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悪役令嬢は冒険者ギルドを作る【第一部完】  作者: サクラくだり
第二幕 相手側から見たダンジョン
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2-3 ダンジョン攻略(ディロック視点) 3

 ディロックはダンジョンの奥に自分が行くと言って聞かなかった。


「もう恐れるものはないんだ。私が切り拓こう!」

「ディロック様になにかあったら困ります」


 フィーリーはディロックをなだめながら、冒険者たちに「先に行け」とうながした。

 冒険者が三人、ランタンを掲げて進む。

 いくらもしないうちに、叫び声と斬撃の音が響いてきた。

 一人が引き返してきた。別の冒険者に肩を貸している。


「スケルトンの群れと遭遇しました。武器に毒が塗ってあって、こいつが喰らいました」


 もたれかかっている冒険者の顔が歪んでいる。ディロックは叫んだ。


「毒くらいで引き返すなど……!」

「治療しましょう」


 フィーリーがディロックの言葉を遮って、治療役に命じる。薬師は薬で痛みを抑えると、魔法による治癒を開始した。

 痛みを抑える薬は効き目が強く、患者は朦朧となりやすい。フィーリーは冒険者の意識が混濁する前に質問した。


「スケルトンはどうなった?」

「まだいる……とっつぁんが戦っているはず……」


 あの年を食った、斧を使う冒険者が一人で戦っているようだ。聞いていたディロックが奮い立った。


「私が加勢しよう!」

「無茶です。僕ともう一人で行きますから」

「フィーリーはここで待っていろ!」


 いつものディロックだったら絶対に向かうことがないはずだが、小さな成功体験が臆病というかんぬきを外した。止める間もなく、宝剣を片手に走っていく。

 ディロックが到達したとき、冒険者は斧を振るって、二体のスケルトン相手に奮闘していた。


「ふぬっ、うぬっ!」


 冒険者の足元には多くの骨が散乱している。動きを止めたスケルトンのなれの果てだ。さすが腕利きだが、今は二対一で分が悪い。


「私に任せろ! うおおおおっ!!」


 ディロックは宝剣を抜くやただちに躍りかかった。真後ろからの叫び声に驚いたか、冒険者は急いで横にどく。


「とおおおおっ!!」


 宝剣を振り回す。大ざっぱで見境なく、とても訓練を積んだ動きではない。ディロックも剣の修行はしているが、儀礼化した訓練と実戦の間には大きな差があった。

 それでも狭い通路が幸いしたか、適当に振った宝剣の先が、スケルトンをかすめた。

 途端にスケルトンはバラバラになった。骨がからからと通路に落ちる。切っ先はもう一体にも当り、同じようにバラバラにした。

 スケルトンを倒したというより、勝手に動きを止めたという方が近い。それでも人生初のモンスター打破に、ディロックの興奮は頂点に達した。


「見よ、これぞ宝剣の加護だ! 我がハウベ家の勝利だ!」


 追いかけてきたフィーリーは、驚喜しているディロックと散乱している骨を見て目を剥いた。


「ディロック様がやったのですか……?」

「もちろんだ! これこそ我が実力だ!」


 フィーリーは傍らの冒険者に目をやる。斧使いは肩をすくめた。


「わしがやつらを弱らせていたんで」


 ディロックの耳には入らない。もはや怖いものなしとなり、ダンジョンを攻略して栄誉を得ようとする積極性に囚われていた。


「よーし、進むぞ!」


 もはや誰の忠告にも耳を貸すことはなく、ディロックはダンジョンを突き進んだ。


 それからが大変であった。ダンジョンは潜れば潜るほど罠が巧妙になり、モンスターは強くなる。天井から落ちてくる槍には毒が塗られ、落とし穴があると見せかけて、壁に触れると痺れるようになる。決まった順番で扉を開けないと延々ループし、暗がりに足を踏み入れただけで倦怠感に襲われる。

 モンスターもサンドゴーレムにストーンゴーレム、カッパーゴーレムにアイアンゴーレムとゴーレム尽くし。そしてどんどん固くなっていった。

 入った当初とは大違いだった。フィーリーと冒険者は苦労して罠を解除しゴーレムを倒す。その間ディロックはなにもせず、罠を見ているだけか、モンスターへのとどめの一撃だけ剣を振るった。

 ディロックからは、なにもしなくてもダンジョンが勝手に道を開けているかのようにも見える。これが全能感を刺激していた。


「さあ休んでいる暇はないぞ。立て、行くぞ!」


 疲労回復と治療をおこなっていた冒険者たちは、さすがに抗議した。


「そいつは無茶です。このダンジョンはもっと手強くなります。時間をかけないと」

「勘ですが、この先はかなりまずいです」

「ここで野営してもよいくらいです」


 思わぬ反発に、ディロックは不服そうにフイーリーを見る。こいつらを黙らせろと言う視線だ。

 だが彼は冒険者たちに同調した。


「いったん城に引き返し、もっと人手と装備を集めましょう」

「なにを言うんだ! それでもクララホルト家の家令か! ここで引き返したら、生涯臆病者のレッテルを貼られるんだぞ!」

「再び挑戦すれば不名誉にはなりません。冒険者たちの予感を信じるべきです」

「この腰抜けめ!」


 ディロックが宝剣を抜き、先端をフィーリーに突きつけた。


「ダンジョンを攻略し、クララホルト城に戻ればちょうど私の誕生日だ。盛大な祝宴と共に、シルミナとの婚姻の一人が発表されることになっているんだ!」

「このまま行ったら、それも全部ダメになって……」

「黙れ! 情けない奴らだ。この私が一人で攻略してやる!」


 ディロックは叫び、フィーリーと冒険者たちを睨みつけると、ずかずかとダンジョン奥へ歩いて行った。


 取り残された冒険者たちは深くため息をついた。


「フィーリーさん、どうします?」

「仕方ない。待ってよう。ディロック様も懲りて戻ってくるだろうから、それまで休んでいればいいよ」


 フィーリーの言葉に、奥へ行く必要のなくなった冒険者たちは安堵の表情を浮かべていた。

 だが彼は間違っていた。ディロックは確かに戻ってきたのだが、想像を上回ったのである。

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