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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第五幕 悪役令嬢は妹を嵌める
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5-4 ライバルを探ろう 2

 エヴェリーナはむしろわくわくしていた。商売敵の懐に飛び込むなんて胸躍る行為だ。およそ貴族令嬢とは思えない行動だが、どうせ追放された身だ。なにをしようと自由である。

 心配しているのはフィーリーの方だった。かつてエヴェリーナが「ハーネリア城でもっとも荒っぽい動物」とまで称されていた記憶が甦っていた。


「エヴェリーナ様、まさかお一人で行くなんて言いませんよね?」

「一人じゃないわよ。グリフォンに乗っていく」

「一人みたいなものですよ!」


 フィーリーは、「ギルドの実質管理者がそんなに出歩かれては困ります」と説得していた。


「ギルド本部の最上階で、泰然としていればいいんです」

「あそこ夜寒いのよね」

「服をもう一枚着てください」

「だって私以外に自由に動ける人がいないのよ。人手不足が続いているから」

「僕が行きます」

「誰が金勘定するのよ」

「じゃあ腕利きを連れて行ってください。エヴェリーナ様の安全が第一なんですから」


 泣いてすがりそうな勢いだったので、彼女は「数人連れていくから」と約束せざるを得なかった。

 さて誰を連れて行くか。いっそリュカでも連れていくかと思ったが、悩むまでもなかった。


「エヴェリーナ様の護衛が必要です。一人はオクトバーさんです」


 フィーリーが言い切った。エヴェリーナは嫌な顔。


「オクトバーに不満があるわけじゃないけど、あたしには選択の自由もないの?」

「ありません。あとはレザーラさんです。あの人は調査が得意ですから」

「酒場の顔がまたいなくなる」

「ターメイアさんも評判良いですよ。一部ですけど」

「あたしだんだん冒険者って信用できなくなってきた」

「あとはホグレンさんを」

「ギルド長と副ギルド長が一緒にいなくなるのはよくないわ」

「ではどうしましょう。やっぱり僕が」

「あなたも残らなきゃ駄目。連れていくのはハイニーレーンにする」


 フィーリーは眉を顰めた。


「えっ、オクトバーさんとレザーラさんとハイニーレーンさんですか」

「ハイニーレーンは魔術が上手なんだから当然でしょう」

「店はどうするのですか」

「コリーにやってもらう」

「あの人研究所から出てきませんよ」

「客の相手も必要とか説得すればいいのよ」

「はあ……」


 まだ納得していない様子だった。エヴェリーナは言う。


「嫌なの? いい年して好き嫌い?」

「そうじゃありませんよ。ただその、金鳩亭のことを思い出すと」

「だから連れていくんじゃない」


 エヴェリーナは当り前だろうという顔をした。


「あの二人がオクトバーにどう関係しているのか、こっちは知りたくてしょうがないんだから、いい機会よ」

「新冒険者ギルドを調べるんじゃないんですか?」

「もちろんよ。でもこっちもやる。こういうのはあれ、ドラゴンが言ってた。一石二鳥ってやつ」


 彼女は良い考えだと思っていた。フィーリーは胡散臭げにしている。


「関係がこじれても僕に頼らないでくださいよ……」

「冷たいわねえ。城の時のフィーリーは、あたしになにかあったら飛んでいくって言ってたのに」

「グリフォン乗りたくないので」


 結局エヴェリーナの意見をそのまま、オクトバー、レザーラ、ハイニーレーンを連れて行くことになった。

 この三人に新冒険者ギルドの調査をすると言っても、反対はされなかった。ただオクトバーが早くも疲労が溜まったみたいな顔をした。

 金鳩亭は例によってターメイアが仕切ることになった。噂はすぐに流れ、「無愛想に注文を取ってもらいたい」と心待ちにする冒険者もいた。

 魔術店はコリーを引っ張ってきた。予想通り、彼女はかなり抵抗した。


「嫌です。私はここで一生魔術の研究だけをするんです」

「客あしらいも学ぶ必要があるでしょう」

「そんなのは魔術と関係ありません。どうせあれ持ってこいこれ持ってこい、気に入らないから払うの止めたと文句ばかり言う客がいます。未払いを取り立てに行ったらケルベロスけしかけられるのはごめんです」

