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追放剣士の剣戟無双【魔力0だけど強力スキルと剣術で無双する】  作者: SIGMA・The・REVENANT
第一部・第一章:魔力0の剣士
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剣士ムメイと騎士エレン

プロローグにしていきなりのレビュー、誠にありがとうございます!


しかも評価の方もして下さり感謝の極みです!


これからも応援よろしくお願いします!

 俺の名は御剣無銘(ミツルギ・ムメイ)……この国での呼び方をするならムメイ・ミツルギ。


 実はこの名前は本当の名では無い。


 本当の名前は故郷を追放された時点で棄てたからだ。


 そしてこの名前は俺が放浪の末に出会った一人の老いた剣士から貰った名前である。


 〝()が無くも剣のような男になれ〟という意味で名付けたという。


 そしてその日からその老剣士は俺の師匠となった。


 老剣士は御剣刀舟斎(トウシュウサイ)という名前で、なんでも極東の国・桜皇国(さくらこうこく)から来た剣士だという。


 非常に飄々とした人物で、のらりくらりとしながらも全く隙がない。


 しかも修行になると普段からは想像できないほど鬼のようになり、修行内容は他人から見れば拷問としか見えないほどの無茶ぶりのオンパレードだった。


 いつしか師匠と呼んでいた俺も、平然な顔で無茶ぶりしてくるその人を〝ジジイ〟と呼ぶようになっていた。


 しかしジジイは変わった人で、怒るどころかまるで俺を本当の孫のように接してくれた。


 修行は血反吐を吐くようなものだったが、それ以外の生活では俺もいつの間にか本当の祖父のように思えていた。


 そしてそれから数年後……14歳となった俺にジジイがこんな事を言ってきた。



「のぅムメイよ。お主、学び舎に興味は無いか?」


「は?なんだよいきなり藪から棒に……」


「ワシの弟子となってから、今のお主は我が剣術の免許皆伝の域にまで達しておる……だが、残念な事にお主にはまだ足りぬ事が多いでな」


「足りない事?」


「お主はまだ世界の広さを知らぬ」



 ジジイ曰く俺は世界の広さを知ることが今、最も大切な事なのだという。



「世界を知ればお主の見識も広がる。様々なものを見て、様々なものを聞いて、様々なものを知れ。さすればお主はもっと上を目指せる………それこそ、この世全ての剣士の高みたる〝剣神〟も夢ではない」


「剣神……」



 〝剣神〟────それは現在、剣士の中で最上級とされている〝剣聖〟の更に上。


 今では伝説上の存在とされているが、約500年前に実在していたとされる存在。


 ジジイもその剣神を目指して研鑽を積んでいたらしいが、年老いた今では〝剣鬼〟が関の山だという。


 そのジジイがそこまで言うのだから俺に期待してくれているのだろうが……。



「それで世界を知る事と学校に通う事がどう繋がるんだ?」


「実はアルカトラム帝国にある帝国総合学園の理事長はワシと旧友でな。その学び舎には様々な所から実力のある者達が集まってくる」



 ジジイは一旦そこで言葉を切るとお茶をぐぃぃっと飲み干し、そして不敵な笑みを浮かべてこう続ける。



「そこではお主が想像もつかないような力を持つ者が必ずおる。その者達と触れ合えばそれだけでもお主の糧となるのじゃよ。それは己の驕りを打ち砕き、更なる飛躍の踏み台となろう。どうじゃ?」



