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RisingStreet Memorial

RisingStreet-謎外伝《双子の兄が、双子の妹のパンツを間違えて穿いて、心臓検診を乗りこえたと思ったら……》

RisingStreet(https://ncode.syosetu.com/n5579fk/)を読むことを推奨します。

また時系列は、本編Act2とAct3の間です。


お題からどんどん逸れていきますが、気にするな! (おい)

5月末の午前3時。唐突に雨が降り始めた門司。雨音に気付いて目を覚ましたリョウは、慌てて洗濯物を部屋の中に入れた。なお、この洗濯物の中には、使わなくなってバザーに出そうとしているものもある。


「うっわ……下着類は全滅だ……」


雨に濡れてしまった下着類。リョウの物干しのルールは、上着と下着を分け、さらにリョウとミヅカの物で分けていた。


「洗濯機を回すのは面倒だ……。手洗いでいくか」


少し大きめの桶を用意し、水を溜め、下着類を放り込んでいく。


「今は夜中の3時……眠たいな……」


リョウは何も考えず、感覚で下着を干していった。"分類"はしていない。


「全部終わった……。もう寝よう。起きれるか分かんねぇ……」


家にある扇風機全てをつけたリョウは、その場に寝そべってしまった。






「――――にき!? あーにき!? もう7時半だよ!?!? 遅刻しちゃうよ!?!?!?!?!?」


寝そべるリョウの上に跨り、大声で起こすミヅカ。時間が無い。今の時刻は、午前7時30分。急がなければ、遅刻してしまう。


「おはよう……7時半!?!?」


ようやく気付いたリョウ。時計を見た瞬間、事の重大さに気付いた。


「制服持ってこい! お前、カバンは持ってる……か。持ってくるから、とにかく制服と下着だ! 頼む!」

「おっけー!」


パンツを取るミヅカ。運良く乾いている。"リョウのゾーン"から取るが……


「あれ? こんな形だっけ……?」


形にやや違和感。しかし……


「ま、いっか。兄貴ー? 投げるよー?」

「へーい」


ミヅカがパンツを投げ、リョウはそれを穿く。制服を渡し、慌てて着替える。家を出て、2人は全力で走る。


「急ぐぞ。走っていく」

「誰のせいだか」

「うるせーよ」


色々言い合いながら、門司駅の改札内へと入っていった。


(パンツに少し違和感があるな……)

「今日、心臓検診だっけ」

「だな。まぁ、それといった問題は無いだろう」




……学校に着いた。2人はここで別れていく。午前8時20分。HR開始10分前だ。


(お腹が痛い……トイレに行ってくるか)


リョウは、トイレへと向かっていったのだが……


「ちょ……これ…………まじかよ…………」


ズボンを下ろして、そのパンツが目に入った。それは…………


「何でミヅカのパンツが……!?!?!?」


太股が普段よりも露出しているそのパンツ。…………ミヅカのパンツだ。おまけに、尻の部分に苺のワンポイント。何故ミヅカが朝の段階で気付かなかったのかは、焦っていたから……だろう。


(どうする!? 今日は心臓検診だぞ!?!?)


心臓検診。福岡県の高校1年生には、それを受けることが義務付けられている。


(着替え……バレたら……まずいぞ…………)


検診は体操服で受ける。つまり、着替える。ここでは、着替えは更衣室で着替えなければならない。


(ミヅカに話を……だめだ。あいつに言ったところで、何も変わらない。俺の代替のパンツがある訳でもない……)


……リョウは仕方なく、用を足すことにした。




着替えまで、残り2時間。授業は、『羅生門』の読み合わせ。


(どうするどうするどうする……………………)

「おーい? 西原ー? どこ読むか分かってるかー?」

「あ、ぁぁ……」


不安の中で、着替えまでの時間を過ごしていくリョウであった……。




休み時間、着替えの時間だ。リョウとハヤトは、更衣室の隅の方で着替えていた。


「ちょ、今度数学教えてくれ」

「分かった。ただ、英語を教えてくれることを条件にする」

「いいぞ、それくらい」


いつものノリで着替える2人。と、ハヤトがあることに気付いた。


「何か、パンツの露出が多くないか?」

「ッ!?」


その瞬間、リョウの頭の中の時間が止まった。


(まずい……バレてしまう……どうするか……)


