アルガナム邸での戦い
先程、「水龍昇〝滝〟を昇〝瀑〟では?」という誤字報告を頂きました
自分としてはあえて〝滝〟にしていたのですが、改めて見るとそちらの方がかっこいいので、〝昇瀑〟に直しておきました
本当に誤字報告でも気付かされる事が多いので助かります
セツナ奪還を決意した俺達はそれぞれに準備を整え、再び宿へと集合した。
「セツナ奪還の前に作戦会議をしよう」
アルの言葉に俺達は同時に頷く。
「先ずはマリアベル嬢とルゥで騒ぎを起こし撹乱して欲しい。その間に私とエレイン嬢でセツナの救出だ。そしてムメイ────」
「なんだ?」
アルに呼ばれた俺が返事をすると、アルは不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「暴れろ」
「………おぅ!」
アルの言葉に俺は最初はポカンとしていたが、直ぐに満面の笑みで返事をした。
そんな時、不意に誰かから声を掛けられる。
「ヒッヒッヒッ……残念だが、テメェらはここで死ぬんだよォ」
見れば建物の陰から続々と見知らぬ男達が姿を現してくる。
手にはそれぞれ武器が握られており、目には分かりやすいほどの殺気が宿っていた。
「俺らの雇い主からの依頼でな。テメェらを殺せばたんまりと金が貰えるんだよ。それはそれは一生遊んで暮らせる程のなぁ」
「気をつけろムメイ……私の記憶が正しければ、奴らは名の知れた暗殺ギルドの者達だ」
「へぇ〜……」
正直興味は無い。
もし何もせずに通してくれるのであれば、こちらも何もせずにいたのだが、邪魔をするというのなら手加減する必要は無い。
俺は鬼正を数回回した後、居合いの構えを取ってこう言った。
「ンじゃ、まぁ……準備運動がてら相手してやるとしようぜ?」
こうして俺達は襲いかかってくる男達をいとも容易く返り討ちにしたのだった。
長年、帝国で暗躍していた暗殺ギルドとあって、駆けつけてきた憲兵隊達は諸手を挙げて喜んでいたのは言うまでもない。
そして現在────俺達はセツナが囚われているアルガナムの屋敷の前へと来ていた。
途中、エレインとアルは裏から潜入する為に別れ、俺は陽動役のマリアベルとルゥ共に屋敷の門を蹴破った。
案の定、その音を聞いた衛兵達が集まり、俺達を捕らえようと動くが、こっちは捕まってやる気は毛頭ない。
斬り捨て、殴り、蹴り飛ばし、投げ飛ばし、衛兵達は応援を呼ぶも、俺達の前では何の意味も成さなかった。
そしてふと顔を上げると、視線の先に中年の男がこちらを見て驚愕の表情を浮かべている。
どうやら奴がアルガナムのようだ。
そのアルガナムが直ぐに顔を引っ込めたのを見た俺は、マリアベルとルゥにあとのことを任せて高々と跳躍する。
そして勢いそのままに窓を蹴破った。
その音に驚きこちらに注目するアルガナムとその部下らしき男。
俺は怒りが爆発するのを我慢しながら、ゆっくりと窓枠から降りる。
「き、貴様……!」
アルガナムが何かを言いたそうだったが、怒りのあまり言葉が出てこないようだ。
だが、俺はそれ以上に怒りを感じている。
とりあえずその顔に一発かましてやろうと踏み出した時だった。
アルガナムの横をすり抜けた一人の男が、手にしていた大剣を俺に振り下ろしてくる。
俺は冷静に鬼正を横に構えると、僅かに抜いてその剣を受け止めた。
「ほぅ……我が剣に耐えるとはやるな?」
「図体ばかりでかいテメェの斬撃なんざ余裕だ」
「フッ……その強がりがいつまで続くかな?」
「ムハマンド、そいつの事は任せたぞ!私は地下へと向かう!」
「了解です」
ムハマンドという名の男にそう指示を出したアルガナムは、急いで部下と共に部屋から出ていった。
それを見届けたムハマンドは飛び退きドアを塞ぐように降り立つと、剣の切っ先を俺に向けながら悠然と話し始めた。