 確かに人にはそれぞれ独自の戦い方がある。


 それを体感すれば更なる技術向上に繋がるかもしれない。


 まぁ踏み台にするのは気が引けるが、その点を除けば非常に興味がある話であった。



「その学校に通うのにはどうすればいいんだ?」


「ほぅ……その気になったか。ならばワシから旧友に一報伝えておこう。まぁ入学は来年になるだろうからのぅ、お主はその日まで最後の修行じゃ!」



 それから俺とジジイは最後の修行に明け暮れた。


 最後という事でそれまでの修行よりも過酷ではあったが、俺は挫ける事無くそれをやり通した。


 故郷を追放された事で見返してやろうなんて気持ちは無かった……ただ純粋にジジイとの修行生活が楽しかったのである。


 ジジイにもっと剣を教えて欲しい。


 ジジイとの生活を楽しみたい。


 その思いはいつしか〝ジジイが目指した剣神になる〟という目標へと変わり、その為の鍛錬は欠かさなかった。


 そしてジジイとの生活最後の日……ジジイは俺を呼んで、一振の刀を差し出してきた。



「ワシの故郷である桜皇国で鍛冶屋を営んでおる知人に頼んでおった刀が届いたのでな、これをお主に授ける」



 ジジイから受け取った刀は俺の背丈よりも長く、そしてずっしりと重かった。


 更にジジイの想いも加わっているのか更に重く感じる。



「桜皇国に伝わりし幻の金属ヒヒイロカネと玉鋼。そしてこの世で最も硬いとされしオルハリコンにエルサレム神聖皇国のミスリル。更に龍神の鱗、角、爪。それらを素材として打ったこの世に一振の刀。その名を〝赫宵(かくよい)弦月(げんげつ)鬼正(おにまさ)〟。全長約七尺もの大太刀じゃが、今のお主ならば難なく使いこなせよう」


「こんなスゲェもんを……俺に?」


「老いぼれたジジイからの餞別じゃ」


「修行をつけてくれただけでもありがてぇのに、どうしてそこまで俺に……」


「お主がワシを本当のジジイのように接してくれたからじゃ」



 ジジイには娘がいた。


 将来、ジジイの剣を受け継ぐと言っており、それによって周囲からも期待されていた人物だったらしい。


 しかしジジイの娘は暴漢から近所の子供を守ろうとして……。


 娘を失ったジジイはその悲しみにより旅を始め、そして俺と出会ったのだという。



「もし、あやつに子が生まれておったなら、ちょうど今のお主くらいになっておったろうよ。血の繋がりは無くとも、お主はワシの自慢の孫じゃ」



 そう話すジジイに俺は涙を流しながら今まで育ててくれた事への感謝を述べた。


 そして現在、ジジイの元から離れ、ここアルカトラム帝国総合学園へと来た俺だったが、そこで二人の生徒が喧嘩している所に遭遇し、遠くからそれを見物する事にした。


 片方はガラの悪い奴だったが、意外にも貴族の息子らしく、その事を自慢していた。


 対するもう一人は本当にこの世にいるのかと疑いそうなほどの整った顔立ちだったが、どこか違和感を覚える奴だった。


 服装は男のそれだったが、どうにも男に見えない……その推測は当たっており、当の本人は男のように振舞ってはいるが、所々に女性のような動きが混じっている。


 しかし男のように振る舞うその女の動きは卓越しており、あっという間にガラの悪い貴族の息子を倒していた。


 俺は学園に来る途中で買った肉串片手にソイツに話しかけ、女なのに男として振舞っている事への疑問をぶつけたのだが、どうやらそれが悪かったらしい。


 自らを〝エレン〟と名乗る女は表情を引き攣らせ、その周囲にいた女達は一斉に俺を批難してきた。



「エレン様が女なんてふざけた事言ってるんじゃないわよ!」


「エレン様が羨ましいからって適当な事言わないで欲しいですわ!」


「そーよそーよ!」



 おぉ……〝女三人寄れば姦しい〟とよくジジイが言っていたが、確かにその通りだった。


 いや別に俺は貶めようとか思った訳ではなく、純粋に男として振舞っている理由を知りたかっただけだし、しかも女の身でありながらあそこまで見事な動きをしている事に感心しているだけである。


