3-5 ダンジョンを試作しよう 2
エヴェリーナはドルルの前で、鏖竜山脈の地図を広げた。
「山のこのあたりに鏖竜要塞があるでしょ。そこは避けて、このあたりでダンジョンを試作したいのよ」
地図の真ん中やや上に丸をつける。
「冒険者が入って来られないところで、まず練習用に作るってわけ」
ドルルは地図を見つめると、二、三回首をかしげる。
「もっと、遠い、いい」
「遠くに作った方がいいの? 要塞から離れるのもあれじゃない?」
「住処、広げる、かもしれない」
つまりドルルは、将来鏖竜要塞を拡張するかもしれないから、邪魔にならないようダンジョンは遠くにあるべきと説明していた。
もっともな意見なので、もっと離れた場所に印をする。
「コボルドたちを貸してくれない。さっそく取りかかりたいから」
「絵、欲しい」
「あー、図面か。そうね」
ダンジョンの設計図が必要なのである。エヴェリーナは方眼紙を取り寄せると、自分の頭の中にあるダンジョンの図を書き込んでいった。
鼻歌を歌いながら書き込んでいく。罠を配したり、分かれ道や迷路状にしたりとなかなか楽しい。最深部に宝箱の印を付けたときは胸が躍った。
完成してからドルルに見せる。
「これでお願い」
ドルルはうなずくと、工作室で待機していた別のコボルドに手渡した。筆写され、複製された図面は作業担当のコボルドたちに渡される。
「描いといてなんだけど、うまくできる? 私の描いた通りに作ったら天井が崩れたりしない?」
「俺たち、調整する。どうにでも、なる」
「さすが職人ねえ」
ドルルの灰色の顔に、やや照れたような赤みが差す。
「あと、俺たち、やる」
「ちょっと、あたしもやるから」
エヴェリーナは言った。
「穴掘るのって楽しいじゃない。あんたたちだけでやるなんてずるいわよ」
「旦那、前に、やった」
「あれはただ言われて掘っただけだし。今度はあたし独自のダンジョンなんだから、自分でもやりたい」
ドルルは呆れたように首を振ると、ついてこいとばかりに先頭に立った。
◇ ◇
「ただいま」
エヴェリーナが土まみれになって戻ってくる。魔法のスコップを担いでいた。
ドラゴンはぎょっとする。
「すごい恰好だな。水を浴びたらどうだ」
「それより聞いて。ものすごく楽しかった」
彼女は、自分の考えたダンジョンがどんどん形になっていく過程がいかに楽しかったかを、口から泡を飛ばして説明した。
「もう罠なんて、仕掛けたあと自分で掛かりたくなっちゃって、ドルルたちに止められたわよ。あははは」
「楽しかったのなら良かった。仕事は苦労しながらやるものじゃない」
「早く誰か攻略しに来ないかな」
「あれは試作のダンジョンだろう」
そうだった、とエヴェリーナは思った。
「試作なんだから、誰も来るわけないか」
「どうやって作ればいいかだいたい理解できただろうから、今度は本番用をドルルと相談したらどうだ」
「でも試したいのよ。どういう罠が効果的とか、どこらへんに休息用の泉があるといいかとか、調べたいじゃない」
「自分で行けばいい」
「ドルルに止められたし、そもそも設計者が入っても試験にならない……」
そこでエヴェリーナは思いついた。だとしたら、誰かに試してもらえばいいのだ。心当たりはいる。
彼女はドラゴンに自分の案を話すと、鏖竜要塞から外に出た。




