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9 みのりの生活と意見

 秋野みのり。これが私の名前だ。大っ嫌いだ。

 小学生の頃から数え切れないほどからかわれてきた。特に二学期になるとね。

 「秋になると実ります」「実りの秋です」

 別に大したことないじゃない。世の中とんでもないキラキラの人だって一杯いる。でも私は嫌だった。

 イジメとは違うから私が名前のことで嫌な思いをしていてもあまり助けてはもらえなかった。

 原因を作った責任者である両親などは「みのりは人気者だな」などという勘違いをしたまま今に至っているし。

 冗談じゃない。私がどれだけの努力をしてこれまでの地位を学校の中で築いてきたと思っているのか。軽いからかいがイジメに発展しないように私は学力というガードを身にまとってきたのだ。ガキどもは何かに秀でた者には弱いものだ。サッカーがとか歌がとか、美人さんだとか。

 私の場合は学力だった。

 ガリ勉っぽく見えないようにするのが大変だったよ。塾なんか行かないようにしたし、遊びにもちゃんと付き合った。

 それからスポーツ、というか運動能力。たいがいの事は男子にも負けないように頑張った。幸い体力にも恵まれていたので小学校から中学にかけて私に勝てる奴は男子でもほとんどいなかった。

 ただ中学の後半ぐらいから徐々に男子との直接対決は避けるようにした。過去の栄光はいつまでも通じるわけじゃないぐらい分かってる。

 高校は地元から少し離れるところに進んだ。学力優秀だったので偏差値のいい所を選んだらそうなったのだ。結果的に過去の人間関係から少し離れることになった。

  成績トップ、スポーツ万能、ちょっと美人。わあすごいな私。

 と思ったんだけど気づきがあった。

 私団体行動だめだわ。

 外面は大丈夫。小中と鍛えてきた鋼のメンタルでなんとかなる。でもそれは自分の思いとは違う。

 授業中が一番気楽な時間になった。休み時間なんかなくてもいいのに、めんどくさいから。でもここで孤立するのもなあ。いまさらイジメなんかないとは思うけど。

 自分の立ち位置に迷ってしまった。今までは子供の頃からの積み重ねで何とかなってたんだ。今更新しく他者との関係を作り上げるのって面倒。

 ちょっと油断していたのかもしれない。数少ない同じ中学の先輩に目をつけられてしまった。で、クラブに勧誘されてしまった。中学と同じ陸上部に。

 まあ団体競技じゃないしこれで集団の中に紛れられるのならいいか。

 中学でもそうだったが特に専門を決めずになんでもやってみた。学内なら何をやってもだいたいトップだったからな。高校でもそんな感じだった。だけど県大会レベルだとそうはいかなかった。周りは褒めてくれるんだけど自分では悔しかった。やっぱりトップを取りたかった。

 混成競技を勧めてくれたのは例の先輩だった。

 「あなたならいいとこ行くんじゃない」

 そう言われると出来ないとは返せなかった。たいした準備もせずに二年生の春から私は七種競技に参加するようになった。

 なるほどやってみると私に向いた競技だった。二日間で七種類の種目を次々にこなしていく。百メートルハードルを走ったらぞろぞろとフィールドへ移動して走高跳。ちょっと休憩しているとまた移動して砲丸を投げる。フィールド種目は試技を繰り返すから結構時間がかかる。待ち時間の間に他校の選手たちと話す機会もあって面白かった。妙に皆さん仲が良いのだ。まあ年頃の女の子が集まっているわけだから自然とそうなるのかもしれない。私は新参者なのだからと話の輪からは離れていたのだが、砲丸投げのあたりで集団に飲み込まれた。私の投げ方だと肩をいためるらしい。いやいや大体こんなわけのわからん鉄の塊りなんか、か弱い女子に持たせるなよって思うのは私だけかな。まあ皆さんのおかげでそれまで目の前にポトンと落ちるだけだったのが三回目の試技では投げましたって感じになった。なんか嬉しかった。

 二日目には同じ投てき種目でもやり投げがあって、これは少し得意だった。小学校の頃からガキどもに混ざって野球もやってたからね、遠投の要領でやりを投げると結構距離が出て皆さんに褒められた。

 そんなこんなで三年生になるころには県内では上位を争うぐらいの位置にはいたんだけど、ついにトップには立てなかった。インターハイにも国体にも選出されることなく私は引退した。受験のためにっていう言い訳を残して。

 悔しいからなりふり構わず勉強して、最高学府は近隣では一番のところに合格できた。

 それなりに嬉しくてつい学内をふらふらしているところを例の世話焼きの皆さんの一人に見つかってしまった。

 おかげで設備は古いけど専用グランドがある環境で走ったり跳んだり投げたりする生活が始まってしまった。

 せっかくだから優良物件を見つけて苗字を変更するのが密かな今の目標だ。というか候補はもうみつけたんだけどね。


 「先輩、ダメじゃないですか急に練習さぼったら」

 「あれ、監督には言っといたんだけどな」


 陸連の人に呼び出されて隣の県まで行ってきたってなにそれ。

 私は一応先輩付きのマネージャーもやってるんですけど、聞いてませんね。

 準備もせずにお泊りまでして朝帰りですか。連絡もせずに。

 で、何ですかそのジジイと小娘は。練習を見学に来たって、どういうことですか。

 何も聞いてないんですけど、海外遠征って何なんですか。ちょっと。

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