Sクラス・その2
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「では、次に自己紹介を行います。皆さんはこれからこのクラスで共に過ごす間柄……その人の事を理解しなければ信頼関係は結べないでしょう。なので、先ずは皆さんがお互いにお互いの名前を知ることが大事なのです。その為の自己紹介です」
アリストテレス先生は生徒の名前が記された紙に目を通すと、一番上にあった名前を呼ぶ。
「それではフクスベルグ君からお願いします」
「はい」
名を呼ばれた男子生徒が立ち上がり自己紹介を始める。
「僕はユリウス・フォン・フクスベルグと言います。夢は将来必ず帝国騎士団団長になる事です」
ユリウス・フォン・フクスベルグが口にした騎士団長という言葉にエレインが反応するが、そんな彼女の肩を叩いて宥める。
「我がフクスベルグ家は代々、騎士として帝国に仕えた名家。更に僕の母親は魔導師の名家の生まれで、魔導師団に所属していた過去もあります!僕はその偉大な両親の血を受け継いで────」
「自己紹介は手短にお願いします。貴方の長い自慢話の為に時間を取っているわけではない事を理解しなさい」
「…………?!」
あっ、ユリウスが唖然としている。
彼は何か言い返そうとしていたが、アリストテレス先生の気迫に圧されてしまい、ただ口をパクパクとさせているだけであった。
「最後に何かありますか?」
「気軽にユーリと呼んでくれて構いません……以上です……」
意気消沈で席へと座るユリウス……なんだか可哀想だな。
次はその隣に座っていた女生徒が立ち上がる。
「わ、私はテレサ・アルテミスです!き、騎士志望ですが得意なのは弓です!こ、これからよろしくお願いします!」
弓を使うのか……確か弓を使う奴とも手合わせしたことが無いな。
得意と言うならば是非とも手合わせ願いたい。
「忠告しときますけれど、彼女の自信を砕かぬ為にも決して手合わせをお願いしたりしてはいけませんわよ」
チッ……マリアベルに釘を刺されてしまった。
その後も自己紹介は続く。
「ドリューズ・フォン・ペンドラゴン。剣士志望だ。よろしく頼む」
「リン・マオ。剣士志望だニャ。よろしく頼むニャ〜♪︎」
「フレデリック・フォン・オスプレイ。騎士志望だよ。よろしくお願いするよ」
「叢雲刹那。剣士志望。よろしく」
六番目に自己紹介をした叢雲刹那という女生徒に思わず彼女を見る。
彼女の腰には一振りの刀。
形状からして打刀……だがかなりの大業物らしく、装飾も見事なものだった。
彼女は席へと座るも、その際に一瞬だけ俺に視線を向けた。
その目は興味ではなく対抗心の炎が宿っている。
「どうしたの?」
「いや……どうやら俺の事を気に入らない奴がいるらしい」
「えっ、そうなの?どうしよう……斬り捨てなきゃ……」
「待て待て待て」
目に危険な光を宿し剣を抜こうとしたエレインを必死に止める。
しかし彼女はそんな俺の行動にキョトンとしていた。
「なんで止めるの?ムメイに酷いことする人は全員敵だよね?」
「どういう解釈だ?頼むから初日に問題起こすのはやめてくれ」
「う〜ん、分かった……じゃあムメイが見てないところで殺る事にするよ」
「俺の見ていない所でも斬り捨てようとするのはやめなさい」
危険な発想を遠慮することなく口にするエレインに若干引いてしまうも、そんなツッコミを入れて彼女の頭に軽く手刀を落とす。
彼女はキョトンとしていたが、今後はその言動には注意せねばならないだろうな。
そんな事を考えているうちにエレインの番が回っており、そして最後は俺が自己紹介をすることとなった。
「え〜と、最後は………ふむ。そう、貴方が……」
「……?」
「あぁ、いえ……こちらの話なので気にしないでいいですよ。それではムメイ・ミツルギ君、お願いします」
アリストテレス先生が俺の名を口にした瞬間、周囲の空気が変わった。
あいも変わらぬ様子なのはエレイン、マリアベル、アルの三人だけである。