「我が名はムハマンド・ドルッセン。アルガナム卿に仕えし、この国でたった五人しかおらぬ神鉄騎士だ。そして今ここで貴様を葬る者でもある」
「俺は御剣無銘。現役のS級討伐師で、テメェとテメェの親玉を討伐しに来た男だ」
「ははは!貴様のその剣のように無駄な事ばかり言う小僧だな!そのような細い剣で我が大剣〝デストロイ〟に勝てるとでも?」
「武器の善し悪しは関係ねぇ……重要なのはテメェ自身の実力だ。憶えとけ」
互いの剣がぶつかる音が鳴り響き、俺とムハマンドは再び距離をとる。
「一度ならぬ二度までも我が大剣に耐えうるとは……その剣、なかなかの業物とお見受けする」
「あっそ……細い剣すらへし折れねぇテメェの剣は相当な鈍だな。ちゃんと手入れしてんのか?」
「言わずもがな!」
ムハマンドによる横凪の一閃はアルガナムの机や本棚を軽々と破壊してゆく。
だが俺には当たらない。
「空振りだな。ちゃんと当てられるよう鍛え直した方がいいんじゃねぇのか?」
「減らず口だけは一流だな!貴様こそ防いたり避けたりしてるだけではないか!」
「テメェみてぇに無駄な動きをしてねぇだけだ」
「死ねぃ!」
ムハマンドは無差別に剣を振り回し、その影響で室内にいくつもの斬撃の跡が刻まれてゆく。
奴は自ら身の丈もの大剣を、自分の思うままに振り回していると思ってるのだろうが、俺から言わせてみれば大剣に振り回されてるようにしか見えない。
ざっと見て奴の大剣は五尺(約152cm)、対して俺の刀は七尺……二尺(約60cm)ものリーチの差があり、そのリーチ差を補うように手数で攻めようとしているのだろう。
だが無駄だ。
余計な動き、そして自身の大剣に振り回されているようでは、俺は捉えられねぇよ。
「せいっ!はあっ!ぜあっ!────ハァ……ハァ……何故だ……何故、当たらない……!!?」
「そりゃあ技もクソもねぇ、ただぶん回しまくってるテメェの攻撃なんざ、石像くれぇしか当たらねぇよ」
「くっ……!」
「見せてやるよ?本物の技ってやつを。そして、剣を振るってぇのがどういうもんかをよォ」
俺は鬼正を抜き放つと、鞘を投げ捨てそう言ったのだった。
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ムメイがアルガナムの書斎らしき部屋で何者かと戦っている時、私はルゥと共に屋敷から出てきた人物と対峙していた。
一見ただの執事と思われる方ですが、その纏っているオーラは彼が強者であると証明していた。
私は斧槍〝|轟き鳴り響くは神の雷霆〟を構え、ルゥは牙を剥き出し威嚇するように唸る。
「かなりの実力を持つお方と心得ますけれど、一体貴方様はどなたでしょうか?」
「私はズィルバー・フォン・アルガナム様にお仕えしております執事、名をディアム・ホーソーンと申します」
「そう……その執事様が、たったお一人で私達と戦うと?」
「敵ながらこの身を案じてくださるのですか?いやはや貴女はとてもお優しいお方ですな。しかし、ただの小娘と獣に後れを取る程、私は老いておらぬので心配は無用ですぞ」
「なるほど、ならば遠慮も要らないという事ですわね」
「遠慮など……今から死ぬ方々に遠慮をされたとなれば、私めが旦那様に怒られてしまいますな」
「あら?負けるのは貴方の方ですわよ」
そう言った時だった……突然私の体が宙に浮いたと思えば、次の瞬間には横に吹き飛び地面を二転三転していた。
そして直後に脇腹に鈍い痛みが走る。
『マリアお姉ちゃん!?』
「ほっほっ、他人の心配をしている場合ですかな?」
私の視界の先でルゥがディアムに蹴り飛ばされる。
どうやら私達が予想していた以上にやり手のようですわね……。
ですが、私はここでおめおめと逃げ帰るわけにはいかないんですのよ!
