強襲!?格闘少女、菲蘭
その日の昼休み、仲の良い連中と共に食堂で昼飯を食っていると突然食堂のドアが勢いよく開け放たれ、一人の少女が大声で阿呆な事を言い始めた。
「ここにこの学園で一番強い奴はいるアルか!!!!」
静まり返る食堂。
その場にいた生徒達は全員その少女に注目し、中には食べる寸前で動きを止めてポカンとしている奴らもいた。
俺も例に漏れずポカンとしていたが直ぐに隣に座っていたアルに声をかける。
「何だアイツ?」
「私が知るわけないだろう。東方でよく聞く〝道場破り〟か何かではないのか?」
まぁ確かに知らないのも仕方ねぇし、それに知りたくもねぇ関わりたくもねぇ人種でもあるな。
するとたまたま近くで食事していた兵士学科のガロンが傍に来て耳打ちをする。
「彼女は今日から冒険者学科に留学してきたフェイ・ランという生徒だ。華陵国から来たらしいのだが、来てそうそう片っ端からああやって強い奴を探しているらしい」
「へ〜、よく知ってんな?」
「アウローラが愚痴ってたんだ。〝変なのがクラスに来て困っている〟とな」
「あ〜……それはお気の毒に……」
ガロンの話からするにアウローラも挑まれた口なんだろうな……。
まぁこの場は無視すれば済む話なので、さっさと食ってここから立ち去るとしよう。
そう思っていた矢先、その少女フェイ・ランがこんな事を言い始める。
「そうか!そこにいる黒い服の男が強いアルな!」
「は?」
今この場にいる生徒達の中で黒い服を来ているのは俺だけ……つまりランは俺に狙いを定めたという事になる。
別に名乗りを上げた訳でもなく、〝無反応、無関心、無視〟を貫いていた俺に何故白羽の矢が立つのだろうか?
そう思って振り返ってみると、驚くことにここにいる生徒達全員が俺を指さしていた。
当然、アルやエレイン達も同様である。
しかも今しがたそばに来たガロンでさえ俺を指さしていた。
「テメェら!」
「諦めろムメイ……多分、ここにいる生徒達の殆どが彼女に絡まれたのだろう」
「頼むムメイ!ここでお前が犠牲になってくれれば全てが丸く収まるのだ!」
「────っざけんな!」
「さぁさぁ、今すぐ私と勝負するアルよ♪︎」
ヤバい……言い争ってる間に目の前にまで近づかれっちまった!
俺は思考を高速回転させ、必死に脳を働かせ、この状況を脱する策を練った。
そして今か今かと待つランを手で制すると、静かにこう言った。
「まぁ待て……とりあえず飯を食わせろ」
「おぉ!確かに〝腹が減っては戦ができぬ〟と言うアルな!よし、存分に食べるヨロシ!」
俺はわざとゆっくりと食べ、ランを焦らし始める。
すると見事にランは俺を急かし始め、対して俺は飄々とした態度ではぐらかす。
そして遂に俺が食べ終えたと見るやランは前のめりで勝負を挑んできた。
「食べ終えたアルな!さぁ勝負するアル!」
「まぁまぁ、その前にお前……髪にゴミがくっ付いてんぞ?」
「えっ?!何処アルか?」
俺が自身の前髪を指さしながらそう指摘すると、ランは俺が指さしている所と同じ場所を手で払い始める。
「違う違う……もっと右……そう、そこだ」
「ここアルか?」
(今だ!)
ランの視界が自身の手で遮られたのを確認した俺は直ぐに縮地でその場から立ち去る。
食堂を出た辺りで〝取れたアルか?────って、いないアル!〟という声が聞こえてきたが、俺は構わず逃げおおせるのであった。
その日の午後、教室にてエレインが呆れ顔でこんな事を言ってくる。
「あれは流石に卑怯だと思うよ?」
「うるせぇ……なんで戦闘狂と勝負なんざしてやらなきゃならねぇんだ」
「刀舟斎の弟子ともあろう者が勝負から逃げるなど情けないのぅ」
「喧しい!そしてテメェは自分の席に戻れ!」
神楽を蹴り飛ばし、あのランから逃れる術を模索し始める。
だが────
「頼も────ぅ!」
「────!?」
ランが教室の扉を開け放ったのと、それを確認した俺が直ぐに机の下に隠れたのはほぼ同時であった。
「食堂で会った強い者はここにいると聞いてやって来たネ!さぁ、私と勝負するアルよ!」
ランは鼻息を荒らげながらそう言うも、その俺が見当たらずキョロキョロしている。
「ちょっとムメイ……本当にどうするつもりなの?」
「誤魔化せ!どっかに行ったって言え!」
「ムメイならばここにおるぞぃ」
「テメェェェェ!!」
神楽に売られ、俺は仕方なく机から姿を現す。
お目当てが見つかったのか目をキラキラさせているランがとてもムカつく。
「テメェ……あとで覚えてろよ?」
「今日逃げ切れたとて、あやつは勝負を受けるまでどこまでも追いかけてくるぞ?ならば今すぐ勝負を受けてコテンパンにしてしまった方が良いであろうよ」
「他人事だと思いやがって」
「妾にとっては他人事じゃな。しかし私はお主の戦う姿を一目見たいと思うておったからの。丁度良い機会じゃな」
俺は暫く考え、結局ランとの勝負を受ける事にした。
なのでアリストテレス先生に闘技場の使用許可を得る為に訪ねる。
「ミツルギ君。貴方はよく勝負を挑まれますね」
「俺もそう思います」
あぁ、頭が痛い……。
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放課後、いったい何処から聞きつけてきたのか闘技場の観客席は生徒達で埋まっていた。
