3-17 冒険者ギルドを作ろう 6
冒険者ギルド施設とダンジョンの建設は、並行しておこなわれた。これだけ大規模なものだと計画を立て人手を集めるだけで一苦労だが、今までの蓄積があったため順調に進んだ。
スレイプニルとグラニが資材を山と積んだ荷車を引っ張り、オークとトロールが石材を積み、コボルドが木材を削ってオーガが組み立ててゴブリンが仕上げをする。廃村同然だったカラベルの村は急速に形を整えていった。
「すごい、なんかもう村です!」
リュカが顔を紅潮させ、感嘆する。なにか言いたいけどどう言っていいか分からない、みたいな感想であった。
エヴェリーナも満足げだった。
「受付の仕事、もう覚えたの?」
「はい、フイーリーさんが丁寧に教えてくれます」
「リュカさんは覚えがいいですよ。僕にはもうやることがないです」
「そんな……」
フィーリーは笑っており、リュカは照れていた。二人はいい関係のようだ。
コボルドのテラルがやって来る。図面を持っていた。
「冒険者ギルドの本部は終わりました。酒場もすぐにできます。あとは冒険者用の店舗ですね。店で働く人間が必要になりますけど」
「なら連れてきますよ」
フィーリーが請け負った。
「ハーネリア城の使用人たちが形見の狭い思いをしてるんです。みんなエヴェリーナ様が好きでしたから。僕がクビになる前からずっと、辞めようかって話し合ってました」
「ああ……」
城での生活が思い出される。なんだか遠い昔のように感じられた。
「声かければ来てくれますよ。シルミナ様にバレないよう、秘密でやります」
フィーリーは馬を駆り、城へ向かった。グリフォンにはまだ慣れないようだ。
彼はしばらく城下に滞在したのち、戻ってきた。
連れてきたのは料理人と鍛冶職人、庭師と使用人だった。
「おお、本当にエヴェリーナ様だ」
「お久しぶりでございます」
皆、口々に再会を祝い、うっすらと涙を流していた。全員、エヴェリーナが城にいたときよりも痩せている。苦労の程が知れた。
エヴェリーナは自分の境遇と、今やっていることを話した。
「こんな理由で、みんなに手伝って欲しいの。もちろん給金払うわよ」
「ぜひ雇ってください」
真っ先に手を挙げたのはイーレイという料理人だった。若い青年で、祖父の代から城の料理を任されていた。
「シルミナ様が紹介状を書いてくれなかったので、どこも雇ってもらえないんです。働きます」
「俺も働きます」
続いて言ったのはチックスという鍛冶職人だった。背が低く、長時間炎に晒されているため顔は赤く焼けている。この間まで親子で城にいた。
「親父が亡くなったので行くところなんかありません」
「わしもお願いします」
「私も」
庭師のラッケン、使用人のターメイアだった。ラッケンは髪の半分以上が白くなった老庭師で、ハーネリア城の庭ならなんでも知っていた。ターメイアはエプロンを手放したことのない女性であり、整理整頓に長けている。
「ありがと。もちろん全員雇うわ。イーレイは酒場で食事を作って。あとで店長のレザーラを紹介するから。ターメイアはギルドの雑用ね。リュカを支えてあげて欲しいの。チックスとラッケンは私と来てくれる」
エヴェリーナは鏖竜要塞にチックスとラッケンを連れて行った。
要塞に入った二人は驚きで口をぽかんと開け、中に住む亜人やモンスターたちに目を丸くしていた。こんな場所があるとは夢にも思わなかったのだろう。ここらの反応は冒険者たちと変わらない。
コボルドたちの長が出てきた。人間二人を見て不思議そうにしている。
「チックス、こちらがドルル。要塞の工作物を取り仕切っているの」
「ど、どうも」
チックスはぎくしゃくしながら、ドルルに挨拶した。
「あなた鍛冶できるでしょう。ドルルたちと協力して武器や防具を作ってくれない。ギルドで売れるやつね」
「材料さえあれば」
「ある、たくさんある」
ドルルが手招きし、工作室の奥まで案内する。積まれている木材や精錬された金属を見せた。
チックスは驚嘆した。
「こいつはすごい、自由に使えるんすか」
「していい」
「俺、こういうところで働きたかったんだ」
エヴェリーナがにこりとする。
「罠とかはドルルたちがやるから、あなたは冒険者の装備を作って。初心者専用から腕利き専用まで、色んな種類の武器を作ってね」
「新しい装備とかも考えていたんですよ。城じゃやらせてもらえなかったんですけど」
「じゃあここで実現させなさい。できたらギルドの店まで運ぶから」
「すぐにやります!」
エヴェリーナは次に、ラッケンを研究所まで案内した。
ここには薬師のコリーがいる。彼女は魔術の研究に熱中しており、エヴェリーナたちがゃってきても気づく素振りすらなかった。
何度も声をかけて、ようやく振り返る。
「なんでしょう。今忙しいです」
「いつも忙しいのね。こっちはラッケン。腕のいい庭師よ」
「はあ」
「研究所の裏で、薬草を栽培していたわよね。治療や魔法で使うやつ」
「ええ。あれも私が面倒を見ているので、とても忙しいです」
「ラッケンに任せてみない。この道数十年の腕利きよ。ここで薬草できたら、ギルドで売るの」
コリーはラッケンを上から下まで眺めた。ラッケンの見た目は冴えない老人である。
彼女は即座に庭仕事の道具を渡した。
「さっそくお願いします」
「ずいぶん簡単にわしを信じるんじゃな」
「信用できるかどうか、見れば分かります。それに栽培では並ぶものはないと見ました」
「自信はある」
「ではすぐに」
二人は庭へ移動する。エヴェリーナもついていった。
研究所の裏手は結構な広さの庭で、栽培の種類ごとに分けられていた。受粉が狂わないようしっかりと区分けされているものの、雑なところがあった。
この辺がコリー一人では手が回らないところで、経験豊富なラッケンが加わるのは渡りに船であった。
二人はエヴェリーナそっちのけで作業に取りかかる。ついでだったのでエヴェリーナも手伝った。
こうして冒険者ギルドは、徐々に形を整えていった。




