3-16 冒険者ギルドを作ろう 5
ダンジョンを作るにはドルルの協力が不可欠だ。彼女は工作室で向き合った。
「村はテラルに任せればいいけど、ダンジョンはドルルじゃないと」
「旦那、お世辞、うまい」
「本心だって。でねえ、やっぱり数が必要だと思うの。各等級ごとに十分なダンジョンがないと冒険者も飽きるでしょう」
「今、たくさん、ある」
「難しいのが多いのよ。初心者から中級者あたりに数が欲しい。ブロンズとシルバーね」
「作るの、できる、図、ない」
「ダンジョンの設計図が欲しいってことね。ドラゴンが作った分を再利用して、あとは私が考える」
エヴェリーナは図書室に籠もると、ダンジョンの量産にかかった。
既存の設計図を拝借し、大きいものは分割し、小さすぎるものはくっつける。どうしても納得いかないものだけ、いちから描いた。最深部に宝箱を書き込み、入り口を作ればいい。方眼紙を大量に持ってきて、いくつも作った。
これをドルルに見せる。コボルドの長は仲間たちと共にああでもないこうでもないと議論し、等級に応じて罠や宝を調整した。
ドルルたちが修正したものを、エヴェリーナがさらに見直す。こうしてダンジョンの設計図が完成した。
「ブロンズ用が8枚、シルバー用が9枚、ゴールド用が3枚、プラチナ用が1枚と……」
エヴェリーナはダンジョンの設計図を前に腕組みをした。
「全部で21枚か……ブロンズ向けにもう3枚ほど欲しいわね」
「旦那、ゴールド、少ない」
「そっちはいいの。ゴールドになるまでは時間がかかるから、後回しで問題ないわ。プラチナも同じ」
「俺たち、人数、足りない」
「あー、もっといるわねえ。ドラゴンに話つけてくる」
ドラゴンは山の張り出しになった岩場で、のんびり日光浴をしていた。エヴェリーナは鱗をぺちぺち叩いて起こすと、頼みごとをする。
爪の先で目を擦りながら、ドラゴンは返事をした。
「それなら俺より亜人の長に直接頼め。俺に遠慮はいらない」
「そうする。そういやダンジョン製作用の資材ってどこにあったっけ」
「こっちだ」
ドラゴンは率先して、資材置き場に案内してくれた。
ダンジョン用の資材置き場は、ドラゴンが鏖竜要塞を建設するとき真っ先に用意したものだ。山の中腹をくりぬいた巨大なもので、木材だけではなく石材、毛皮、布、加工前の鉱石など食料以外の全てがある。それらは高い天井を埋め尽くすように積み上げられていた。
木材の原木は屋外に保管されていた。切ったあと乾燥させる必要があるためだ。当然、麓から見えないように配慮されている。
「石材ってどこで調達してんの」
「要塞の北側の地下をくりぬいている。良質の石が採れる。南西に行けば粘土があるから、レンガの材料になる」
「木は?」
「エルフが管理してるぞ」
「そうなの? エルフいるの?」
「一人だけ、ここで働いている」
エヴェリーナはドラゴン道順を教えて貰い、エルフのいる小屋へ向かった。
鏖竜山脈の西側、王国領とは反対側の斜面の中程に、一軒の小屋があった。そこには男性のエルフが一人で住んでいた。
「君が新しい管理人のエヴェリーナだね。私はシュレーニン。よろしく」
背が高く、すらっとしたエルフだ。年齢はよく分からないが、長命な種族なのでずっと年上なのは間違いない。
小屋の西側には、広大な森林が広がっていた。
「あなたが一人で管理してるの?」
「そう。管理だけじゃなくて植林もやっている」
「植林まで!? 大変でしょう。人手いらない?」
「木はすぐに伸びるわけじゃないからね。なんとかなってるよ。切るのは要塞から手伝いがくる」
「どうしてエルフはあなた一人しかいないのよ」
「みんな積極的じゃないから。私の生まれた村はずっと向こうにある。森のずっと先」
シュレーニンが指さした。鏖竜要塞より西は人間の統治がまったく及んでいない土地であり、どのようなものが住み、なにがあるのかまったくの謎であった。
「エルフもドワーフも、人と接触したがるのは北西にいる氏族だけだよ」
「私は会ってみたいけどなあ」
「じゃあそのうちに。ところで、たんに私の仕事の様子を見に来ただけ?」
「木なんだけど、大量に使いそうなの。在庫の補充できるかしら」
「問題はないよ」
「運ぶの苦労しそうなの。冒険者ギルド作りと、ダンジョン作りの両方に必要なのよ」
「なにも手で運ぶことはないだろう」
「手で運ぶの当り前……あー、なるほど」
エヴェリーナはモンスターの庭へとおもむいた。
メデューサのヘイラは、「資材運びのためのモンスターを貸して欲しい」という頼みを快く聞いてくれた。
「あの馬がいいよ。力がある」
ヘイラの口笛に応じてやってきたのは、足が八本もある大きな馬であった。
「スレイプニルっていうんだ。荷車引かせるといい。頭いいから御者いらないよ」
「こんな立派な馬、荷運びにつかっていいの?」
「いいよ」
「怒らない?」
「ずっと退屈そうにしてたから、たまには働いた方がいいんだ」
スレイプニルは任せろと言わんばかりにいいないた。
ヘイラは他にもグラニという馬を用意してくれた。どちらも力が強く、大量の資材を運んでくれそうであった。
資材の手配は着いたので、今度は人材である。亜人たちの長に、片端から会うことにした。
オーク、オーガ、ゴブリン、トロール。物騒な顔つきをしたものたちだったが、皆理知的で冷静だった。彼らは協力を約束してくれた。
「これまで通り、衣食住があって賃金さえ払ってくれれば、皆働く」
ゴブリンの長、ゲキャはそう言った。
「ドラゴンがエヴェリーナを後継者にした。従う」
「ありがと」
それにしてもとエヴェリーナは思う。これだけの亜人とモンスターを集めて住まわせ、要塞を本拠にダンジョン管理をはじめたドラゴンは、どれだけの時間と精神力を必要としたのだろうか。そもそもどういう理由ではじめたのだろう。
「ドラゴンはここに住んでいたわけじゃない」
ゲキャが、エヴェリーナの内心を察したように言う。
「俺の親父の親父に聞いた。あるとき外からやってきて、ここに住みはじめた。ダンジョンを作るようになったのもその頃からだと。親父の親父も親父に聞いている」
「へえ。結構前なのね」
「前にドラゴンが一度だけ身の上を語った。別の国から来たと」
「王国じゃないってことね。どこの国なの」
「この大地じゃない」
「なにそれ」
「もっとずっと遠いところ。そこでは鉄の荷車が走り、石の建物が天まで伸びて、鳥よりも早い鳥が空を駆けている」
「おとぎ話じゃない」
「そこではドラゴンは人だった。こっちに来たらドラゴンになった」
不思議な話だった。ほら話ではと思ったが、そうでもないようだ。
ドラゴンはこの世界の生まれではないのだろうか。だったらどうしてやって来たのだろう。そんなことを考えているうちに、亜人は自分たちで仕事量の割り振りをはじめた。
エヴェリーナは彼らの邪魔をしないよう、そっとこの場を離れた。