「ムメイ・ミツルギ。剣士志望。刀は普段、邪魔になるんで亜空間にしまってるんで気にしねぇで貰いてぇ。まぁよろしく」
自己紹介を終えて座ると、周りから〝あいつが……〟、〝あの体育館も斬った……〟という声が聞こえてくる。
「有名だねムメイ」
「当然ですわよ。クラス選別試験の時の様子を見てたんですから」
「私は是非とも手合わせ願いたいと思ってるけどね」
「おっ?ンじゃあ昼休みの時に軽くやるか?」
「おやめなさい!もしも殿下を斬ってしまったら一大事ですわよ!」
「ちゃんと手加減するって」
「たった三割の力で体育館を斬った貴方の〝手加減〟とやらは信用出来ないですわよ!」
「そこ、うるさいですよ!レッドフィールドさんは罰として一週間の学園演庭にある初代理事長の胸像磨きを課します」
「どうして私だけなんですの?!」
理不尽な罰則に異議を唱えるマリアベルを笑っていると、アリストテレス先生は俺達の方も睨みつけてくる。
「何を他人事のように笑っているのですか?貴方達も同罪ですよ。アルフォンス殿下、ミツルギ君、ローゼクロイツさんには一週間の演庭の草むしりを命じます」
マリアベルよりも厳しい罰則だと思うが、ここで異議を唱えれば更に罰をくらいそうだと判断し、俺は甘んじてその罰を受け入れた。
しかしこの国の皇子であるアルにも草むしりをさせるとは、先生は確かに特別待遇をせずに平等に接するのだろう。
その意気込みを他の教師が疎まなければいいが……。
ちなみにこの後、マリアベルに恨めしそうに睨まれ続ける事になったのは言うまでもない。
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軽い学園の説明を受けたあと、学園内を案内されていた俺達は、その広さと施設の多さに圧倒されていた。
どこに何があるのか、その全ては覚えきれないので、それについてはおいおい覚えていくことにしよう。
そして今は休憩時間────
とりあえず飲み物を売っている場所は覚えていたのでエレイン、アル、マリアベルの三人を連れて飲み物を買いに行った。
しかしその途中でどこからか言い争う声が聞こえてくる。
「どっかで言い争ってるらしいな」
「そうなの?何も聞こえないけど……」
「幻聴ではなくて?私にも何も聞こえてきませんわよ?」
「私もだ」
あ〜……そういや普通の奴らは聞き取ることが出来ねぇかもな。
なにせ俺はジジイの修行の一環として魔獣が蔓延る孤島に放り込まれた事があった。
そこで一ヶ月間の生活を強いられ、自身の安全の確保の為に遠くの距離でも魔獣が接近してくる音を聞き取らねばならない状況だった。
なので俺は他人よりも耳がかなりいい。
それを説明したらマリアベルから獣を見るような目をされた。
「つーわけで俺はどの距離から声がするのかも分かる」
「痛い痛い痛い!とりあえず私の頭を掴むその手を離してから説明して下さいまし!!!!」
マリアベルにアイアンクローをしながら俺はそう話し、そして空いた手を耳に添えて声に集中する。
どうやら一人の女生徒を複数の男子生徒達が絡んでいるようだった。
「もしかしたら一時を争う事態かもな」
「頭の形が変わるかと思いましたわ……」
「ふむ……ならば急いで向かった方が良さそうだが、一応アリストテレス女史に報告すべきか?」
「そこはアルに任せる。もしアルも駆けつけて殴られたなんて事になったら無用な問題が増えるだろ?」
「なるほど……当事者の親の事を考えてか」
「この学園は貴族の子が多いからな」
「じゃあ、私とムメイとマリアの三人でそこに行くってこと?」
「そうだ。それじゃあアル、頼むわ」
「分かった。最速でアリストテレス女史に報告し、応援を頼むとしよう」
「分かった。じゃあ行くぞ二人共」
「私を他所に話が進んでしまいましたわね……」
現時点での行動に対する話し合いが決まった事に頭を抱えてしまうマリアベル。
そしてため息をついた彼女は先に走り出した俺とエレインの後を追うのであった。