは中古で揃えたから。知らない人かつかってたやつなの」


 男はふんと鼻を鳴らす。それなりに勘が働く人物のようだ。

 彼は申込用紙を自分の後ろに放った。真後ろには用紙が山と積まれており、処理されていない様子が一目で分かった。


「ああいうの隠さないと、冒険者の士気は下がるわよねえ」


 エヴェリーナは心の中で呟いた。あれでは名前を書かせること自体が無意味だ。冒険者ギルドでは、重複登録を防ぐため水晶玉に顔を写して記録することまでやっているのに、こっちは形式的なものでしかない。

 男は足元から大きな布袋を取り出す。やけに重そうで、両手で力を込めて持ち上げていた。

 手を入れると銀貨を掴み取った。十枚を一山にして、四つ並べている。


「あんたらの報酬だよ」

「まだなにもしてないのに?」

「いいから貰いな。あとは隣行ってくれ」


 男は顎をしゃくる。隣の武器屋では、武器と防具を配っていた。

 こっちの係は痩せてひょろりと背の高い、中年の男だった。


「入って、好きなもの選んで」


 武器屋は広い。中には剣や斧、槍に弓などが並べられ、自由に持っていっていいことになっていた。防具もあり、こちらも選べる。


「ここにあるもので全部だから。なくなったらおしまい。だから早い者勝ち」

「防具が体に合わなかったらどうするの?」

「責任は取れないね」


 エヴェリーナは渋い顔をする。オクトバーを見ると、黙って首を振っていた。いらないという意味だ。どうせ自前のものがある。

 だが彼女は手ぶらだったので、武器を取ろうとした。

 横から手が伸びる。レザーラだった。


「あなたはなし」

「は? どういうことよ」

「フィーリーに頼まれたの。武器を持たせないでって」

「他人を傷つけさせたくないとか、そんなつまんない理由?」

「なにやらかすから分かんないからって言ったわね」

「どうやって身を守るのよ」

「簡単でよければ、私が魔術を教えますよ」


 こう言ったのはハイニーレーンだ。


「すぐに覚えられます」

「フィーリーは武器を持たせないでって言ってたの」


 レザーラが注意するが、ハイニーレーンは聞かない。


「魔術ならいいでしょう」

「そういうことじゃない」

「私は無駄なものは教えないですよ」

「人の話を聞かないのは、全然変わってないね」

「長生きの秘訣です」


 二人は視線を外し、会話が終わる。エヴェリーナは「結局私の魔術は……?」と文句を言った。

 魔術はさておき、混み合ってきたので四人は武器屋から出た。広間にはまだ多くの冒険者たちが列を作っている。いつになったら終わるのか見当も付かなかった。

 エヴェリーナはポケットに手を突っ込み、銀貨に触れた。


「あれってやっぱりシルミナが出しているのよねえ」

「クララホルト侯爵じゃないか」

「シルミナのことだから、自分のお金だと思ってるわよ。ねえオクト……オーティスだっけ」

「どっちでもいいよ」


 他の冒険者に聞かれないように、小声で言う。


「ダンジョンにもぐる前、フィーリーに雇われたわよねえ。どこで?」

「少し離れたところにある酒場だよ」

「連れてって」

「あまりガラが良くないぞ」

「そっちのがいいの。いいこと思いついたから」


 オクトバーは怪訝な顔をする。エヴェリーナは我知らずほくそ笑んでいた。

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