5-1 冒険者ギルドを経営しよう 2
カラベルの村に、冒険者ギルド本部以外の建物が完成した。通りに沿って、できたてほやほやの建物がずらりと並ぶ。これらは店舗や宿として経営する人間に貸し出される。
村の中央部は大きな広場となっていた。東側が市場となっていて、店舗を借りるほどの金のない商売人が、露店を広げることができる。もちろん使用料を取るが、格安になっていた。
「問題は、勝手にショバ代といって、使用料を取る連中が入り込むことだ」
ドラゴンのフジタはエヴェリーナに忠告した。
「そいつらは早いうちに排除しろ。食い込まれると厄介だぞ」
「ショバ代?」
「場所代のことだ」
ドラゴンはそのような連中のことを反社と呼んでいた。
体裁の整ったカラベルの村には、ぞくぞくと人がやってきた。ます冒険者、次に冒険者目当ての商人、次に商人の家族、さらには商人の家族目当ての商人である。人が人を呼ぶ状態で、村はどんどん大きくなっていった。
ギルドへの登録をすませた冒険者は、まずブロンズ3の鍵を渡される。それから受付のリュカによって頑丈な木の表紙で綴じられた本を渡される。中には冒険者の等級に応じたダンジョンがずらりと書かれていた。
いくつかのダンジョンには、宝箱に入っていそうな宝物、出現しそうなモンスター、設置されていそうな罠が書かれている。ギルドの信頼性にかかわるため、分からないところは不明とされていた。ダンジョンを作ったのはエヴェリーナなのだから不明なことはないのだが、好奇心を高めるため公開していない。
冒険者たちはダンジョンを選ぶと装備を調える。ギルドの隣には武器屋があり、そこで買い物をする。ここもリュカが担当しており、店の入り口には大きく「店員至急募集!」の貼り紙がしてあった。
武器と防具を新調し、寝袋や携帯食料を買い込んだ冒険者は、さらに奥の店で魔術や薬草、魔具を仕入れてもいい。ハイニーレーンが販売する薬草は効能が多く、効き目も強い。魔術に関しては、彼女が直々に発動方法を教えてくれた。
準備が整った冒険者たちは、金鳩亭で腹ごしらえをする。イーレイの作る勝利はおいしく腹持ちし、店主のレザーラはダンジョン攻略へのちょっとした忠告をくれた。
出発する方向は、たいていファブの森である。森林の中か鏖竜山脈内のダンジョンを目指す。森林内にあるダンジョンの方が難易度は低い。ダンジョン入り口に印が付いているわけではないが、何組ものパーティーが入ったところは踏み固められてわだちとなっている。
ダンジョンに足を踏み入れる。たいていのところは暗く、灯りが必要となる。なだらかな斜面を下るか、ごつごつした階段を下る。極端に難しいところは縦穴が掘られていて、頑丈な綱か魔術を使わないと潜れないようになっていた。
こうして冒険者はこの先にある宝への期待と、罠やモンスターを警戒しながら、慎重に進むことになる。
一方、鏖竜要塞の中には、ダンジョン内を監視する部屋があった。ギルド本部の完成に前後して、エヴェリーナが作らせたのである。
壁にはいくつもの鏡が設置されていた。鏡の前にはゴブリンたちが陣取っていて、目立った出来事を報告書に書いていた。
この鏡は、ダンジョン内部に設置した監視用鏡の映像を転送して映し出すものである。これによって、ダンジョン内で冒険者がどのように行動するかが手に取るように分かった。
「よくこんなものを作ろうなんて思ったな」
ドラゴンが感心した。エヴェリーナは自慢げに答える。
「これで冒険者の動きが分かれば、ダンジョンの難易度を調整できるでしょう。罠なんかも難しすぎず簡単すぎないものが設置できるわけ。あとは冒険者の好みや得意不得意の傾向も割り出せるわ」
「確かに、ソシャゲもログの解析をして今後の調整に生かすが……」
「ギルドで決めた難易度と実際の難しさが乖離していたら困るからね。鏡の映像は、コリーが開発した魔石に刻んでおけば、あとで見返すこともできるのよ」
「手が込んでいる。全部のダンジョンに鏡をつけたのか?」
「そうしたいとけど、今はブロンズの半分と、等級を上げる際の試練になるダンジョンだけ」