「どうやら気を抜いてしまっていたようですわね……でも今からは先程のようには行きませんわよ?」
「ほっほっ、負け惜しみのように聞こえますな」
「ええ、私こう見えて結構負けず嫌いなんですのよ?」
「これはこれは……潰すに惜しい若者ですな」
襟元を正してそう話すディアム……その背後ではルゥが狙いを定めて噛み付こうと飛び出していた。
だが────
「甘いですな」
『キャンっ!!!!』
「ルゥ!」
ディアムはルゥに目を向けることなくその噛みつきをかわすと、そのままルゥの腹部に膝蹴りを入れた。
それによるダメージが相当だったのか、蹴り飛ばされたルゥは口から血を流しながら倒れていた。
私は急いで駆け寄ると、ルゥの身体に触れながら彼女の身を心配する。
「ほっほっほっ、獣ごときにやられるわけが無いでしょう?おや、よく見ればエンペラーフェンリルではないですか?これは参りましたね……早く終わらせて手当をせねばなりませんな」
そうだった────アルガナムの狙いはルゥ……その為にセツナを利用しムメイを始末しようとしたんですわね。
私はその事を改めて理解すると、途端に猛烈な怒りが沸き起こるのを感じた。
ザッ────
「いったい何のおつもりですかな?」
そう訊ねてくるディアムに対し、私はケラウノスの穂先を突きつけながらこう言い放った。
「もちろん、貴方をぶちのめしてやるおつもりですのよ」
〝ぶちのめしてやる〟だなんて、前までの私だったら絶対に口にしない言葉ですわね。
どうやら私は相当ムメイの影響を受けている様子……けれど、不思議と嫌ではありませんわ。
目の前でディアムが瞳に危険な光を帯び始め私へと近寄ってくる。
彼に蹴られたダメージがまだ抜けず、そのせいで足が震えておりますが、まぁなんとかなるでしょう。
「うら若き乙女をここで散らせてしまうのは大変残念な事では御座いますが、これも主の野望を叶えるため……貴方にはここで死んでもらいます」
「その〝うら若き乙女〟とやらを舐めない方がよろしいですわよ?私はレッドフィールド公爵家令嬢、マリアベル・フォン・レッドフィールド!悪党ごときに負けてしまうような、やわな鍛え方はしてはおりません!」
とは言ったものの満足に動けないこの状況での戦闘は少々キツいものがありますわね……。
さてどうしたものかと悩んでいた時、ふとムメイとの稽古の時の事を思い出した。
─いいかマリアベル?視野を広く持て。そして自身の攻撃範囲と、空間を把握しろ。そうすりゃ何処から敵が襲いかかって来たとしても対処出来るからよ─
─あん?懐に入られた時はどうしたらいいかって?阿呆。何も突いたり、ちょいと距離のある敵を薙ぎ払ったりするのが槍の戦い方じゃねぇぞ?─
─もう少し細かく教えてくれって?いいか?回転の力を使え。身体に纏わせるように回せば懐に入られたとしても対処出来らァ─
(視野を広く持ち、ケラウノスの最大範囲まで把握し、そして身体に纏わせるように回す……)
ムメイに教わったことを一つ一つ意識するように私はケラウノスを回し始めた。
すると……
「ぬっ────!」
いつの間にか私の目の前まで来ていたのだろう……ディアムは直ぐに飛び退いたが、避け切れなかったのか彼の袖口が破ける。
「今のは危ないところでした……」
ディアムは気配を消すのが上手い。
だから私もルゥも彼の攻撃を防ぐことすら出来なかった。
けれど、今まさにそのディアムを捉えようとしていた。
私は何かを理解すると、小さく微笑み再びケラウノスを回し始める。
「レッドフィールド流雷槍術・外流、〝纏雷〟……そしてそれを昇華させて〝雷電〟!」
ケラウノスに纏わせた雷を更に自身の体へと纏わせる。
今の私は、そう……雷そのものですわ!
「そのような小細工が私めに通じると思わぬように!」
一瞬にして姿を消すディアム……どうやら直ぐにこの勝負を決めるつもりのようですわね。
ですが、今までのように行くとは思わないで頂きたいですわ!
「とった!死になさ────ぐほぉ!?」
手刀を入れようとするディアム。
しかしその前に私のケラウノスの石突が彼の腹部へとめり込む。
「ば、馬鹿な!私の動きを予測したとでも言うのですか!?」
もちろん予測などしておりませんわよ。
ディアムの動きなど目で捉えることすら出来ませんが、それでも対応できる術はありましてよ。
「私の〝雷電〟は常時、微細な電流を帯びてますの。それに目に見えないだけで微弱な電気も放っておりますのよ?それは相手を感電させる為ではなく、私の周囲に近づく者を察知する為にありますの。分かりまして?つまり貴方が私の射程範囲内に踏み込めば、自動的にその場所を特定出来るんですのよ」
これは言わばアンテナのようなものですわ。
まるで結界のように張り巡らされた微弱な電流は立ち入る者に反応し、それを介して私の脳へと送られる。
死角からゼロ距離まで詰めてきた相手には意味を成しませんが、ディアム程の慎重な性格ならば不用意にゼロ距離まで近づくことはないでしょう。
それが功を奏しましたわね。
それに、〝雷電〟の特性はそれだけではありませんのよ。
今から行う事こそが〝雷電〟の真骨頂とも言えるのですから。
