訓練前に
やって来ました野外合宿訓練!
騎士・剣士学科、魔導師学科、冒険者学科、兵士学科の四学科合同という事で人が多いこと多いこと。
この中に強い奴がいると思うと、どうにも手合わせしたい欲求が……。
「頼みますから、誰彼構わず手合わせ願おうとしては駄目ですわよ……」
「何故わかった?」
「顔に出てるよムメイ……」
俺に釘を刺してくるマリアベルと、呆れ顔でそう指摘してくるエレイン。
俺って実は分かりやすい人間なのだろうか?
そんな事を考えていると、アリストテレス先生を始めとした各学科の教師陣が来て、俺達に集合をかけた。
「本日より春季野外訓練合宿を行います。合宿中は常にペアになり行動するという事で、こちらでペアの組み分けを行い、掲示板に張り出しておきました。皆さんは直ぐに確認し、ペアを組みなさい。」
おぉ、俺はいったい誰とペアになったのだろうか?
教師陣の背後に張り出された組み分け表を遠くから見て、ペアの相手を確認する……相手はアルだった。
「ちなみに、野外テントもペアで使用するので、間違っても異性とペアを組めると思わぬように」
アリストテレス先生のその一言で大半の男子生徒が落胆した。
普通に考えれば分かることだろうが、それでも淡い期待を抱いていたらしい。
よく見ればエレインも落胆していた……エレイン、お前もか……。
「ムメイよ、早く確認しに行かないと待たされることになるぞ?」
「あぁ、アルは俺とだ」
「見えたのか?この距離で」
「修行で遠くにいる魔物を確認したりしてたからな、鍛えられている」
「耳も良くて目も良いなんて……貴方は獣の類ですの?」
「れっきとした人間だよ。ちなみに鼻もいいし」
「ほ、本当に獣みたいですわね……」
俺でなくても鍛えれば良くなるのだが、良くなると獣扱いされてしまうものなのだろうか?
まぁそれは置いといて……多分、これから野外テントの展張が行われるだろう。
入学式の日の件で世間話をする間柄になったゴリエ先輩からテントは自分達で張るのだと聞いていたので、今回もそうなのだろう。
ちなみに俺はちゃんとしたテントを見たことは無い。
孤島での修行の時は材料から調達していたので、今回支給されたテントを上手く張れるか不安だ。
だが、いざ張ってみるとかなり簡単だった。
河原での石積み修行よりも簡単だった。
アルと協力し合いながらテントを張った俺が周囲を見渡すと、他の生徒達は何故か苦戦していたのが不思議に思ったくらいだ。
「ムメイは手際よくテントを張れるのだな?」
「孤島での修行で使ったテントよりだいぶ楽だよ」
「ほう?どんなテントを使ってたんだ?」
「島にあるもので作ったテントだ」
「それは……確かにこちらのテントの方が簡単だろうな」
アルにまでドン引きされるとヘコむなぁ……。
「ともかく、そのお陰でこうして早く張れたのも事実だ。どうする?他の者達の手伝いにでも行くか?」
「あ〜……まぁ、全員が張り終えるまでは何もないんだろうし、そうするか」
俺のアルは腰を上げると、先ずはマリアベルとエレインのテントの手伝いへと向かったのだった。
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合宿が始まって先ずはテントを張ることになった。
私はマリアとペアだったので二人でテントを張り始めるけれど、どうにも上手く張ることが出来ない。
マリアも同じようで骨組みを手にうんうん唸っている。
そんな時にムメイとアルフォンス殿下が手伝いに来てくれた。
「どう?順調そうか?」
「これを見てそう思えるんですの?」
最近、こうしてムメイとマリアが会話しているところを見ると、何故かモヤモヤするようになった。
気がつけばムメイを目で追っていたり、何かしら話題を見つけて会話しようとしてたりもする。
