4-1 冒険者ギルドの完成 1
「できた!」
エヴェリーナは思わず大声を出した。
滅びかかっていた村は、すっかり様変わりしていた。雑草は抜かれ整地され、井戸が整備されている。広場を中心に真新しい建物が並んでいた。
ひときわ目立つのは冒険者ギルドの本部である。
天井は高く、複数の窓があるため採光は申し分ない。夜でも営業できるよう多数の灯りが用意されていた。
大きな扉をくぐると、右奥に受付、左奥には大きな掲示板があって個人、村落等の依頼が張り出される。依頼を受けたい冒険者たちは掲示板を見て、受付で番号を告げると詳しい情報を得られる。そこで確認してから現地に向かうか否かを決められた。
ダンジョンの攻略をおこなう場合は、直接受付で紹介してもらう。受付後方には大きな棚があり、全てのダンジョンと依頼の記録が収められていた。
受付係はリュカである。任された責任を感じてか、興奮気味であった。
「冒険者の皆さんのため、頑張ります!」
ギルド加入を望む冒険者は、まず受付で生まれた地と名を名乗り、登録をおこなう。最初は全員ブロンズ4から。そこからブロンズ3、2、1と上がっていく。リュカは冒険者の等級に応じたダンジョンを紹介する。自らの実力以上のダンジョン、たとえばブロンズ3がブロンズ1に入ってもいいが、安全は保証されない。
ブロンズには銅で作られた鍵が渡される。数字が掘られており、ブロンズ内でも位が上がれば別の鍵が渡される。これはいわば身分を保障する印で、鍵本来の役割はないものの、酒場での食事が安くなる利点があった。
「こういうちょっとした特典が嬉しいのよ」
エヴェリーナはそう説明した。
ブロンズ等級の上はシルバーだ。シルバーになるためには、ギルドが定めたダンジョンを攻略する必要がある。成功すれば銀の鍵を渡される。
シルバーの上はゴールド、さらにはプラチナとある。プラチナの中でも最上級、プラチナ1は全冒険者でも数名しかないとされていた。
「というわけで、あなたたちは今日からプラチナ1ね」
エヴェリーナはオクトバー、ホグレン、レザーラに白金製の鍵を渡した。鍵には「1」と刻まれている。
「コリーにはあとで渡しておくから、全部で四人ね」
「軽いなおい」
オクトバーが受取った鍵をしげしげと眺める。ドルルらコボルドたちが加工した鍵は精巧なもので、装飾品としても優れている。気軽に扱っていいものかどうか、ためらっている様子であった。
「俺たちがこんな等級でいいのか?」
「なによ。あなたたち腕利きでしょう」
「そりゃ場数は踏んでいるが」
「ならいいじゃない。きっと冒険者に尊敬されるわよ」
冒険者ギルドの上層部なのだから、権威をまとう必要があった。肩書きは人の判断力に大きく影響するのだ。
冒険者ギルドのギルド長はオクトバーである。ホグレンが副ギルド長。レザーラが装備担当理事で、コリーが魔術担当理事となる。
レザーラが口を挟んだ。
「私は店がやりたいだけなんだけど」
「お店で冒険者の相談に乗ってあげればいいわ。酒場で働いている女性が、実は全冒険者憧れのプラチナ鍵の所持者なんて、興奮するじゃない」
「まあね」
「暇なとき、ひよっこの冒険者に昔の武勇伝を語ればいいの。そうしたら、みんな話聞きたくてやってくるから」
「エヴェリーナは宣伝の才能あるね」
レザーラは苦笑していた。
その彼女が店長をする酒場が、ギルド本部に併設されている。酒瓶がずらりと並ぶ棚の反対側に長机があり、椅子がいくつも並んでいる。四人用の卓も据えられていて、防具を着たままでも座れるよう余裕を持って作られていた。
建築したてなので、店内には木の匂いが強い。いずれは煙草と酒の香りに取って代わられるだろう。
「これ最高」
レザーラは目を輝かせた。
「私の夢よ。こういうところが欲しかったの」
「存分に働いて」
「もちろん!」
料理はイーレイが担当する。彼は王室料理から家庭料理までなんでもこなせる。さっそく冒険者向けをいくつか考案していた。
酒場の上は宿となっていて、冒険者が宿泊できるようになっていた。ただ、部屋数はそれほど多くはない。
「いずれは村に冒険者だけじゃなくて、商売する人も移住してくるようになるはずなのよ。そういう人たちをあまり圧迫しないようにしないと」
ギルド本部に併設された施設には、他にも武器屋があった。正確には魔具以外の装備品一式を扱う。
武器屋はギルドに入ってすぐ右にあった。武器防具の展示をしてあるため、かなり広めにとってある。今はまだなにもないが、いずれ鏖竜要塞のチックスから大量に届く予定であった。
さらに武器屋は中でギルドの受付と繋がっている。エヴェリーナはリュカに店員をやってもらうつもりであった。
リュカは承諾したが、難しいとも言った。
「でも手が足りなくなるかもしれません」
「やっぱり二つ同時はキツい?」
「ターメイアさんにやってもらうのはどうでしょう」
肝心のターメイアが首を振った。
「私は客商売は向いていません。リュカさんのお母さんは?」
「母は妹の面倒を見るのと、体が弱いですから」
「しょうがないわね、オクトバーとホグレンも入って、常駐じゃなくていいから、リュカを助けてあげてくれる」
「そりゃいいけど、俺たちが入るとダンジョンの検査やるのがいなくなるぞ」
オクトバーの言うことはもっともだったので、最初だけの臨時措置だと告げた。
「また人を雇うようにするわ。暇なときは私も入る」
「君が表に出ることこそまずいだろう」
「少しくらい、いいじゃない」
魔術店ももちろんあった。武器屋の奥にある。問題はここで、店員がいない。専門知識は武器防具以上に必要だ。コリーは研究に熱心なので頼めなかった。
「少しくらいなら僕ができます」
そう言ったのはフィーリーで、エヴェリーナは感心するより呆れた。
「あなたなんでもできるのね」
「でも早めに人を探してください。エヴェリーナ様を補佐する人間がいなくなります」
「私は一人でも平気」
「前にもそんなこと言って、川に落ちたことありましたよね」
「なんでまだ覚えてんのよ」
冒険者ギルドは人手の問題があるものの、組織、建物共に完成した。
そしてダンジョンだが、こちらも完成間近だった。




