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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第四幕 悪役令嬢は冒険者ギルドを経営する
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4-3 冒険者ギルドを宣伝しよう 1

「……誰も来ない!」


 冒険者ギルドの受付窓口で、エヴェリーナが嘆いた。

 本来の受付はリュカである。だが初日の様子がどうしても見たくなり、エヴェリーナは丸椅子を持ち出してリュカの真後ろに陣取ったのだ。おかげでリュカは監視されているようになり、少々居心地の悪い思いをした。


「どうしてこんな完璧なギルドに、誰も入会しないのよ!?」

「待っていれば来ると思います」

「あたしはそんなに気が長くないの」


 リュカがなだめたが、エヴェリーナは首を振った。苦労して初日にこぎ着けたのだ。誰も来ないはずはない。来ないのはきっと冒険者がおかしいからだ。どこかでおいしいお菓子につれられて、冒険する気が失せてしまったとか。


「多分ですけど、カラベルの村が街道から外れているからじゃないでしょうか。ここに村があることを誰も知らないんだと思います」

「だから街道からこっちまで道を整備して、道先案内板まで立てたのよ」


 冒険者たちや商人が訪れやすいよう、テラルは道路整備もおこなっていた。高低差のないなだらかな道が作られ、矢印の標識も置かれていた。

 リュカはまた言う。


「街道に冒険者が来ていないんじゃないでしょうか」

「なんでよ」

「このあたりのダンジョンはもう攻略され尽くしたと思われている、とか」


 実際は分からないので、店で暇そうにしているレザーラに訊ねてみた。


「それは……あるかもしれない」


 彼女は考えながら喋っていた。


「私らもフィーリーに雇われるまでは、こっちに来ようって思ってなかったから」

「それにしては誰も来ないのはおかしくない?」

「いきなり街道に看板出てたら、まず警戒するもんだしねえ。北西部に未踏のダンジョンがあるって噂はよく聞いたから、腕の良いのはそっちに流れたんじゃない?」


 説得力があった。だとすると、冒険者を入会させる前に、まずカラベルの村まで来させなければならない。

 エヴェリーナはフィーリーを呼んだ。


「このままじゃ客が来なくて開店休業よ。宣伝するわ」

「賛成ですが、どうやります?」

「チラシを作って撒くのよ。王都に行くわ!」


 いきなりの遠出に、さすがのフィーリーも驚いた。


「遠くですよ!? ハーネリア城の城下の方が」

「王都なら冒険者もたくさんいるわ。そこでごっそりいただくのよ!」

「変なものを撒いたら、衛兵に拘束されますよ」

「変じゃないから大丈夫!」


 さっそく文面をまとめると、鏖竜要塞の印刷室で大量に刷らせた。印刷室で働いているのはノームたちだったが、最近は方眼紙ばかりで退屈しており、久しぶりに実力を見せられると腕を振るってくれた。


「どうこれ」


 できたチラシをレザーラに見せる。彼女は一瞥して眉をひそめた。


「そうねえ……」

「歯切れが悪いわね」

「冒険者って字が読めないのもいるわよ。まったくの文盲はいないけど、数字がせいぜいってのもいるから」


 あ、と思った。知らず知らずのうちに、今まで自分が話していた相手を基準にしていたのだ。エヴェリーナの住んでいた城では、使用人全員がなんらかの記録をつけさせられていたため、読み書きできることが雇用の条件だったのである。


「そっか……」

「薬師や魔術師は全員読めるけど、敵を倒すだけなら字は関係ないからねえ」

「リュカ、あなた字は読めるのよね」


 聞かれたリュカはうなずいた。


「お母さんに教わりました。お母さんはおばあちゃんに教わったそうです。読み書きできれば絶対に損しないからって」

「リョカみたいなのはそんなにいないからね」


 レザーラが付け加える。エヴェリーナは少し落ちこんだ。


「あたしやっぱり世間知らずなんだなあ」

「まあでも、ここから直していけばいいわよ。絵でも分かるようにするべきね」

「ギルドの場所はともかく、役目や利点も絵で描かなきゃならないのかあ」

「文書だけとは別に、絵が主体のチラシも作るべきね。説明しきれないところは別の人に読んでもらうとか、とにかくギルドまで来てもらってこっちで説明するとかがいいんじゃない」

