5-2 ライバルを探ろう 1
レザーラがハーネリア城下に行っている間、エヴェリーナはダンジョンを増やし、冒険者ギルドの拡張に勤しんでいた。
彼女は将来、ギルドに学校を作ることを目論んでいた。「字が読めないものもいる」というのを気にかけており、識字率を高めるつもりなのだ。さらには冒険者希望の人間に必要な技能も教える。学校の教師としては、引退した冒険者の雇用を考えていた。
だがそれは将来の話。今は目の前の仕事を片づけなければならない。
「うーん……」
エヴェリーナはギルドにある自分の部屋で、腕組みをしていた。フィーリーが扉を叩いたのだがそれにも気づかず、しばらく返事をしなかった。
「エヴェリーナ様、どうなさったのです」
「実はねえ、ギルドへの入会者を見ていたんだけど……」
彼女は日付と名前の欄を見せる。
「どうもこのあたりから入会者が減っているのよねえ」
「兵士の募集でもはじまったんじゃないですか」
冒険者は身一つ住居なしでも名乗れるため、失業者が最後の手段として自称する場合がある。冒険者ギルドはそういうものたちの後ろ盾として作られた面もあった。
ただ冒険者を名乗ったところで、天から金が降ってくるわけではない。食うや食わずのものも多い。そのため他にいい職があれば移ることもあった。
兵士は収入が定期的にあるため、冒険者よりはわりがいい。なので失業者がそちらに流れてもおかしくなかった。
「兵の募集なんて聞いたことないわよ。だいたい戦争あんの?」
「ないですね」
「入会が減ってるだけじゃない、脱退も増えているのよ。どうなっているのかしら」
冒険者ギルドを抜けてどこに行こうと言うのか、まるで分からなかった。
エヴェリーナの疑問はさほど間を置かずに解消された。レザーラが帰還したのだ。
彼女はまず、エヴェリーナに質問をした。
「ギルドの冒険者が減っていない?」
「なんで知ってるの」
「みんなハーネリア城の城下に集まっているから」
「どういうことよ」
「クララホルト侯爵が、新しい冒険者ギルドを立ち上げたのよ」
「えー!」
レザーラによると、城下のあちこちには「新冒険者ギルド設立。来たれ冒険者」という看板が立ち、片端から集めているらしい。看板は王都や街道沿いにも並び、嫌でも目に入るようになっていた。
「どういうこと?」
「うちの掲示板に、冒険者募集の張り紙があったでしょう。あれである程度集めておいて、一気に組織化したみたい」
「そりゃ集められるかもしれないけど、繋ぎ止められる?」
「新冒険者ギルドに入ると、入会特典として銀貨10枚が貰える」
「払うんじゃなくて貰うの!?」
「ええ。しかも武器と防具も支給される。集まるわけね」
レザーラは肩をすくめていた。
エヴェリーナは唖然とした。彼女の冒険者ギルドは入会金が安く、装備も手ごろな価格に抑えてある。これらは鏖竜山脈の豊富な鉱脈と、チックスたちの努力によるものだ。
だが金を渡すことまではしていない。そこまでしたら冒険じゃないだろうと思っているからだ。自分の手で稼ぐからこそ冒険者なのである。
「どこにそんな金が……って、クララホルト家の財布ね」
「あなたの実家って金持ちね」
「もう実家じゃないし。でもお義父様がギルドを立ち上げるなんて、絶対しそうにないんだけど……」
義父のグロームは根っからの領主である。働くのは小作のやることで、自分の手を動かすのは貴族にもとると思っていた。領地の税収入だけで生活を維持できる身分である。
にもかかわらず新冒険者ギルドをはじめたということは、誰かが強く勧めたのだ。
「シルミナね……」
エヴェリーナは呟いた。間違いない、冒険者ギルドに物理的な被害を与えることは諦め、対抗することにしたのだ。別組織に冒険者を集めて、こちらを潰すつもりなのである。
「考えたわね。変なところに頭が回るんだから」
「手を打ちますか」
フィーリーの言葉に首を振る。
「中止しろなんて言っても聞かないでしょうね。職別ギルドは一つだけなんて法はないんだから」
「指をくわえて見てるわけにもいきませんよ」
「そうね、だから偵察するわ」
「じゃあもう一度レザーラさんを」
「私が行くわ」
「エヴェリーナ様がですか!?」
「ええそう。シルミナがどんな組織にしたのか、この目で見てやるのよ。私がちゃんと確認して、その上で戦ってやるわ。売られた喧嘩は買う主義よ」
こうなるとフィーリーにも止められない。エヴェリーナは早くも支度をはじめた。