朝のムメイとの稽古の時はとても楽しく、そして嬉しかった。
ずっとこんな時間が続けばいいと思っていた。
この感情が何なのかは分からないけれど、とりあえずマリアとではなく私と会話して欲しい。
なので私は二人の間に割り込むようにしてムメイに話しかけた。
「ムメイ達はテントを張り終えたの?」
「ん?あぁ、余裕だよ」
「そうなんだ、やっぱりムメイは凄いね!」
「そうか〜?こんなモン、簡単だろうがよ」
ムメイはそう言うと手際良くテントを組み立ててゆく。
そしてものの数分で見事にテントが組み上がった。
それにムメイはただ組み立てるだけでなく、組み立てていく間に丁寧に私達に組み立て方のコツなどを教えてくれたので、今後は苦戦せずに組み立てられそう。
「ありがとうムメイ。でも、手伝っちゃって良かったの?」
そんな疑問を投げると、ムメイはニヤリと笑って答える。
「駄目だったなら事前に言ってるはずだろ?言わねぇって事ァ他の組に協力しても良いって事だ。これからは互いに力を合わせ協力していくことを強いられるからな、これもその為の一つってこった」
「では、私も他の方々に教えに行きますわね」
「なら私も」
「私も、他の者達を手伝う事にしよう」
そう言って私達四人はそれぞれ他の組を手伝いに向かった。
その際にチラッとアリストテレス先生を見ると、先生は微笑みながら頷いていた。
それを見て私はムメイの〝相手の意図を読み取る能力〟の凄さを感じたのであった。
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全員がテントを張り終えたあと、俺はエレインと共に他の学科の奴らと顔合わせをしていた。
これから行われるのは魔物討伐訓練だ。
俺達が宿泊する広場のすぐ側には大きく高い壁が立っており、そこから先は魔物や魔獣が跋扈している森である。
この森も一定の区画が壁で覆われており、レベル的にも新人冒険者や討伐師に向けられる低い奴らばかりである。
そこを学園が買い取って魔物討伐訓練場にしたのだという。
俺達は他の学科の奴らとパーティーを組んで探索し、魔物や魔獣と遭遇した際は戦闘を行なう。
ちなみにパーティーメンバーは五人一組である。
魔物や魔獣を倒すと、俺達の腕につけられた腕輪にポイントが与えられ、一定のポイントを得れれば訓練は終了となる仕組みだ。
ちゃんとパーティーメンバー同士で協力し合えば、そう時間もかからず難なくこなせる訓練ではあるが、やはり現実はそうは行かなかったらしい。
なにせ目の前にいる奴らは喧嘩を売るかのように睨みつけてきたり、見下すような視線を向けているからな。
「はぁ……こんな弱そうな奴らとパーティー組むのかよ……」
「あら?守ってくれる人がいなければ碌に魔法も使えない人が何を言ってるのかしら」
「よせ、ここで喧嘩など見るに耐えん。これだから集団行動を出来ぬ者達と組みたくはないんだ」
うん……このまま訓練を行っても成功出来る気がしない。
俺は大きくため息をつくと、仕方なくエレインの前へと出た。
「ムメイ?」
「あ〜……エレインはちぃっとだけ目ェ瞑ってろ。出来りゃあ耳も塞いどけぇ」
「……?別にいいけれど……」
俺に言われた通り目を瞑り耳を塞ぐエレインを確認したあと、俺は深呼吸をしてから三人に向かって威圧を放った。
「「「────っ?!」」」
俺の威圧を受けて強ばる三人……俺はその三人に向けて低い声音でこう言った。
「どっちが強ぇだの弱ぇだの、くだらねぇ事言ってんじゃあねェよ」
気の弱い奴らならここで素直に頷くのだが、意外なことに魔導師学科の男子生徒が食ってかかってきた。
声は震えているので怖くはないがな。
「て、テメェ……い、いきなりしゃしゃり出てきて偉そうに言ってんじゃねぇよ!」
「あ?」
「そ、そうよ!急に偉そうにしてくるなんて頭おかしいんじゃないの?」