「そうしよう」


 肝心の絵を誰が描くかだが、これは料理人のイーレイが引き受けた。


「なんで描けるの?」

「献立表を絵で描いたことがあったんです。たまにはいいかと思って」

「そういやあったわね」


 イーレイがいくつか絵を描き、それを修正しながら完成形に持っていく。最小限の知識で理解できるようなものになると、ノームに印刷してもらった。


「よし。配りに行かないとね」


 エヴェリーナとフィーリーだけではなく、オクトバーも連れて行くことにした。手分けしてチラシを持ち、グリフォンにまたがる。フィーリーは「僕は馬に乗りますから」と言っていたが、それではいつ到着するか分からないため、強引に乗せた。

 空を行くグリフォンは、馬よりも圧倒的に早い。文字通り風を切って進んでいく。地上から目撃されるとまずいので夜間に飛行した。


「鳥目と言うけど、このグリフォンは夜でも飛べるんだな!」


 オクトバーがグリフォンの背にしがみつきながら言う。


「優秀なのよ! ヘイラがこの子が一番早いって言ってたから」

「どうせなら鞍かなんか着けて欲しかったよ!」

「だってああいうの、嫌がるんだもん!」


 隣ではフィーリーがグリフォンの羽根に顔を突っ込み、早く着陸してくれるよう亡き母親にお願いしていた。

 グリフォンはさすがに優秀で、一度も休むことなく飛び続け、王都に到着した。

 王都の郊外に着地。エヴェリーナたちはチラシを抱えて降りた。グリフォンは姿を隠し、合図で姿を見せることになっていた。

 街中へ入る。上空から見たときも感じたが、さすが国王の住まう都だけあって、きらびやかで活気がある。人の多さはハーネリア城下よりずっと上だ。


「エヴェリーナ様、どちらに行かれます?」

「冒険者の集まるところだから、当然酒場よ」


 手近に泡立つジョッキの看板を掲げた店があるので入った。

 思った通り酒場だ。客の入りは半分ほど。エヴェリーナは奥に向かう。店主らしき男に話しかけた。


「ねえ、ちょっといいかしら」

「お嬢さん、ここにはあんたに出す飲み物はないよ」

「お酒が欲しいんじゃないわよ。ちょっとこのチラシ置かせてくれない?」


 中年の男は、一枚受取ると胡散臭げに眺めた。


「……冒険者ギルド? なんだこりゃ」

「そういうのができたの。冒険者のための互助組織」

「いんちきじゃないだろうな」

「ちゃんとしてるわよ。冒険者ってここにもよく来るでしょ」

「そりゃ来るがね」


 男はチラシをエヴェリーナに帰した。


「今日は来ていない。あいつら金遣いがいいときと悪いときが極端だからな。近場のダンジョンをやり終わったから、遠くに行ってるんだろ」

「戻ってきたら見てもらえるように、壁に貼らせてもらえない?」

「いいよ。その代わり、なんか飲んでいってくれよ」


 エヴェリーナは文字主体のチラシと、絵主体のチラシを貼った。彼女は飲まないため、フィーリーとオクトバーがエールを注文した。

 それぞれ一杯飲み干してから外に出た。


「他にも貼らないと。ええと、鍛冶屋とか薬屋とか市場の人が集まりそうなところとか」

「もう暗いですから、明日にした方がいいと思います」

「宿でも探しましょう。ねえオクトバー、あなたも王都に来たことあるでしょ。冒険者がよく立ち寄りそうなとこ知ってる?」

「知ってるよ」

「ちょっと、早く教えてよ。さっきのとこ入る必要なかった」

「君の邪魔をしたくなかったんだ」


 オクトバーは肩をすくめて答えた。

 彼によると、王都で冒険者がもっとも集まるのは金鳩亭という酒場であった。


「あそこは一晩中やってるんだよ。店員が入れ替わり立ち替わりでずっと営業している」

「珍しいわね」

「冒険者は帰りが真夜中になるのも珍しくないから、開いてる店は助かるんだ。自然とみんな集まるようになる」

「じゃあ宿探しは中止。金鳩亭に行きましょう」


 暗い夜道だったが、エヴェリーナは率先して歩いて行く。二人は急いで後を追った。

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