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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第四幕 悪役令嬢は冒険者ギルドを経営する
35/60

4-5 冒険者ギルドを経営しよう 1

 エヴェリーナたちはグリフォンでギルド本部まで戻った。彼女はリュカを呼び出すと、そろそろ来るからと告げた。


「冒険者たちがやって来るから、片っ端から登録して。どこのダンジョンがいいか聞かれたら、ブロンズ用のを全部教えて構わないわよ」

「そういえば木こりの人が、ファブの森の木を伐採したいから、護衛を頼みたいって来ましたけど」

「あら、一般の依頼ね。掲示板に貼りだしてもらえる?」

「やっておきました」


 リュカの言葉通り、ギルド左奥の掲示板に貼り紙がしてあった。

 オクトバーは戻ってくると、ホグレンに金鳩亭のことを話していた。


「なんと! あの店主め、わしらが死んでいたと思ってたのか!」

「客も知らない顔ばかりだった」

「もう何年も行ってなかったからなあ」


 ホグレンは遠い目をしていた。

 横で話を聞いていたエヴェリーナは違うことを考えていた。


「ねえホグレン、金鳩亭とギルドで提携できないかしら」

「どんなことだ」

「宣伝だけじゃなくて、向こうでもブロンズやシルバーのダンジョンを掲示してもらうのよ。ギルド認定のダンジョンだと言って」

「ここに寄らなくていいってことか?」

「攻略報告だけはやってもらう。将来は支部出すことも検討してるから、試しにやってみたいの」

「いいんじゃないか。しかしなんでわしに言う」

「向こうの店主を説得して欲しくて」


 ホグレンは呆れたが、承知した。

 続けてエヴェリーナは言う。


「あと向こうの名前を借りられないかしら。こっちにも金鳩亭があると知ったら、冒険者も安心できるでしょう」

「わしはいいが、レザーラが納得するかな」

「なんでよ」

「聞けば分かる」


 レザーラに同じことを告げると、即座に言われた。


「嫌」

「なんで」

「あの店主、私のこと口説いたから」

「いい女だって証拠じゃない」

「死んだ女房そっくりだって言ったから。あの親父の肉親誰も死んでないし、そもそもあいつ結婚したことないのよ」

「じゃあここの酒場は金鳩亭ってことにするわね。看板はすぐに作らせる」

「話聞いてる? 私の店なんだけど」

「名前は私に権利あるの」


 強引に認めさせた。

 冒険者が来ることを見越し、チックスを急かして武器と防具を大量に揃えた。魔術書や魔術媒介のための素材も、コリーに持ってこさせる。

 ホグレンは店主との交渉のため王都へと向かう。エヴェリーナはリュカと並んで受付に座り、今か今かと待ちわびた。


 ◇   ◇


 宣伝が効いたか、冒険者たちがカラベルの村を訪れだした。

 冒険者ギルドの本部まで来た冒険者は、リュカから一通りの説明を受ける。少額の入会金と引き換えにブロンズ3の鍵を受取ると、晴れてギルドの構成員だ。

 ギルドに入ると、登録してある全てのダンジョンを調べることができる。ただし、自らに見合った等級の中からしか選べない。冒険者は登録ダンジョンを攻略し、最深部にある宝その他を持ち帰る。それをギルドで鑑定して本物と認められると、攻略したことになった。

 鑑定と言っても、ギルドの奥の部屋にコボルドがいて、自分たちがダンジョンに置いたものかどうか調べるだけだ。間違いないと分かるとリュカが冒険者に返し、うやうやしく「本物です」と告げる。

 冒険者は出発前に武器屋で装備を調えることができる。魔術展で新しい魔術を仕入れてもいいし、金鳩亭で腹ごしらえをしてもいい。

 金鳩亭の二階の宿は予約することもできた。ここに装備品を置きっぱなしにすることも可能なのだ。ただしできる部屋数は限られている。


「いずれ冒険者専用の貸倉庫みたいなのがあってもいいかも」


 エヴェリーナはそんな構想も抱いていた。

 冒険者たちは至れり尽くせりな制度に、感嘆の声を上げていた。冒険者ギルドの噂はさらに冒険者を呼び、登録人数が増えていく。それだけではなく、冒険者目当ての商人たちがやってきて、行商をはじめたり店を開こうとしていた。


