じゃじゃ馬龍皇姫?御龍院神楽
翌朝、昨夜の件についてガウェインから報告を受けた。
侵入者達はやはりルナマリアを狙った奴らで、しかし雇い主については何も吐かなかったらしい。
しかも尋問の途中で全員が苦しみ始め、数秒足らずでその場でこと切れたという。
「口封じか……」
「そうだろうな。しかし逆に奴らを雇った者は墓穴を掘った」
ガウェインは確信の表情でそう話す。
尋問を担当した兵士の話によると、奴らが苦しんでいる最中に十字の小さな痣が浮かび上がっていたというのだ。
「その特徴を持つ魔法がある。神聖魔法の一つ、〝断罪の十字架〟というものだ。かけられた者は絞首刑を受けたようにもがき苦しみ、体のどこかに十字の痣が浮かび上がる」
「つまり雇い主は教会関係者の誰かか?」
「推測するに〝人族至上主義者〟の教会関係者だろうな」
何度聞いても胸糞悪い話である。
口封じの為とはいえ、使い捨てのコマのような扱いをする奴が聖職者とは世も末だな。
「すまないが、まだ完全に聖女様の身の安全が保証されない内は……」
「みなまで言わなくていいって。まぁ今回の事で奴らも慎重になるだろうし、今日明日と刺客を放ってくる事もねぇだろ。だから俺は一旦警護から離れるが……」
そこまで言って、俺はエレイン達に視線を向ける。
すると彼女達はビクッと肩を震わせていた。
「お前らは引き続き頼むわ。くれぐれもどんちゃん騒ぎしねぇようにな?」
『は、はい……』
まぁ今回はそれによって相手が油断してくれたのだろうが、だからと言ってそれを良しとするのは駄目だろう。
ここは心を鬼にして釘を刺しておいた方がいいのである。
「さてと……まぁこの話はここまでにして、なんでも今日もまた留学生が来るらしいな?」
話を留学生の事に変えると、全員が興味深そうに頷いた。
「なんでも桜皇国と東の大国〝華陵国〟かららしいですわね」
「二人もか?俺はその事までは知らんかったが……」
「どちらも東方の国という事で、その文化に興味ありげな生徒達で溢れてますわね」
「桜皇国と言えばセツナが詳しそうだよね。セツナ、誰が来るとか分かる?」
「う、うむ……し、知らん訳では無いが……」
なにやらセツナの様子がおかしい。
いや、セツナがおかしいのは今に始まったことでは無いが、どうにも歯切れが悪い。
「お前にとって都合が悪い奴でも来るのか?」
「桜皇国からの留学生は〝龍皇姫〟として名高い桜皇国のお姫様だからな。緊張しているんだろう」
いつその情報を仕入れたのかアルがセツナの代わりにそう答えた。
まぁアルは皇子だから、同じ王族としてその辺り情報が入っているのだろう。
「ふ〜ん……相当、高飛車なんだろうなぁ」
「高飛車……かどうかは知らないが、相当な〝じゃじゃ馬姫〟とは聞いている。まぁ御龍院神楽姫は龍族とあって気位が高い……くれぐれも失礼の無いようにしなければな」
(御龍院……神楽……?)
どこか聞き覚えのある名前に俺の脳内にジジイとの会話が過ぎる。
確かジジイは相当なじゃじゃ馬姫が暴れているのをゲンコツで静かにさせたって言ってたな……確かその姫の名前が────
(まさか……なぁ……)
まぁ何となく不安を抱くも、俺達はそれぞれの授業の為にその場で解散したのだった。
そして騎士・剣士学科Sクラスにて、アリストテレス先生が一人の少女を紹介する。
その少女はとても煌びやかな服を着ていた。
桜皇国の伝統衣装ともされる〝着物〟というものだった。
「本日よりこのクラスで一緒に授業を受けることになった御龍院神楽さんです。桜皇国の王族の方ですので、くれぐれも失礼の無いようにお願いします。特にミツルギ君」
何故か釘を刺されたんだが?
