4-2 冒険者ギルドの完成 2
エヴェリーナは鏖竜要塞に戻った。帰り際、フィーリーに荷物を持たされたため、グリフォンが重いと文句を言い、なだめるのにいささかの苦労があった。
「ギルドがあってもダンジョンがなきゃ話にならないわ」
戻って早々、ドラゴンにそう言う。寝転がっていた古代竜も同意見だった。
「ギルドとダンジョンの関係は密接なものにしないと、資源が無駄になるぞ」
「分かってるわ。ダンジョンを攻略した冒険者の名前はちゃんと記録して公表するから。冒険者は名誉欲が満たせるし、こっちは攻略の具合で難易度の調整もできるからね」
「建造の進捗はどうなってる」
「ブロンズ用のダンジョンは全部完成したわ。罠や宝箱は、オクトバーたちが検査してるから問題ないわよ。シルバーはひとつだけがまだ作っている」
「昔俺が作ったダンジョンはどうするんだ」
「それにも等級つけるつもり。たとえばシルバー3相当ってするとか」
「冒険者が、自分はここを攻略したことがあるから応じた等級が欲しいと言ったらどうする」
「攻略した証拠があれば、あげるわよ。場合によっちゃもう一度攻略してもらうかも」
「自分はプラチナ相当だと言い出したら?」
「それはない。まだ既存のダンジョンをプラチナ認定してないから」
「あの冒険者たちはプラチナだろう」
「オクトバーたちは伝説の冒険者よ。今やどこにあるのかも分からないダンジョンを攻略したからプラチナになったに決まってるじゃない」
ドラゴンが笑う。口から炎が少し顔を出した。
「悪い理屈を考える女だ。まさに悪役令嬢だな」
「今のはそれほど悪くないわよ」
二人の元にドルルがやって来る。ダンジョンの設計図を手にしていた。その後ろにはコボルドたちが泥だらけになりながらついてきていた。
「旦那、だいたい終わった、俺たち、仕事した」
「ご苦労様、休んでて」
「でも、ゴールド、まだ作ってない」
「あとでいいわよ。ああそうだ、フィーリーから差し入れだって」
運んできた複数の酒樽を指し示す。フィーリーが城下に出向いたとき買ってきたものだ。本来なら王室に納められるような逸品である。彼には手に入れるだけの手蔓があった。
「あたしはお酒飲まないから、あなたたちで全部開けちゃって」
コボルドたちは歓声をあげ、大喜びで酒樽を持っていく。感情に乏しいドルルも、にこにこしていた。
「ドルル、嬉しい、フィーリー、いい人」
「あたしは?」
「フィーリー、とても、いい人」
「だからあたしは?」
「悪い、令嬢」
「ちょっと」
ドルルは部下たちと共に、自分たちの居住区に引き揚げていく。憤然とするエヴェリーナに、ドラゴンは笑った。
「あれは褒め言葉だぞ」
「悪役令嬢ってなのったことを、ちょっと後悔してるわ」
「ところでゴールドに手を付けていないと言うが、まだいいのか?」
「新規にはまだ作ってないってこと。いくつかはあなたが昔作ったものを再利用しようと思ってるのよ」
彼女はそこまで口にしてから、不意に気づいた。
「ねえ、あなた名前なんて言うの?」
「俺のことか?」
「だって、あなたなんて変だし、ドラゴンさんなんてもっと変だし」
「名前か……」
ドラゴンは紅玉の瞳を、しきりと左右に動かした。
「……ないわけじゃない。ここに来てから呼ばれたことがないから、自分でも忘れかけていた」
「じゃあ思い出して」
「俺の名はフジタと言う」
「フジタ? なにそれ?」
「なにと言われても名前だ」
「王国の生まれじゃないわね。どこかの領土持ちなの?」
「遠い国……というか別世界だな。ここの世界に飛ばされたんだ」
「あたしみたいに追放されたってこと?」
「そうだな。友人に嵌められて失業して失恋して絶望してたから、追放みたいなものだな」
「ふーん……。じゃああたしと一緒に、そいつらに復讐しない? 手伝うわよ」
ドラゴンの瞳がかすかに揺れる。
「とっくに終わった。そいつらも一緒にここに飛ばされてきたからな。俺の自家製ダンジョンに放り込んで、どうなったかは知らん。俺がその後もダンジョンを作り続けているのは余暇みたいなものだ」
「追放される前はなにしていたのよ」
「説明が面倒くさいんだが、会社でゲームを作っていたんだ。ダンジョンの制作もずいぶんやった。追放される前はソシャゲの部門だった」
「なに言ってるのか分からないわ。暗号みたい」
「聞き流していい。そのころの知識を生かしてダンジョンを作っていたんだ。今は優秀な後継者がいるから、俺は隠居していられる」
「優秀な後継者って、私のことよね」
「当然だ」
エヴェリーナは嬉しそうに、にこりとした。
「なんだか嬉しいわ。でも追放の復讐が終わったのなら、いつかは自分のところに帰ったりするの」
「そう考えたことはあったが、今となってはどうでもいいな。帰る手段はあったんだがすでに失われた。この姿も気に入っている」
「じゃあこれからも手伝ってよ」
「隠居してると言わなかったか」
「プラチナダンジョンの最深部に、強力なモンスターが必要なの。ほら、宝を守る最強のモンスターって言ったらドラゴンじゃない。フジタにやって欲しい」
「俺をこき使うか。しょうのないやつだ」
ドラゴンは文句を口にしつつも、どこか楽しそうだ。自らの過去を語ったのが、いい影響を与えたようだ。
「引き受けよう。プラチナができたら呼んでくれ。賃金はもらうぞ」
「お金取るの?」
「これは無償の手伝いじゃなくて、立派な労働だからな」
こうして準備は整った。あとは冒険者を呼ぶだけとなった。