 当のエレンという奴はまだ固まっていたが、直ぐに我に返って女達を宥め始める。



「ははは。どうやら僕が美しすぎる為に勘違いしているようだね。だから君達も彼の事を許してやって欲しい」


「エレン様がそう言うのなら……」


「これ以上は何も言いませんわ」


「私もそうします……」


「ありがとう。それじゃあ早く教室へと行こうか」


「「「はい!」」」



 イチャイチャしながら校舎の中へと入ろうとしてゆくエレン達だったが、アイツらはまだ気づいていない。


 先程のガラの悪い貴族の息子がゆっくりと立ち上がり、そして剣を振り上げ斬りかかろうとしている事に。


 俺はそれを見送ったあと、〝仕方ないな〟という表情で地面を蹴ったのだった。





 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼






 僕………いえ、()の名はエレン────本名をエレイン・フォン・ローゼクロイツ。


 ローゼクロイツ公爵家の令嬢だけれど、理由があって男装をしている。


 幼い頃からずっと騎士に憧れていて、そして帝国騎士団初の女性騎士団長になる為にアルカトラム帝国総合学園初等部の頃から男として振舞ってきた。


 しかし女性特有の胸の膨らみだけはどうすることも出来ず、極東に伝わるサラシなどを使って胸を隠している状態だ。


 お父様やお兄様をよく観察して男としての動きも学んだ。


 口調も男性のように話せるようにも苦労した。


 そんな私の苦労を嘲笑うかのように一人の生徒が私が女性であることを見抜いた。


 どうにかその場は誤魔化すことが出来たけれど、まだ油断はできない……。


 何故ならばその生徒も今日からここに通う事になるのだから。


 先程のダルディーノ男爵家のオドバンに斬りかかられた時はどうにか触れさせずに対処出来たけれど、これから学園では剣の修練が行われる事になる。


 ふとした拍子にバレるかもしれない。


 特にムメイと名乗ったあの生徒には要注意だろう。


 そんな事を考えながら女生徒達と校舎の中に入ろうとした時だった。


 突然背後から悲鳴が聞こえ、振り返れば倒したはずのオドバンが私を斬ろうと向かってきていた。


 気づくのが遅れた……もう目の前まで迫っているこの距離では躱すことも防ぐ事も出来ない。


 死を覚悟しながらも女生徒達を守ろうと身構えた時だった。


 突然、オドバンの体が前方に回転し、彼は勢いよく顔面から石畳の地面に激突していた。


 その理由は直ぐに分かった……ムメイというあの生徒が背後からオドバンの頭を地面に叩きつけたのだ。


 しかも後頭部を掴んでいた訳ではなく、人差し指一本で……。



「男なら背後からなんて卑怯な事せずに、真正面から立ち向かえよ」



 今度こそ気を失ったオドバンを見下ろしながらそう言い放つムメイという生徒。


 私は彼にお礼を言おうと思ったけれど、運悪く騒ぎを聞き付けた教師の方々が来て、そのタイミングを逃してしまった。


 その後オドバンは医務室に運ばれ、騒ぎの当事者である私とムメイは共に事情聴取の為に指導室へと連れていかれた。


 私とムメイそれぞれの説明と、あの場にいた生徒達からの説明で私達はお咎めなしで解放されたが、入学式には残念ながら参加出来なかった。



「あ〜終わった終わった。さて……入学式には参加出来ねぇし、その入学式もまだ終わらなさそうだし、どっかで適当に時間潰してるかな」


「なら、少しだけ僕と一緒に来てくれないかな?話したい事や聞きたいことがあるんだ」



 気づけば私は彼にそんな事を頼んでいた。


 断れるかもと思ったけれど、彼は素直に了承してくれて、二人で中庭にあったベンチへと腰掛ける。



「んで、話ってなんだ?」


「どうして僕……いや、私が女であると分かったの?」


「ん?あぁ、そんな事か」



 彼はベンチから立ち上がると、目の前に立って私の体を指さす。



「前提として男と女とでは身体の作りが違う。いくら体を鍛えようが何しようがそこは変わらねぇ。」



 それは私も重々承知の上だ。


 だから出来るだけ男に見られるよう振舞ってきたつもりだった。