しかもよく見れば数人の教師までいやがる。
「……ったく、暇人の集まりかここは」
「皆ムメイの戦いが見たいんだよ。あの野外訓練合宿以降から人気らしいよ?」
「はぁ〜……それでもセツナの時は誰もいなかったじゃねぇか」
「その時はセツナが直接挑んで来たからね。今回は相手が学園中を回って勝負を挑んでいたし、ムメイが勝負を受けた事も知れ渡るのが早かったしね」
ため息しか出てこない。
ちなみに今回もエレインが介添人に立候補してくれている。
俺は彼女と共に今回の相手であるランが出てくるのを待っていた。
すると向こうの出入口から足音が聞こえ、華陵国の伝統衣装を着たランが姿を現す。
「ようやくこの学園で強い奴と戦えるネ!どこからでもかかってくるヨロシ」
まるで自身が挑まれる側のように振る舞うラン。
俺は面倒そうに前へと出ると、鬼正を出さずにそのまま構えをとった。
「え?」
エレインは俺が当然のように刀で戦うと思ったのだろう……しかし今回は相手と同じく素手でやらせてもらう。
「お前、確か剣士だったと記憶してるヨ。剣を使わなくていいアルか?」
「負けた時に〝相手は武器を使ってたから〟なんて言いがかりをつけられても困るんでな。相手と同じ素手の方が文句も出ねぇだろ」
「逆に〝素手だったから負けた〟と言わないで貰いたいから、遠慮なく剣を使えばヨロシ」
「悪ぃが御剣一刀流は格闘術にも秀でてんだよ。テメェに心配される必要はねぇんだわ」
「言ったアルね?後で吠え面かくなアル」
「それはこっちの台詞だな。ほれ、かかって来いよ?戦闘バカの脳筋女」
俺の挑発に額に青筋をたてるラン。
先ずは怒らせて冷静さを奪う事に成功かな?
さぁてこれが吉と出るか凶と出るか……。
「それでは、始め!」
アリストテレス先生の合図と同時にランは瞬く間に俺の懐へと潜り込んでいた。
そして地面にヒビが入る程の力で踏み込み、固く握り締めた拳を俺へと放つ。
「菲家獣王拳、〝猪突〟!」
大きな衝撃が俺を襲い、更にランは間髪入れずに次の技を繰り出す。
「菲家獣王拳、〝猛牛群進〟!〝跳馬〟!〝犀角〟!〝熊爪〟!〝踏象〟!」
反撃の余地も無いほどの無駄のない動きによる連撃……なるほど、誰彼構わず勝負を挑むだけの事はあるな。
だが、残念ながら最初に相手をしたのが俺だったのは不運だったよ。
「最後ネ!菲家獣王拳奥義、〝旋迅・獅子掌底〟!」
ランの最後の掌底は俺の胸部にヒットし、その際の踏み込みで僅かながら闘技場が揺れた。
だがこれで分かっただろ?
テメェのご自慢の技のその一切が俺には通じてねぇって事に。
「な、なんで効いてないアルか……?」
無傷で立つ俺を見て激しく動揺するラン。
「硬気功と軟気功を併用し、外からも内からもダメージを与えるってぇのは確かに強力な技術だ。だが、それなら相手も似たような技を使えるって可能性を入れておくべきだったな!」
俺はそう言うとランの腕を掴んで逃がさないようにし、第二関節まで曲げた状態の拳を彼女の鳩尾に添える。
「御剣一刀流格闘術〝神鎧〟応用技、〝撃鉄〟」
「ごフッ────」
技名を呟くと同時に俺は前へと踏み込みながら拳を完全に握り締める。
これは〝神鎧〟という〝衝撃伝導〟を用いた体術の一つだ。
本来ならば壁や床など、身体に接している場所に衝撃を逃がすものなのだが、それを応用すれば今のように受けた衝撃を留めて攻撃と共に放つことが出来る。
〝撃鉄〟は第二関節まで曲げた状態の拳を相手の身体に添え、そして前へと進むように拳を握り締めた勢いで溜めていた衝撃を放つ技。
華陵国で言う〝発勁〟のようなものだが、先程のランによる衝撃全てを乗せて放ったのでその威力は計り知れないだろう。
そんな〝撃鉄〟を鳩尾に受けたランはそのまま膝から崩れ落ち、そして項垂れるようにして意識を失った。
まぁここだけの話なのだが、先程〝衝撃全てを乗せて〟と言ったが本当はその半分程しか乗せていない。
あれほどの衝撃を全て乗せてしまえば、今頃ランの内臓は破裂しているだろう。
いや、下手をすれば穴が空いていたかもしれん。
まぁともかくこの勝負は俺の勝ちということで良しとしておこう。
これでコイツも二度と勝負を挑んできたりしねぇだろうしな。
俺は駆けつけてきた医療班にランを預けると、さっさとその場から立ち去るのだった。
だが、この時の俺はまだ〝フェイ・ラン〟という少女の全てを知らなかった。
そのランの性格を知ることになるのは翌朝、学園に着くなり待ち構えていたかのように立つ彼女と出くわした時だった。
「リベンジを申し込むアル!」
「やなこった」
なんと、ランは昨日の今日でまたしても勝負を挑んできたのである。
「リベンジって……せめて来年とかにしろよ。昨日負けたくせに今日勝てるわけねぇだろうがよ」
「そんな事やってみないと分からないネ!それに昨日は油断してただけアル。だから油断しなければ勝ってたのは私だたアルよ!」
今理解した……このフェイ・ランという少女は相当な負けず嫌いだ。
そして多分、また俺が受けるまで昨日のように追いかけ回して来る気だろう。
俺はランの腕を掴んで全力で放り投げると、そのまま教室へと退避するのであった。