見ればエレインを始めとしたクラス連中が全員うんうん頷いている。
そんな中、御龍院神楽はつかつかと俺の前に来ると、いきなり指を突きつけて高らかにこう言った。
「貴様が御剣無銘じゃな!貴様の師匠とは並々ならぬ縁があってのぅ……あの時出来たタンコブの礼をさせて貰うぞ!さぁ剣を抜くのじゃ!」
いきなりの宣戦布告に対し、俺はもちろんエレイン達も呆気に取られていた。
そして同時にジジイの話にあったじゃじゃ馬姫が目の前にいる御龍院神楽であると確信する。
教壇ではアリストテレス先生が〝また何かやらかしたのか?!〟という顔をしていたが、今回は完全に言いがかりであると理解して欲しい。
そんな俺達の様子などお構い無しに神楽は腰に差していた刀に手をかけ、勢いよく抜こうとする。
俺は直ぐに動き出すと、流れるような動作でそれを阻止し、そしてそのまま彼女の腰から刀を奪い取った。
「龍王一文字流居合い、〝瞬せ────何じゃと?!」
刀を失った為に動作だけの居合いを放とうとしてやっと奪われたことに気づく神楽。
俺はその後ろで亜空間に彼女の刀を放り込んだ。
「あぁ、何をする貴様!そして何をしたのじゃ今?!」
「御剣一刀流無刀術、〝刀狩〟。相手から武器を奪う技だ。そしてまた斬り掛かられても困るんで刀は没収だ、没収」
「返せ!その刀は我が国の霊刀・天叢雲であるんじゃぞ!」
「返したらまた斬りかかってくるだろうが」
「クッ──あの老いぼれどころかその弟子にまでコケにされてしまうとは……やれ、お主ら!」
神楽の号令により俺の背後に二人の男女が現れ、そして有無を言わさず刀で斬りかかってくる。
俺はその刃をそれぞれの手で掴み止めると、そのまま勢いよくへし折った。
「「なっ────?!」」
そしてその事に驚く二人の頭を掴むと、床に叩きつけてやったのだった。
「ふぅ────これで大人しくなるだろ……」
そう呟き神楽へと向き直った時だ……倒れていた男が俺の両足に掴みかかり、女の方が隠し持っていた短刀で襲いかかってくる。
「うおっ、しぶてぇ!」
「ムメイ!彼らは姫様と同じ龍族だ!頑丈さは人族の比では無いぞ!」
セツナ……それはもう少し早く教えて欲しかったよ。
まぁともかく頑丈っていうならもう少し力を出しても良さそうだな?
「御剣一刀流格闘術……〝寸撃〟」
「がっ────!」
掴みかかる男のガラ空きの背中に一撃をくらわせると、男はその衝撃で今度こそ気を失った。
そして間髪入れずにその男を蹴り上げ空中にいた女にぶつけてやると、女は受け身をとることも出来ずに床へと落下する。
最後に背中を打ったらしく顔を歪ませている女の眉間めがけ拳を振り下ろすと、女はそれを受ける前に声を発した。
「降参!降参する!」
まぁ降参してもしなくても寸止めにするつもりだったが、降参宣言をしたということでこの勝負は俺の勝ちで決まりだろう。
俺はゆっくりと立ち上がると、アリストテレス先生に向かってこう言った。
「え〜と……今のは不可抗力って事でいいっスかね?」
「………まぁ、不問とします」
「じゃあついでにちょっとお灸を据えさせてもらってもいいっスか?」
「へ?」
ポカンとしているアリストテレス先生を他所に俺はゆっくりと神楽へと近づくと、呆然としている彼女の頭にゲンコツを落とす。
「うきゃあ!?」
可愛らしい悲鳴ではあるが、言いがかりをつけて斬りかかり、そして従者を使ってでも危害を加えようとした事に対する罰としては軽いものだろう。
だがジジイ仕込みのゲンコツだからな……相当痛てぇぞ?
「なななな、なに、何を────」
頭を抑え混乱した顔でそう言ってくる神楽の頭にもう一度ゲンコツを落としてやる。
すると彼女は今度こそ黙ったのだった。
「うぅ……妾は龍皇姫……桜皇国の姫君なるぞ……そんな妾にこのような仕打ち……」
「は?仕打ち?当然の罰だと思うが?それとも何か?お姫様ならいきなり斬りかかっても許されると思ってんのか?なぁ、アル」
「む?まぁもしムメイが負傷したのなら国際問題として追求されるだろうな。桜皇国は我が国から理不尽な要求及び不当な扱いを受けても仕方の無いことだろうな」
「う……ぐっ……」
自身の行いの重大さを理解したのだろう。
神楽はそれ以上反論しようとはせず、俺に頭を下げたのだった。
視界の端ではアリストテレス先生が顔を青ざめさせていただけでなく、かなり震えていたので後で謝っておく事にしよう。
しかし留学してきて早々斬りかかってくるとは……これはジジイから聞いていた以上に御龍院神楽という少女はじゃじゃ馬なのかもしれない。
俺は前途多難な日々になりそうだと痛む頭を抑え、ため息をつくのであった。




