4-6 新しい人を雇おう 1
冒険者の登録は煩雑を極めたが、大きな混乱は発生しなかった。
一つには、意外なほど冒険者たちが協力的だったためだ。ギルド的な組織の必要性を感じていたものが多かったらしい。登録が済んだ途端、ほっとするものもいた。
もう一つはリュカの事務能力が存分に発揮されたからだった。
やってくる冒険者たちの順番を記憶し、長時間待たせることなく捌いていく。登録した冒険者たちの名前もすぐに参照しやすいところに置いていた。
ブロンズの鍵がなくなりそうと見るや先手を打ってノームに発注し、武器防具すら切らさない。馬具から冒険者用の携帯食料まで全てを把握し、あっという間に「リュカに聞けばなんでも分かる」との評判を得ていた。
これにはターメイアの整理能力も大いに貢献していた。ハーネリア城が清潔で整っていたのは、ひとえに彼女のおかげだったのである。
「ターメイアさんのおかげで助かってます」
リュカは何度も同じ事を言った。
「でもやっぱり、人手を増やさないと」
「そうなんだけどねえ」
エヴェリーナは腕組みをした。冒険者の中から登用しようかとも考えたのだが、座り仕事をするよりも、ダンジョンに潜るのが得意なものたちばかりなのだ。店にオクトバーやホグレンが入ることもあるがあくまで臨時だし、そもそもギルド長と副ギルド長である。
「そういえば仕事がないかって訊ねて来た人がいました」
ターメイアが戸棚の整頓をしながら言った。
「冒険者なら登録をと言ったのですが、そうではなく、働きたいのだと」
「すぐ会うわ。ターメイアも来てくれる」
「私は酒場の手伝いがありますので」
「接客苦手じゃなかったの?」
「レザーラさんがダンジョンの検査をするのでいないのです」
ターメイアは愛想がない。冒険者相手だろうと素っ気ない態度を取ると思われた。
エヴェリーナはリュカだけを連れて、その人物と面接した。
ギルドの奥の部屋に招き入れ、座らせる。ここは会議室で、幹部であるオクトバーたちとエヴェリーナがギルドの方針相談をするときに使われる。
就労希望者と向かい合う。
「ええと、名前はハイニーレーンでいいのかしら」
「はい」
「エルフなのね。魔術の知識があるって聞いたけど」
「生きる時間が余っていますから、知識を仕入れました」
「コリーが聞いたら羨ましがるでしょうね。でもギルドがほしいのは、魔術店の店員なのよ」
「それで結構です。一人で書物を調べるだけの生活に飽きていました」
「なら問題ないわ。採用。リュカ、フィーリーはどこにいるの?」
「今日のフィーリーさんは会計の仕事をしています。このところ休みがなくて青い顔をしていました」
「ようやく楽させられるわね。フィーリーに、接客から解放するって言って連れてきて」
フィーリーはやって来ると、心の底からほっとして、ハイニーレーンに魔術店の仕事の説明をした。
そうしているうちにも冒険者のギルド加入希望者はやってきていた。彼ら彼女らに話を聞くと、冒険者ギルドの噂は王都から周辺の街にも広がりつつあるのが分かった。王都の金鳩亭のチラシがうまく作用している。
「街道沿いの街ならどこも噂してますよ。ハーネリア城の城下もそうじゃないかな」
冒険者の一人はそんなことを言っていた。
加盟希望だけではなく、ダンジョン攻略を終えたものたちも戻ってきた。こちらで用意したダンジョン以外にも、ドラゴンが昔作ったダンジョンに潜ったものたちもいる。皆、早くブロンズから昇級しようと競うように攻略していた。
「もっと作らないと、すぐに飽きられるわね」
エヴェリーナは鏖竜要塞に戻った。
要塞内部は、以前よりも活気に満ちていた。より上級のダンジョンを作るための準備に余念がないためだ。指揮を執っているのはドルルである。
「ドルル、たくさんブロンズのダンジョンが必要になったわ。シルバーも多めに用意しないと」
「旦那、俺、今、無理、ゲキャ、できる」
というわけで、エヴェリーナはゴブリンのゲキャと一緒に、ブロンズのダンジョンを量産することになった。
二人は図書室でブロンズダンジョンの設計図を広げ、考え込んだ。