「村を無秩序に広げない方がいいと思います」


 コボルドのテラルはエヴェリーナに忠告した。最近のエヴェリーナは、彼からコボルド語を習っている。


「当初の図面通りに建物を建てた方が、ちゃんと発展します」

「そうね。当分は建物をこっちで用意して、商人に貸すようにしましょう」


 そんな話をしていると、フィーリーがやってきて、「ちょっと見てください」と言った。

 言われたとおり、ギルドの二階廊下から正面広間を見下ろす。

 冒険者たちが大勢詰めかけていた。剣を下げたり斧を担いだり、肌の色もさまざま。押すな押すなの大盛況だ。


「おー、すっごい来たわね」

「感心している場合じゃないです。人手がまったく足りません。登録だけではなくて、店の方がどうにもならなくなってます」

「分かった。私も入るわ」

「他にもあります。お金の管理を専門にする人が必要です。会計です」

「あー、暇なときに、数字が分かる人がやるつもりだったから」

「ちゃんと帳簿をつけないと駄目です。僕がやってもいいんですが……」

「あなた本当になんでもできるのね」

「そうすると魔術店の窓口がいなくなります」

「そうね……フィーリーは魔術店で店員やってて。お金はとりあえず袋に入れておいて、夜になったら金庫にしまおう」

「人を雇ってもらえませんか。魔術に詳しい人がいいです」

「すぐやる」


 と言っても、今のところ心当たりがない。エヴェリーナは、いざとなったらフジタに相談しようかと考えていた。


 ◇   ◇


 そのころのハーネリア城。

 シルミナの前で二人の人物が膝を着いていた。

 一人は兵士だ。使い込まれた鎧を身につけ、腰に剣を履いている。もう一人は外套を着用しており、顔が良く分からない。

 シルミナは先ほどから二人を見下ろし、じっと眺めていた。

 苛立たしげに指を動かすと、兵士をうながす。


「……その者なのか?」


 兵士は顔を伏せたまま答えた。


「はい。王都から連れてまいりました」

「ふむ。面を上げなさい」


 外套の人物が顔を上げた。同時にフードが後ろに落ちる。

 真っ白な顔に切れ長の瞳。そして耳に特徴があった。


「……エルフ?」

「はい。ハイニーレーンと申します」


 女性であった。シルミナはエルフ族を見るのが初めてだったため、無遠慮に見つめている。


「長命というのは本当なの?」

「皆様よりはるかに長生きしております」

「そのエルフが王都でなにを見たというの」

「見たというより、話を聞いたのですが……私の知己が王都で酒場をやっております。あるとき、そこに人品卑しからぬ少女が、二人の男と共にやってきたそうです。そこにチラシを置いていったと」

「なあにチラシって」

「冒険者ギルドの案内だそうです」


 ギルドと言われてもシルミナにはピンとこない。なんらかの組織だろうということしか見当がつかなかった。


「それがどうかしたの」

「チラシを持ってきた少女が、どうやらこの城にいたエヴェリーナ嬢ではないかと」


 シルミナの頬がぴくりとする。兵士が言葉を引き取った。


「当方が用事で王都におもむいた際、このエルフが話しかけてきたのです。クララホルト侯爵領の兵ではないかと」

「クララホルトの兵には特徴があります。鎧と剣に金がかかっておりません」


 ハイニーレーンが言う。兵士は顔をしかめてから続けた。


「エヴェリーナ様はどうも冒険者ギルドをはじめたらしく、それの宣伝ではないかと思われます」

「あの女に様をつけるのはやめなさい……ギルドとは、なんでそんなことを……」


 シルミナはしばらく黙考する。やがて質問した。


「ハイニーレーンとやら。他にも私に話があるのね」

「どうやら冒険者ギルドは、人手不足のようです。私が雇われてきて、内情を探ってきます。どういう組織なのか、本当にエヴェリーナ嬢がいるのかどうかも」

「私のために調査してくるのね」

「無料というわけにはまいりません」


 ハイニーレーンは金額を口にする。決して安いとは言えない額だった。


「なかなか厚顔ね」

「長く生きていると、恥の概念が薄れますから」

「いいでしょう。ギルドに潜入して、内情とエヴェリーナのことを探ってきなさい。弱みを特に」

「かしこまりました」

「つまらない情報にお金は出さないわよ」

「お任せ下さい。多少の心得があります」


 ハイニーレーンは右手を動かすと、指を二本曲げた。

 次の瞬間、彼女の姿は消失した。

 直前までいたところには、ただ石の床があるだけだ。シルミナは呆気に取られた。


「……消えた?」

「透明になったのです」


 兵士が説明する。


「あの女はいにしえの魔術を会得しています。どのようなところにでも侵入し、秘密を探ってくることができるでしょう」


 説明を聞いたシルミナはうなずいた。そして感嘆するよりその不気味さに、思わず身体を震わせた。

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