とにかく、尻の部分を見せないように着替える。一応、前屈みにならないようにもする。


「リョウ? お前、様子が変だぞ? 変な汗かいてるし」

「まぁ……な」


『ピンポンパンポーン♪』


ここで、放送が入る。


『生徒会より、ゲリライベントのお知らせでーす! 発案人は生徒会長! その内容は……』


「待て、唐突に何だ?」

「知るかよ」


謎のイベントが発生した。その内容は……


『"適当に選んだ生徒番号の人のズボンを持ってきたら学食1ヶ月無料"!』

「「は?」」


ピンポイントな内容だった。


『対象者は、4時間目終了後! 待っててねー!』


健康診断の着替えを乗りこえたと思ったら、とても恐ろしいイベントが起きてしまった。


取り敢えず、2人は体育館へ。もちろん、男女別である。


「おーい、お前ら? 伝達不足だったが、ここでは下着姿になってもらうからな?」

(ぁ?)


これは最早処刑宣言。リョウは、トイレに駆け込んで行った。


(何しに行ったんだ?)




トイレでリョウはパンツを裏がえそうとしたが……


(裏からも見える……)


裏からも透けて見えてしまう。悩んだリョウは、下のシャツでパンツを隠すことにした。あくまで、『下着姿』だ。




シャツを、全力で伸ばしたリョウは、不自然な歩き方で戻ってきた。ペンギン歩きに近い。


「リョウ……何してんの?」

「気にするな」


そのまま、診断の順番を待った。




「西原くーん」


リョウが医者に呼び出された。シャツを掴んでパンツを隠しながら、不自然すぎる歩き方で衝立の中へ。


「西原くん……可愛らしいぱんt」

「それ以上口に出したら殺すぞ」

「では、横になってくださぁい!?」


リョウは、医者を威圧で黙らせて、検査を行わせた。




教室。リョウは、この局所をどうにか乗り越えて、体操服姿で安堵していた。5時間目が体育なので、着替えずにいた。


「そういえば、もうそろそろ昼休みだな」

「"イベント"の対象者って誰だ?」

「知らねーよ」


と、ここで放送が入る。


『イベントの対象者の発表です! 生徒番号で決めましたが、厳正なる抽選の結果……』


ここで、リョウとハヤトの出席番号を書き記す。リョウは16番、ハヤトは27番だ。なお、1年5組。


『"1516"……となりましたー!』

「うっわ!?」


番号が告げられた瞬間、全力で逃げ出したリョウ。


『制限時間は、今が1時ですから……昼休みが終わる1時半まで! では、頑張ってくださーい!』




(考えるな! 1時半になるまで逃げ続ければいいんだ! とにかく走るしかない!)


迫り来る生徒の波をかわしていくリョウ。ズボンを掴もうとする手には、手刀打ちで応戦。


「痛ってぇ!」

「関節死ぬかと思った……」


リョウの手刀打ちを受けた者は、全員痛がっていた。保健室へと向かう者もいる。


(正当防衛だ……逃げなければ、俺は『変態』とかいう不名誉な称号を掲げて生きていかなければならなくなる……!)




体育館に逃げ込んだ。


体育倉庫の鍵を、落ちていた針金で開け、倉庫に入ってから鍵を閉め、マットや跳び箱などでバリケードを作った。


「これで……いいか……流石に休まなければ…………」


息を切らし、パイプ椅子に腰掛けて休憩をとるリョウ。と、外から足音が……


(!? …………隠れるか)


残った跳び箱を、倉庫の隅の隅に設置し、さらに棚でそれをカモフラージュ。リョウ自身は、それを塞ぐ巨大なクッション"の中"に入って隠れた。


息を切らしているにも関わらず、息を殺すリョウ。と、体育倉庫の鍵が……


「なんかここに居そうだよね」

「リョウのズボンとか、絶対にオカズになるよね」


(何を言ってるんだこの女どもは……!)


