3-3 要塞を見てみよう 3
薄暗い要塞内を、元のところまで戻る。歩きながらドルルに訊いた。
「ねえ、今までどれくらいのダンジョン作った?」
「たくさん」
具体的な数が知りたかったので質問を変えた。
「作ったダンジョンの、なんていうか設計図はどこかに保管してある?」
「こっち」
ドルルが先に立って歩く。細い通路を歩き角をいくつか曲がると、天井が高く、ひんやりしている部屋に出た。
壁面には棚がしつらえられ、丸められたダンジョンの設計図が詰め込まれている。反対側は本棚になっていて、革表紙の豪華本が並んでいた。
一冊抜き取って開く。魔具をどのようにして製作するか、どれを宝にすべきかなどのコツが記されていた。
天井はガラスがはめ込まれ、採光用の窓になっている。他に比べて明るいのはこのせいだ。文字を読む必要があるためだろう。
案内を終えたドルルは戻っていった。巨大な扉が開き、入れ違いになる形でドラゴンが入ってきた。
「ここに行き着いたということは、だいたいのところには行ったな」
「うん。面白かった」
エヴェリーナは素直な感想を口にした。
「あたしの部屋はろくに見てない」
「あそこは本来客間だ。管理者用の自室を用意させる」
「そもそもここ、なんで作ったの」
「根本的な問いだな。ひとつには失業対策だ」
「亜人の?」
「いや、人だ」
ドラゴンは意外な回答をした。
「この大陸は年々人口が増加している。食糧事情と衛生状態の改善が大きいんだが、そのわりには産業が追いついていなくて、若い男女が職もなくぶらぶらしている状態だ。体力が有り余っているのにやることがないとどうなる?」
「暴れるのかしらね」
「その通り。冒険者というのがそれだ。かつては山賊と変わらなかった。徒党を組んで隊商や旅人を襲ってばかりいた。頭が回るのになると、襲っておいて、次出会うと護衛と称して金を取ろうとしていた」
「うわー、たち悪い」
「だから本当に冒険できるよう、ダンジョンをたくさん作ることにしたんだ。無駄な体力をダンジョン攻略のために使わせるためにな。ダンジョンに潜れば栄誉も財宝も得られる。これで冒険者は本当に冒険者となったのだ。亜人の失業対策にもなったが、どちらかというと副作用みたいなものだ」
ドラゴンは少しだけ誇らしげだった。
「いかに平和な時代とはいえ、騒乱の火種は常にある。それらの芽を摘み、社会不安を減らすためにもダンジョンを作り、宝を配することによって情勢を操作するのだ」
「貴族が結婚前にダンジョン攻略するのも、あなたが作ったからやるようになったの?」
「いや。あの風習は前からあった。ダンジョンの絶対数が足りなくて貴族の独占状態にあったから、冒険者が冒険できなかったんだ」
今は多くのダンジョンが作られたおかげで、そういうこともなくなったとドラゴンは述べた。
「大きな洞穴や廃城が無数にあるはずもないからな。こっちで作らなければ増えないし、定期的な手入れも必要だ」
「だから管理してるってわけね」
「冒険者の管理まではいかなかった」
「あんたみたいなドラゴンは他にいるの?」
「いい質問だな」
ドラゴンは巻物を持って来ると広げる。大陸の簡単な地図であった。
「ドラゴンは大陸各地に散らばっている。多くはかしこいが狂暴で、人の言葉を解さない。冒険者や国の領主が敵視しているのがこいつらだ」
地図にいくつか点が打ってある。ドラゴンの生息地なのだろう。
「俺が来るまではそんなドラゴンばかりだった。俺みたいに喋るのが珍しいんだが」
「ドラゴンなんてどうにかして討伐する相手だからねえ」
エヴェリーナは納得しつつも、疑問が浮かんだ。
「あなた、来るって言ったわよね。ここの前は別の場所にいたってわけ?」
「まあそうだ」
「どこ?」
「内緒だ」
「もう」
頬を膨らますエヴェリーナ。
「俺のことはいい。明日からは本格的に管理人としてやってもらうんだが……」
ドラゴンは改まった。
「この大陸でダンジョンを作るのは、世界を操るのと似ている。ダンジョンがあるからこそ民衆の意識が戦争ではなく冒険に向くのだ。この大陸でダンジョンを踏破するのは名誉の証で、だからこそ冒険者は我先に突入するし、貴族は婚姻前に攻略する。ダンジョンがなければ生きる目的を失ってまた戦乱となるだろう。大陸全ての人、亜人を背負うくらいの意気込みが必要だぞ。大丈夫か?」
「もちろん」
「軽いな」
「こう見えて元貴族の娘よ。義務くらい理解してるわ」
彼女は請け負った。
鏖竜要塞の管理者になるのは、人間のみならず亜人たちも導かなければならない。彼らが飢えたりしないよう配慮することも必要だろう。そう考えると、なかなか大変な仕事だ。
(逆に考えりゃ、やりがいがあるってことね)
どうせ帰るところはない。だったら鏖竜要塞でダンジョン管理し、ギルドを作るのも立派な人生じゃないか。エヴェリーナはそんなことを思っていた。




