4-7 新しい人を雇おう 2
「火事ですって!?」
エヴェリーナは急いで村まで駆けつけた。
カラベルの村は現在、多くの建物が建設途中にある。冒険者が集まることに伴い、利にさとい商売人たちも、ここで店を構えようとやってきはじめたのだ。そのことは想定済みだが、テラルの計画から外れたところに住まれるのは困る。なので冒険者ギルド側で建物を用意し、入居してもらうつもりでいた。しばらく住むなり店を営業するなりしてもらい、希望者には買い取ってもらうことも考えている。
そのための資材は大量に運び込まれており、村内のあちこちに集積されている。その一部から火の手が上がったらしい。
「怪我人でた? 被害どれくらい?」
「木材の一部が燃えました。死者、怪我人共にいません」
フィーリーが答えた。
「夜中に木材置き場から火の手が上がったようです。幸い発見が早かったので、すぐに消し止めました」
「良かった。でもなんであんなところが燃えたのよ。火の扱いは気をつけていたわよねえ」
「良く分からないんです。発見したものも、たまたま通りかかったら燃えていたと言ってました」
「誰が見つけたの」
「ハイニーレーンさんです」
エヴェリーナはハイニーレーンに会ってみた。
エルフの女性は魔術店で忙しそうにしていた。店内には怪しげな木の根や干からびた薬草、昆虫の一部とおぼしき羽、見たことのない粉などが所狭しと並べられ、おどろおどろしい雰囲気になっている。
これはフィーリーがはじめたことで、「あまり明るい雰囲気だと客がインチキだと感じてしまう」からであった。ハイニーレーンはそこからさらに品目を増やしたため、窓すら塞がれ薄暗くなっていた。
ハイニーレーンはちょうど冒険者に、「傷の痛みがなくなる薬」を売ったところであった。
「ちょっといいかしら」
「これはエヴェリーナさん、どのようなご用件でしょう」
「火事を見つけたときのことが聞きたくて」
「昨晩のあれですか」
彼女は会計用のテーブルに「休憩中」の札を立てた。奥に移る。
「昨日の夜はちょうど月が出ていなかったので、ファブの森まで薬草を採りに行っていたのです」
「夜中に?」
「月の光を浴びないときに発芽する草があります。若芽が薬となるのです」
エヴェリーナはちらりとフィーリーを見る。彼はうなずいていた。実在するらしい。
「戻ってくるとき、たまたま木材置き場に通りかかったのです。その時火の手が上がるのを見ました」
「誰か怪しいものを見なかった?」
「いいえ。エヴェリーナさんは放火だとお思いですか?」
ハイニーレーンは覗き込むように質問していた。エヴェリーナはややたじろいだ。
「だってなにもないのにいきなり火が点く?」
「それはそうですね」
「ちゃんと調べれば分かると思うんだけど……」
燃えた資材はすでに片づけられていた。今は建築を早めなければならないため、使えなくなったものを、いつまでも放置してられないのだ。
夜中なので他に目撃者もいない。念のためにリュカと妹、母親にも聞いたが、その日は早くに就寝したためなにも知らないとのことであった。
他に質問もないので、ハイニーレーンには仕事に戻ってもらった。エヴェリーナとフィーリーは、ギルド本部の会議室に場所を移す。
「放火だとしたら、シルミナだと思うのよ」
エヴェリーナの言葉に、フィーリーも賛成した。
「他にいませんね」
「でもシルミナが自分自身で火を点けるわけないから、誰かにやらせたと思うの。ほら、最近はここも人が増えたから」
「冒険者の中に混ざっているとお思いですか?」
「確認のしようがないのよねえ」
エヴェリーナは嘆く。冒険者というのは基本的に名乗ればなれてしまう職業だ。保障もなにもない。それを防ぐための冒険者ギルドでもあるのだが、登録前はどうしようもなく、よほどの重罪犯でもない限り犯罪歴などの確認もできなかった。
「ギルドの秩序を保つための治安組織も必要になるわね」
「どんどん大所帯になりますね」
「仕方ないわよ。拡張を見越してギルド本部は大きくしたんだから」
「各資材置き場に見張りを立てますか?」
「うーん……」
彼女は悩んだ。そこにリュカがやってくる。
「エヴェリーナさん、コリーさんが来てます」
「あら。珍しいわね」
コリーはもっぱら鏖竜要塞で薬と魔術の研究に励んでいる。熱中のあまり研究所から外に出ず、こちらから様子伺いに行っても「邪魔です」と追い払われていた。
一応魔術担当理事であるのだが、冒険者たちの前に姿を現すこともない。なのでギルド本部まで来たのは久しぶりだった。
エヴェリーナとフィーリーは会いに行った。コリーは大きな荷物を抱えていた。
「ご無沙汰しております」
「ずいぶん大きなものを持ってるわね」
「新しく開発した魔術です。と言っても、魔術書の記録から発動手順を解読しただけですが」
荷物から真新しい魔術書を取り出した。コリーが書き写したものを、印刷室のノームが本にしたものだ。
「魔術屋で販売してください」
「ありがと。新しい店員が模様替えしたんだけど、見てく?」
「来るたびに様変わりしますね」
「コリーが来なさすぎるのよ。ハイニーレーンってエルフなんだけど、結構凄いわよ」
「ハイニーレーン……?」
コリーは首を傾げた。
「元冒険者とか言ってませんか?」
「知り合いなの?」
「ええまあ……私よりもオクトバーさんが良く知ってます」
「オクトバーたちってダンジョンの検査してる最中なのよ。今回はダンジョン内で寝起きできるか確かめてるから、まだかかりそう」
「だったらレザーラさんもいないのですね」
「ええ……?」
コリーは荷物を下ろすと、ギルド本部の正面ホールまで移動した。
ホールには依頼用の掲示板があるのだが、その隣に銘板が飾られていた。プラチナ冒険者の名前だけが刻まれている。誰もが見えるところに掲げることで、プラチナ鍵の所持者には名誉を、他の冒険者にはいつかは自分もと発憤してもらうのが目的だった。
今はオクトバー、ホグレン、レザーラ、コリーだけが刻まれている。コリーはそこの前まで移動した。
「……これ、ハイニーレーンさんも見たのですよね」
「多分」
「だとしたら……」
コリーは続けて説明した。聞いていたフィーリーが驚く。
「大変です! すぐに……!」
「いや、待って」
エヴェリーナが制する。
「ここは落ち着こう」
「そんなこと言ってる場合ですか? 早く手を打たないと」
「いいこと思いついたのよ」
彼女はゆっくりと、これからやることを二人に告げた。