「ここの曲がり角を二股にできないかしら」
「それよりこっちの部屋を増やす方が、構造上無理がない」
「面倒になってきたわ。この図面ひっくり返して出口を入り口にして作ろうかしら」
「そういうのをコピペと言うんだ」
「なあにそれ」
「知らない。ドラゴンが教えてくれた。嫌われるらしい」
「じゃあこれをここで区切って、こっちを持ってきて、宝箱の位置をずらして……」
「内部を岩剥き出しから石の通路にするか」
「一から作るのと手間が変わらないわ……」
エヴェリーナは嘆いた。
「ねえ、ゲキャの仲間でダンジョン作るのが趣味ってのいない?」
「普通はいない」
「そうよね……」
「だが小屋のエルフがダンジョンに詳しかった」
「小屋のって……ああ、シュレーニン」
鏖竜要塞用の木材を管理しているエルフが頭に浮かんだ。さっそく行ってみることにする。
シュレーニンは満面の笑みで出迎えてくれた。
「そろそろ来ると思ってた」
「ダンジョンが趣味なんだって?」
「木が伸びるのを待つのって暇だからね。気晴らしにダンジョンの設計図を書いていた」
シュレーニンは小屋の中まで案内した。
壁の一部が棚になっていて、小さく区切られている。そこに数多くの巻物が詰まっていた。
「これ全部ダンジョンの設計図?」
「ドラゴンに作り方習った」
「だったら図書室に置いておけばよかったのに」
「欠点というか、問題があってねえ。僕はダンジョンに入ったことがないんだ」
「そうなの!?」
「全部想像なんだよ。正しいかどうかすら分からない」
「エルフもダンジョン探索するもんだって思ってた……」
「そういうエルフもいる。僕は木のあるところから動きたくないんだ」
エヴェリーナは一部手に取って広げた。確かによくできているが、入り口すぐ側に罠があったりして、妙な構造になっていた。彼女が最初に犯した失敗と同じだ。
「今は数が必要だから助かる。これ、もらってっていい?」
「どうぞ」
「そうそう、君の所に最近エルフが来なかった?」
ハイニーレーンのことが思い浮かんだ。
「来たけど……どうして知ってるの?」
「僕は同じ氏族が近くにいると、なんとなく感知できるんだ。出身地が同じだと思う」
「ハイニーレーンっていう女性」
「ああ、話はしたことないけど聞いたことあるよ。冒険者になったって噂」
「そうなの……」
とりあえず礼をいい、図書室に戻った。
抱えてきた設計図をゲキャと一緒に確認する。ゲキャは量の多さに驚いていたが、すぐに「手直しして使おう」と言った。
「罠の置き方と宝箱の位置を直せば十分」
「このやたら長いのは三分割すればブロンズダンジョンになるわね」
「こっちのは隠し通路を加えればずっと良くなる」
ゲキャは「ドルルと打ち合わせる」と言って出ていった。
エヴェリーナはカラベルの村に向かった。店がどうなったのか気になっていた。
ギルド本部の奥の部屋では、フィーリーが帳簿に数字を書き込んでいた。ここは会計室で、背後にはドルルの作った金庫があり、冒険者からの加入代金、依頼の手数料などが収められている。
彼女はフィーリーがここにいることで、むしろ安心した。
「魔術屋はなんとかなってるみたいですね」
「ハイニーレーンさんは凄いですよ。魔術の知識は僕なんかよりよっぽど多いです。適切な素材をすぐに提供しますし、値付けも高くなく安すぎもないから不満が出ません」
手放しの褒めようだ。彼は昨晩、久しぶりにぐっすり寝たらしい。
「フィーリーには苦労かけて悪かったわ」
「それはいいです。ハイニーレーンさんみたいな人が、もっと欲しいです
「美人だから?」
「そうじゃないですよ。人手のことです」
「分かってるわよ……そういえば、ハイニーレーンって元冒険者とか言ってなかった?」
「さあ。あまり自分のことは話さない方です」
フィーリーは「どうしてそんなことを」と聞きたそうにしていたが、エヴェリーナは答えなかった。なんとなく質問しただけなのだ。シュレーニンの話が、頭にちょっとだけ引っかかっていた。
だがこのことは、意外な形で表に出てくることになる。
この日の夜、カラベルの村では火災が発生した。