「ブロンズに多いのは何故だ」
「ひよっこの冒険者が多いでしょう。無茶して怪我をしたとき、すぐに救援隊を送り出せるようによ」
「ゴブリンたちが助けに行くのか? 向こうも驚くだろう」
「魔術で人間に見えるようしてるの。たまたまあとから入ってきた冒険者と思わせてる」
「いたれりつくせりだな」
「長く冒険者ギルドとダンジョンを愛好してもらうためよ」
いずれはゴブリンやオーク、オーガのような力の強いものたちを「特別救援隊」と名付け、ギルド直轄で運用するつもりだと彼女は語った。
現在のところ、亜人たちは冒険者の前に姿を現していない。あくまで敵役であり、下手に姿を見せてギルド側の人間と馴れ合うと、ギルドとダンジョンは裏で繋がっているのではと疑われるからだ。
繋がっているのは事実だが、なにも舞台裏を見せる必要はない。それでもいずれは亜人と人間が自由に接することができる村にしようと、エヴェリーナは構想していた。
さて、ダンジョンの最深部で宝を得た冒険者たちは、ギルド本部に帰還する。そしてリュカに見せて本物だとお墨付きを得ると、攻略済みとなる。
ダンジョンには攻略済みと攻略されていないものがあり、最初に攻略したパーティーは栄誉をたたえてギルドの壁に刻まれる。腕に自慢のある冒険者は最初に足跡を残すため、我先に未踏破のダンジョンに向かっていった。
攻略されて空になった宝箱には、コボルドによって宝物が補充される。いかにも不自然だが、亜人やモンスターが光り物を好み、箱に隠す習性があるためと説明されていた。
「この噂を流したのは俺だ」
ドラゴンが笑いながら言った。
「我ながらいい加減な理由だと思うが、結構信じるもんだ」
「なんてひどい」
「もっとあるぞ。古王朝の宝や魔術は貴重だと言われているが、そんな王朝ないからな。俺が作って歴史にしたんだ」
「えー!」
「妖王朝というのもそうだ。戦乱でほとんどの記録が消失したことになっているが、単に考えるのが面倒になっただけだ」
聞いたエヴェリーナは呆れて首を振った。
めでたくダンジョン攻略が認められた冒険者たちは、金鳩亭で祝杯を挙げる。酔った彼らは店の壁に自分たちの名前を彫り、レザーラもそれを許した。そしてつかの間の休息を取り、再び冒険におもむくのである。
ギルド本部には、一般からの仕事依頼もある。ダンジョン攻略に疲れたときは、こういうものをこなしてもいい。また、パーティーメンバー募集の貼り紙もしてあった。様々な理由で仲間を失ったパーティーが、新しい人間を求めるためだ。
さてそのパーティー募集の中に、新人を募集しているものがあった。
遠方への冒険のため、補充人員求むというものだった。それだけなら珍しくないが、四六時中張りっぱなしであり、いつも募集しているのが奇妙であった。普通は募集に応じるものがいたら剥がされるのである。
「なんか変なんです」
仕事の合間を見はからい、リュカが報告しに来た。
「待ち合わせる場所もギルドや酒場じゃなくて、ハーネリア城下なんです」
「応じる冒険者はいるの?」
「いるみたいです。戻ってこないので、どうしているかは分かりません」
「なんか嫌な気分ね」
とエヴェリーナは言った。
ハーネリア城下といえば、シルミナである。放火騒ぎを起こした犯人は、催眠状態にして城に帰した。だがギルドの場所は露見しているのだから、またなにか仕掛けてくるだろう。
なにを企んでいるのか探らないといけない。そのためには調査に長けたものが必要だ。
「というわけで、あなたに頼みたいの」
「理屈は分かったけど」
レザーラは言った。
「私の必要ある?」
「軍のスカウトだったんでしょう。こういうの得意そうじゃない」
「苦手とは言わないけど」
「断わるならハイニーレーンに頼むつもり」
「彼女の名前を出せば、私が対抗して引き受けると思ってるの?」
「やらない?」
「やる」
その日のうちにレザーラは出発した。金鳩亭はターメイアが仕切ることになり、冒険者の半数は「レザーラさんがいないなんて」と嘆き、もう半数は「あの無愛想がたまらない」と歓迎していた。




