3-4 ダンジョンを試作しよう 1
翌日になって、ドラゴンは亜人たちの前で、「これからはエヴェリーナが正式な鏖竜要塞の管理人だ」と発表した。
勢揃いした亜人たちは、特に驚きも嘆きもしなかった。ドラゴンは以前から引退をほのめかしていたため、予想していたらしい。
ドラゴンは引退したが、しばらくは鏖竜要塞に留まる。不慣れなエヴェリーナを補佐するためだ。
「あまり補佐することもないだろうな」
ドラゴンは楽しそうに言った。
「失敗も糧だ。好きにやってみるといい」
そう言われたので、エヴェリーナは好きにやってみることにした。
(ギルドの前に、ダンジョンに手を加えるか)
しかしいきなりダンジョンを作ったりはしない。いきなり即死罠を作って止められたことがあったからだ。まず、どんなダンジョンがあったのかを調べて見ることにした。
設計図等を収容してある部屋(エヴェリーナは図書室と名付けた)に椅子を持ち込み、腰を据える。
ドラゴンの仕事は丁寧だった。まずダンジョンをひとつ作って様子を見ることにし、そこから簡単なものをいくつか作って冒険者の具合を確かめる。それらを繰り返すことによって基準を作りあげてから、鏖竜要塞の建築に乗り出し、ダンジョン大量生産への道筋を切り拓いたのだ。
今まで作りあげたダンジョンは多い。ただ、鏖竜山脈と要塞が大陸の西側にあるため、西に集中しがちだった。
(このあたりは是正が必要ねえ)
冒険者はダンジョンのあるところに集まる。ただ飽きさせないためにも、熱いところや寒いところにも必要だろう。
また、ダンジョンは一度攻略されたところところでも整備が必要だった。罠は必要ないが、放っておくと山賊や鏖竜要塞で管理していないモンスターなどが住処にするのだ。それはそれでダンジョンらしくはあるが、程度問題として留意する必要がある。
ダンジョンは鏖竜要塞によって管理されており、記録もきちんと保管されている。おかげでやりやすい。同時に問題点も見えてきた。
エヴェリーナは自分の考えをメモにまとめると、広げた本や巻物を元のところにしまう。ドラゴンの元を訪れた。
「どうした。いきなりつまづいたか」
「そうじゃないけど」
彼女はドラゴンの前に腰を下ろす。
「ダンジョンって適当な場所に作っているわけじゃないわよねえ」
「そうだ」
「あたし、地図で確認したんだけど、街道沿いや人里近くにあるダンジョンって、踏破が簡単なんじゃない?」
「よく気づいた」
ドラゴンは楽しそうに笑った。
「往復の距離が短いダンジョンは簡単にしている。ここを難しくするとダンジョンそのものへの興味がなくなる。それに心情として、行き着くところが遠ければ遠いほど難しいものであって欲しいと考えるし、宝も豪華がいいと願う」
「素人でも簡単に踏破できるようにしてるのよね」
「人里近くのダンジョンを難しくすることもあるぞ。その場合は入り口に封印をして、他の所で魔具を手に入れなければ開かないようにするんだ。手の届くところに作ることで、いつかは攻略してやるという意欲をかき立てる」
「商売みたいね」
「似たようなものだな」
「ならこういう情報をギルドで扱わせるといいわね。ギルド所属員には無料提供、ギルド外の人間には有料」
もうひとつ質問した。
「どこにどんな罠を設置するとかは別の本に書いてあったけど、これって全部ぶっつけ本番だったの?」
「そうだ。俺も経験を積んだから、勘所は分かる」
「ふうん」
エヴェリーナは軽い相槌を打った。
ドラゴンは長生きしてるだけあって、ダンジョンに精通している。しかしこっちは素人同然。ディロックを誘い込んだダンジョンはドラゴンがほとんど考えたものなので、自分の手で作りあげたとは言えない。いきなり作ってもいいが、冒険者がことごとく全滅したりすれば寝覚めが悪くなる。
「だったら試作すればいいか」
なにも本番用を作ることはないのだ。造船技師だって、王から資金を引き出すときは模型を見せて説明する。ダンジョンも同じ。
エヴェリーナは自分の言葉に納得すると、さっそくドルルを呼び寄せた。