「ディアム……貴方はかなりその速度に自身を持っていらっしゃるようですけれど、しかしムメイに比べれば駆け足程度ですわ。そして、貴方はもう私にすら追い越されてしまうのです」
「ほざくな!小娘風情が!!」
ディアムがそう言って地面を蹴ろうとしておりましたが、残念ながら遅いですわよ。
「レッドフィールド流雷槍術、〝迅雷〟」
「がっ────!」
突き抜ける衝撃、その後に鳴り響く轟音……ディアムの目線では一瞬の閃光と同時に衝撃が襲いかかって来たことでしょう。
これこそが〝雷電〟の真骨頂とも言うべき〝雷化〟である。
実はこっそりとムメイから〝縮地法〟なるものを教わっていたのですが、いかんせん上手く出来るまでにまだまだ時間がかかりそうですわね。
なにせ頭ではディアムの三歩先で止まるイメージでしたのに、実際は10メートル程離れた位置で止まっていたんですもの。
それでも教わり始めた当初、止まりきれず転がっていた頃に比べれば大きな進歩ですわね。
「な……なに、が……?」
迅雷を受けたダメージと、感電による痺れで満足に喋ることすら出来ないディアムは、それでも今自身が受けた攻撃について理解しようとしている。
私はそんな彼に容赦なくレッドフィールド流雷槍術奥義〝晴天霹靂〟を叩き込む。
「あがっ……!?」
「あら、ごめんあそばせ?私、元より貴方を許そうとか、情けをかけようとか思ってはおりませんの。だって貴方や貴方のご主人様は私の大切な学友を騙し、利用し、今は始末しようとしてらっしゃるんですもの……そんな情状酌量の余地なんて必要ないでしょう?」
「小娘がぁぁぁぁ!」
「それにね────」
血走った目で狂ったように突撃してくるディアムに対し、私はケラウノスの切っ先を下ろし静かにこう言った。
「貴方、ルゥの事を舐めすぎですわよ?」
「はい?」
ディアムがそんな素っ頓狂な声を上げたのと、ルゥが彼に体当たりしたのはほぼ同時だった。
ディアムは声も上げずに吹き飛び、ルゥは追撃しようと一瞬で彼の飛んでゆく先に回り込む。
その体は雷を帯びていた。
「私の〝纏雷〟はムメイのアドバイスとエンペラーフェンリルの固有スキルである〝纏雷〟を元に編み出しましたの。つまり同じエンペラーフェンリルであるルゥも纏雷を使えるんですのよ」
そう話している間にもディアムは回り込んでいたルゥの尻尾で殴り飛ばされ、私へと一直線に飛んできましたわ。
だから私はケラウノスの石突で彼を上空へと吹き飛ばしました。
「小娘と……獣ごとき……に……!」
「終わりですわよ。ルゥ!」
『うん!お姉ちゃん!』
雷電でルゥと共にディアムの真上へと移動した私がルゥに声をかけると、ルゥはひと吼えしてから雷を構えていたケラウノスへと落とす。
「今回だけは石突にしておきましょう。罪はちゃんと法の下で裁かれなければなりませんからね!ルゥとの合わせ技!レッドフィールド流雷槍術・併合奥義、〝雷霆〟!!」
「あぁぁ……あぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
轟音を鳴らし雷の如く速さでケラウノスはディアムの腹部にめり込み、それを受けたディアムはそのまま地面へと落下する。
そして舞い上がった粉塵が晴れた時、ディアムはクレーターの中心で白目を向いて気絶していた。
宙から降り立った私は彼の腹部の上で直立しているケラウノスを手に取り、そこでようやく安堵の息を吐いた。
「これで私達の仕事は終わりのようですわね」
『うんー♪︎でもー、もう一発くらい殴りたかったー』
「ハァ……貴方、だんだんとムメイに似てきましたわね。エンペラーフェンリルと言えど〝常に気高く優雅であれ〟ですわ。そんな粗暴な言葉はあまり使わないようになさいな」
『むー……難しいー』
「まだ幼いのですから直ぐに直せとは言いませんわよ。徐々に直していけば良いのです」
勝利後のほんの些細な会話。
しかしその時、突如轟音が鳴り響き、見れば屋敷からかなりの煙が噴き出していた。
「いったい何が起こってるんですの?!」
『多分、ご主人だよー』
「ムメイが?まったく……何をやらかしてるんですの?行きますわよルゥ!」
『うんー!』
私はルゥに声をかけると、急いで屋敷の中へと向かうのだった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
マリアベルがルゥと共に屋敷へと急いでいた丁度その頃────地下ではエレイン、アルフォンス、セツナ……そしてアルガナムが天井を突き破って落下してきた人物に目を見開いていた。
「ムメイ?!」
エレインが辛うじてその人物の名を口にすると、そのムメイは地に伏し気を失っているムハマンドの上で切っ先をアルガナムへと向けながら立っていた。
「貴様……!」
驚愕と怒りを滲ませた目で睨みつけるアルガナム……ムメイはそんな彼に静かにこう言った。
「よォ……これでやっとテメェを存分にぶっ飛ばせるな?」
そう言われ怒りに顔を歪ませるアルガナム。
今まさに、この長い夜の戦いに終止符が打たれようとしていたのだった。