 しかしムメイにして見れば不十分だという。



「その前提の上で何故、俺がお前さんを女だと見抜けたその理由はな。お前さんの動きに違和感があったからだよ」


「違和感?」


「確かに他の奴が見ればお前さんは男にしか見えねぇだろうよ。だが、所々に女性特有の動きが混じっているのに気づかなかったか?」



 気づかなかった……私は完全に男のように振る舞えてたと思っていたから、ムメイの指摘は正に寝耳に水であった。



「よく注意して見なけりゃ気にならねぇレベルだがな。先ず、お前さんは笑う時に口元に拳を持ってくる。男なら口を覆うくらいだ。しかもその拳の小指が僅かに上がっている。それも男だったらまず無い仕草だ。あとは……」



 ムメイは次に私の腰を指さす。



「制服のお陰で線が細いだけに見えるが、男はどんだけ痩せようともそこまでのクビレなんて出ない。これは女性特有のくびれだな。まぁ他にも色々あるけどよ……だが普段は気にならず、しかし決定的な違いが一つある」


「それは……?」



 ゴクリと唾を飲み込みそう訊ねると、ムメイは自身の喉を指さしてこう言った。



「喉だよ」


「喉?」



 どういう事か分からない。


 男と女の違いに喉なんて関係あるのだろうか?


 私が疑問符を浮かべながら自身の喉に触れていると、ムメイが自身の喉と私の喉を同時に触れて確かめてみろと促してくる。


 なので言われた通りにムメイの喉と私の喉を同時に触れてみると直ぐに彼の言っていることが分かった。


 ムメイの喉には固い()()()のようなものがポコっと出ていた。



「これ……」


「これは〝喉仏〟って言ってな、まぁ人間なら誰にでも付いてるもんだ。だが女と違って男はこんな風に喉仏が少し出てんだよ」


「じゃあ君はそれで私が女だって見抜いたってこと?」


「遠くから見ていた時にはまだ確信は無かったが、目の前に来た時に喉を見て確信した」


「ははは……君に完璧に見抜かれていたのに、それでも誤魔化せると思っていた私が馬鹿みたいだよ……」


「男として振舞っているのには何か事情があるんだろ?俺はお前さんが女って事を言いふらすつもりはねぇし、あの場でそれを指摘しっちまったのも反省してるしな」


「事情……ね……別にそこまで重い事情では無いよ」



 私は大きく深呼吸をすると、何となく男装をしている理由について話していた。



「私は帝国初の女性騎士団長になりたいんだ」


「騎士団長に?そいつァスゲェじゃねぇか」


「ふふっ、ありがとう」


「でも女性騎士団長になるのに男装は何か関係あんのか?」


「私、女性騎士団長になりたいって事を両親や兄弟に話したんだ。そしたら〝女は直ぐに舐められるから務まらない〟って言われてしまったんだ。それが悔しくてね……だから初等部から男として振る舞うようにしてたんだよ。そして騎士団長になった暁には女性であることを明かして、女性でも帝国騎士団長になれるんだって事を証明したかったんだ」


「スゲェな……でも、流石に無理があんだろ?」


「まぁね。でも、私は本気で騎士団長になりたいんだ。だからそれが叶うまで私は負ける気は無いよ」



 そこまで言い切った所でムメイが拍手をしていた。


 まるで私の想いを理解しているかのようなその拍手に、私は思わず涙を零しそうになる。



「どういう奴かと思ったら、俺と同じじゃねぇか」


「同じ?君も騎士団長を目指しているのかい?」



 私がそう訊ねると、ムメイは舌を鳴らしながら指を振ってそれを否定する。


 そして天高く人差し指を掲げて不敵な笑みでこう言った。



「俺が目指すのは剣士の遥か高み……剣神だ」


「剣……神……」



 〝剣神〟……それは今では御伽噺にしか出てこないとされている剣聖の更に上の存在。


 他の者達が聞けば笑われるようなその言葉を、ムメイは本気の目でそう言っていた。


 何故だか私はその時、彼が本当に剣神になれるような気がして、思わずその姿に見蕩れていたのだった。


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