モフくんのさがしもの
「────ねえ、ぼく、さがしものをしているの」
雪が世界をやさしく白に染めている頃、一匹の白くてまあるいもふもふが話しかけてきました。
「さがしもの? あなたはだあれ?」
「わからない」
「おなまえは?」
「わからない」
「どこからきたの?」
「わからない」
そのもふもふは、答えるたびにしょんぼりとした顔をするようになりました。
「わかった。じゃあ、あなたのことはモフくんとよぶわ」
「モフくん?」
「そう。しろくてまるくて、もふもふしてるからモフくん」
「ふーん」
モフくんは、その名前になんだか不満げでした。
「なにをさがしているの?」
そう尋ねると、モフくんはそのもふもふを右に傾けて、「うーん」と言いました。
「わからない」
そう答えました。
「じゃあ、わたしといっしょにさがしましょう。いったいなにをさがしているのかを」
「うん!」
そのとき、モフくんは初めて嬉しそうに笑いました。
「さがしているものってどんなもの?」
「わからない。けれど、なにかとってもたいせつなものだとおもうんだ」
「そうなのね。じゃあぜったいにみつけましょう」
「うん!」
モフくんは、また嬉しそうに笑いました。
モフくんたちは、町のそこらじゅうをさがしました。
木の裏、石やレンガの下。町のすみっこ。
どこにもありません。どこをさがしてもありませんでした。
モフくんの顔は、段々暗くなってきました。
「だいじょうぶだよ、モフくん。きっとみつかるよ」
「うん……」
モフくんは力なくうなずきました。
そんなときでした。
「あっ、モフくんあぶない!」
そう叫んだとき、モフくんは宙を舞いました。
モフくんは、やってきたトラックにぶつかってしまったのです。
「モフくん、モフくん、だいじょうぶ?」
モフくんは横たわって、ぶるぶると震えていました。
「わかった、ぼくのさがしていたもの」
「ほんとうに?」
「うん、ぼく、やさしいきもちをさがしていたんだ」
「やさしいきもち?」
モフくんは横になっていたからだを起こして、大きく大きくうなずきました。
「うん。そしてぼくのさがしものはもうみつかったよ」
「え?」
「きみのやさしいきもち。きみのおかげでぼくはさがしものをみつけることができた」
「ほんとうにありがとう!」
モフくんはそう言うと、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねました。
その途端、モフくんのからだが突然透け始めました。
「モフくん!」
モフくんの名を呼ぶと、モフくんはまたぴょんっと跳ねました。
「ぼくになまえをくれて、ありがとう。うれしかったよ」
モフくんはその言葉を最後に、どこかへ消えてしまいました。
さむいさむい、冬。
心にぽかぽかと、なにかが残っていました。
おわり