謎の恐怖に震えながら、マットの中に隠れるリョウ。


鍵が開く。が……


「うわぁ!? 何これ!?」

「落ち着いて!? こんな仕掛けをするのは、バスケ部恒例だよ!?」

「いや、めっちゃ計算されてるっぽいよ!? あんな連中がそんな頭脳を持ってるわけないでしょ!?」

「丁寧にどかそっか」


マットを、上の方から丁寧に撤去していく女子。それに危機感を覚えたリョウは……


(あの小窓から……行くか)


一辺80cmの正方形の小窓。そこから、リョウは倉庫から脱出することにした。


脱出する為、マットの中から出て来たリョウ。が……


「本当にいた!w」

「ズボン頂戴~!?」


「うっわぁ……」


取り除かれていくバリケードの隙間から覗いていたのは、2年生と思われる女子2人。リョウは急いで窓を開け、脱出を……


「高い……!」


傾斜のある場所に立地する北附。体育館も、崖っぷちの所にあったりする。高低差は、13m程。教室棟Cの屋上に飛び移れそうな位置。


「行くしかない……か」


バリケードが完全に取り払われ、女子が入ってくる。もう、"飛ぶ"しかない。



「はぁっ!」



凄まじい声量の掛け声と共に、教室棟Cに飛び移ったリョウ。


「アイエエエエ!」

「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」


あまりにも人間業じゃない行為に、女子2人がNRSニンジャリアリティショックを起こしてしまった。




どうにか着地したリョウ。ここは、教室棟Cの屋上。


「危ないことをしたな……。ここで落らたら、怪我では済まなかったな」


屋内に入ろうとした時、階段を上っていく足音が。


(誰だ!?)


タンクの陰に隠れ、離れるのを待つ。屋上に来たのは……


「リョウ!? あんた出てきなさい!」

「ミハヤちゃん……ちょっと野蛮過ぎない?」

「ヒカリ、これには食堂をタダで使えるという重大な報酬がかかっているの。ここでやらねば……」

「えぇ……」


(なんでお前達も参加してんだよ!?!?!?)


ミハヤとヒカリだ。ヒカリは乗り気ではないが、ミハヤは変な笑いを浮かべながらリョウを探している。


「ズボンをよこせば開放されるのよ!? こんな鬼ごっこ疲れるでしょー!?」

(鬼ごっこって……今の俺にとっては『リ〇ル鬼〇っこ』なんだよ!)


捕まったら殺される(社会的な意味で)。これは、そんな鬼ごっこだ。


「ま、ここで見張っとくか」

「はーい」


2人は、屋上からリョウを探すことにした。その屋上に探している対象が居るとは思っていない。


(足音を殺して……行くか)


靴の音を立てないように、ゆっくりとその場から逃げようとしたが……


「ちょ、ここにリョウがいるってのか!?」

「体育館に行った先輩の目撃情報だって」


タクミとタツヤまで、やって来てしまった。


「ここに居る!? バカ言わないでよ」

「早く終わらせようよ……」


ミハヤとヒカリに、タクミとタツヤが加わり、4人体制となった。4人は、四隅から屋上を捜索する。


(キツい……もう、雨樋(あまとい)から逃げるしかないか)


リョウは、屋上の柵を乗り越えており、3cm程の突起にぶら下がっている状態だった。まるでS〇S〇K〇だ。そして、雨樋を使って1階まで行こう、という作戦に出ていた。


(がぁッ……)

「うがぁッ!」


余りのキツさに、呻き声を発したリョウ。それを聞いた4人は、リョウがいる方へ……


「ちょ!? あんた!? 何やってるの!? 死ぬの!?」

「死ぬくらいなら、ズボン捧げてよ!」

「早まるな! お前には妹がいるんだろ!?」

「流石に危険ですって!」


「死なねーよ! あァッ……」


苦しみながら、30m進むリョウ。そして……


「あぁ……キツかった……」


雨樋に脚を絡ませたリョウ。腕に溜まった乳酸を振り払い、それを伝って1階まで行く。


『えぇ!?』


その人智を超えた行為に、4人は呆気にとられていた。




「生徒会室に行って訴えるか……」


生徒会室は、教室棟Bにある。そこまで行きたいのだが……


「リョウだぁぁ!」

「もう面倒だ……」


疲れ切っているのに、迫り来る波。とにかく逃げるリョウ。現在は、100vs1の鬼ごっこ。


巨大階段から、教室棟Bの2階に逃げ込むリョウ。入った先は……


「サユリ!?」

「あ、どうもです。ここが、生徒会室ですよ?」

「お前だな……こんな企画を思いついたのは……」

「ズボンぐらい良いじゃないですか」

「良くねぇよ……。とにかく、匿ってくれ」

「ズボンを下さりましたら、いいですよ?」

「なら拒否する」


リョウは、生徒会室から退室した。……が。


「リョウ!? ……いい機会だね。リョウの汗まみれのズボンから、エキスを抽出しt……あれ?」


出会った矢先に、アヘ顔でよだれを垂らしながら、よからぬ事を思いついていたミユ。リョウは、ミユの視界が乱れている隙に逃走した。


「あれま」

「ミユちゃん……」




終了まで、残り10分。


「まだ残り10分かよ」


対策拠点室の鍵をピッキングで開けて、その中に入ったリョウ。鍵を閉めた。


(ここで10分やり過ごすか)