「あなたそんな経験したの?」

「面倒事は他の人に押しつけます」

「魔術の得意な客がいたら、教えてもらう絶好の機会よ」


 コリーは探るような目でエヴェリーナを見た。


「……そんなお客がいると思いますか?」

「いるわよ。うちの冒険者はそういう人ばかりだから」


 本当にいるかどうかはエヴェリーナも知らない。コリーはそれならまあと答え、店番を引き受けた。

 用意を整え、さっそく出発する。例によって近くまではグリフォンを使った。

 ハーネリア城の郊外に降りる。夜間だったので野宿を選んだ。そのまま向かっても良かったのだが、なにをしているのか太陽の下で把握したかった。

 翌日、明るくなってから城下町へ歩く。


「シルミナは街の計画になんて興味なかったはずだけど、どんなギルド本部にしたのかしら」

「あれじゃないかな」


 まだ街中に入っていなかったが、オクトバーが指さした。

 見るとひときわ目立つ建物があった。城下町に不自然なほど大きく、尖塔が二本もあ。やたら明るい化粧石を使っているため、周囲から浮いている。街の雰囲気に合っていなかった。

 レザーラが呆れた。


「ケーキに子供がふざけて石を載せたみたいね」

「でもある意味正しいですね。あれだけ目立つと、遠くからでもよく分かります。疲れて帰ってくる冒険者には目印になる」


 ハイニーレーンがそう言った。

 エヴェリーナも同感だった。もし狙って建てたのなら、シルミナへの評価を変えなければならない。

 街に入る。冒険者然とした人間が増えてきた。皆、目的地は同じである。道が混雑してきたので、エヴェリーナたちは固まって恥じに寄らなければならなかった。


「本部までの道が狭いのはどうかと思うわね。馬車で帰ってきたパーティーがいたらどうするつもりなのよ」

「その馬車が後ろから来る」


 レザーラが真後ろを示す。二頭立ての、真っ赤に塗られた派手な馬車がハーネリア城方面からやって来るところだった。

 狭い道を無理矢理走っているので、どうかすると接触事故が起りそうだ。冒険者たちは文句を言いながら避けていた。


「あっ、シルミナの馬車だ!」


 エヴェリーナは言った。城で見たことがある。内装に金をかけたことを自慢していたのだ。

 人が多いため、馬車は速度を落とした。このままだとゆっくりエヴェリーナたちの横を通過しそうだ。


「うわまずい。あたしの顔を見られる」

「魔術をかけます。こっちに」


 ハイニーレーンがエヴェリーナを引っ張ると、小声で呟きながら小指を曲げた。

 次の瞬間、エヴェリーナに変化が起る。かすかに光ると別の顔になった。

 それまでの快活で元気そうな顔つきはなくなり、あまり栄養状態の良くない、そこら辺で寝泊まりしている少女みたいになった。


「ねえ、あたし自分で見られないんだけど、どうなってんの」

「まったくの別人にしか見えません。フィーリーさんが見たらエヴェリーナ様を返せと食ってかかるでしょう」

「感想に困るわね」


 馬車が真横を通過する。

 エヴェリーナは窓越しに視線を感じた。シルミナがこっちを見ていた。

 喜んでいたが、これは冒険者の数が多いからだろう。だからといって、生活や冒険そのものにはなんの興味もない。餌台に鳥が群がっているのを眺めるのと違いはなかった。

 シルミナはそういう性格だ。エヴェリーナは追放された瞬間、それを味わった。

 馬車が去っていく。


「……あたしたちも行きましょう」


 皆をうながす。エヴェリーナたちは新冒険者ギルドへ歩いていった。

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