「理解に苦しむな」
魔導師の男子生徒の食ってかかる姿を見たからか、他の二人もそれに追随してくる。
こうなってくるともはや面倒くさい。
なので今度は三人に殺気を放った。
三人は俺に斬り殺された幻覚を見たのだろう……途端に脂汗を流しながらブルブルと震え出した。
女生徒に至ってはその場で腰を抜かしてしまっている。
俺は亜空間から鬼正を引き摺り出すと、回転させてから鞘の先を地面に突き刺した。
「こちとら何とか協力し合って何事もなく訓練を終えようと思ってんのによ……そっちがその気ならとことん付き合うぞ?ただし、相応の覚悟はしとけ」
「ちょっと!いったい何事ですか!?」
本気で斬る勢いで殺気を放っていると、アリストテレス先生が慌てた様子で駆け寄ってくる。
俺も本当に斬り捨てるわけでは無かったので、意識を散らして殺気をかき消した。
そのタイミングで三人は安堵に胸をなでおろし、エレインは未だに目を瞑って耳を塞いだ状態で〝ムメイ、もういいの?〟と問い続けている。
「ミツルギ君!どうしてこの三人に殺気を放っているんです?次第によっては厳罰も視野に入れますよ!」
「いやぁ、実は……」
俺は三人が仲違いをし、そしてくだらない事を言っていたので黙らせるために殺気を放っていたと説明した。
すると先生は額に手を当てながら叱責してくる。
「確かにこれから魔物討伐を行うというのに口論ばかりでは危険に晒されるでしょう……その点については賛同します。ですが、だからといって殺気を放つのはまた違うでしょう?今回は双方に非があるので不問としますが、次は厳しく対応しますからそのつもりでいなさい」
お小言を貰ってしまったが、まぁ俺としてもこれ以上するつもりは無いので反論はしない。
あの三人さえ協力してくれれば何の問題も無いのである。
ともかくこれから訓練を受ける者同士、ここいらで自己紹介をするとしようかね?
「あ〜、さっきはすまん。俺は騎士・剣士学科のムメイ・ミツルギだ。作戦指揮も出来るが、今回は不測の事態を除いて堅実に効率よく訓練をしたいと思っている」
「同じく騎士・剣士学科のエレイン・フォン・ローゼクロイツです。前衛として後方支援組を援護出来ればなと思っています」
「魔導師学科のハイゼル・フォン・アイゼンナッハだ。攻撃魔法はもちろんだが、回復や強化などの支援魔法も心得ている。支援や援護射撃は俺に任せろ」
「兵士学科のガロン・フォン・アルバスだ。防御系のスキルと魔法を心得ているので、防御に関しては安心してくれ」
「冒険者学科のアウローラ・ロア・エルフェルトよ。見ての通り私はダークエルフなの。弓の扱いはお手の物だから援護は任せてちょうだい」
ハイゼルは自信満々に、ガロンは自慢の大きな盾を叩きながら、そしてアウローラは長い髪をかきあげそう名乗った。
彼らの役職ならば前衛2、防御1、後衛2という配置になるだろう。
「よし、お互いに自己紹介を終えたところでさっそく訓練に移るか」
「とは言っても、私達が最後のようだけれど?」
アウローラにそう言われ周囲を見渡すと、確かに未だ残っているのは俺達だけのようだった。
見ればアリストテレス先生もこちらを見てため息をついている。
「やっとですか……コホン。さて、今回の貴方達のパーティーを担当する事になったアリストテレスです。とは言っても私は見ているだけですから、間違っても手伝ってくれるなどとは思わぬように。ですが危険な場合には救助には当たりますので」
そうして俺達はやっと訓練の為に森へと入る事になった。
まさか、その訓練中にあんな緊急事態が起ころうとは、この時の俺達やアリストテレス先生でさえも知る由もなかったのである。
三人「「「怖かった……」」」
エレイン「ムメイ……」
アリストテレス「ミツルギ君……」
ムメイ「俺のせいかよ!?」