と思っていた矢先に、鍵が開いた。


「ぇ」


入ってきたのは……


「こんなイベントに付き合うだなんて、随分と子供っぽくなったのね」

「お前か。こんなイベントはやりたくない」


アヤカだった。リョウの横に座り……


「今、私があなたのズボンを奪取してもいいのだけど、嫌なのでしょう?」

「ああ。特に、お前にはやられたくないな」

「色々聞いたわ。飛び写ったり、雨樋で1階まで行ったりと……。そう必死に逃げるということは、秘密があるのでしょう?」

「ああ」

「と来ると、ズボンというか……あなた、まさか下着に…………」

「ああそうだよ。下着だよ」


リョウがそう言うと、いきなりアヤカがスカートを下ろした。


「あなたに1番バレたくなかったけど、私だってこんな下着穿いてるんだから、あなたのパンツがどうたらって今更驚かない」


そのパンツは、普段のクールなアヤカからはとても想像出来ない、可愛らしいうさぎのワンポイントの付いたものだった。


「お前……それ、数年前に俺が仕方なく買ってあげた……」

「そうよ。小学校5年の時ね。学校で下着を盗まれて、何も穿かずに帰ろうとしたら、あなたがいきなり買ってくれた物。今でも使えるのが不思議だけど、使えるものは使うわ」


そう言いながら、何故かパンツを脱ごうとするサユリ。


「何をしている!?」


唐突すぎる展開に、リョウが目を伏せた。


「見せてしまったからには、『その先』もしないとならないと思うけど」

「何処でそんなこと聞いた?」

「ミユがそう言ったからね」

「あいつの話を信用するな。とにかく、スカートを履け」


そう言われると、アヤカはスカートを履いた。


「とにかく、あなたの下着に秘密があるみたいね。それだけは言ってもらうわ」


リョウは何かを決めたのか、深呼吸して事実を話した。


「ミヅカのを……穿いてきてしまった」

「何しているのよ」

「うるさい」


話を聞いたアヤカは、部屋から立ち去った。


「まぁいいわ。せいぜい残り3分頑張りなさい?」


その言葉を残して。


(意外だったな……。まさか、俺が買ったパンツをそのまま使っているとはな)


この地点でリョウは気付いていない。


アヤカが、対策拠点室の扉を開けっ放しにしていることを。




13:28。対策拠点室の時計は、その数字を表していた。イベント終了まで、残り2分。


しかし、悪夢は2分で終わらない。


『校長先生の許可を得られたので! 5時間目は! 全部イベントに回しまーす!!』


お茶を飲んでいたリョウは、その放送を聞くや否や、口に含んでいたものを噴き出した。


「はぁ!?」


制限時間、追加で50分。残り52分。どこぞの逃〇中の制限時間レベルで逃げ延びなければならなくなった。


(勘弁してくれ……)


対策拠点室の鍵を閉めようとした時……


「うわ……あの尼ァ…………」


開けっ放しの扉。そこに立つのは、ミユとミヅカだった。


「来て正解だったよ。色々ガバガバだね。可愛そうだけど……」

「兄貴……こうやって逃げてるのも、私のせいなのだろうけど……」


「「お前は既に包囲されているゥゥゥゥゥッ!!!」」


「はい!?」


包囲。その単語を聞いたリョウは、慌てて窓の外を見た。そしたら……


「ミユ……まさか…………アヤカが言いやがったのか? ここに居るということを」


全校生徒の半分が、この対策拠点室を注目していた。それらは、リョウの姿を確認した瞬間に、走ってこちらへと向かっていった。


(仕方ない…………換気ダクトだ)


リョウは、椅子を投げて換気ダクトの格子を破壊し、天井のダクトへと飛んでぶら下がり、腕力だけでダクトの中に入っていった。


「「猿!?」」


天井から聞こえる足音。ミユとミヅカは呆気にとられた。




丁度持っていたマスクを着用し、埃まみれのダクトの中を匍匐前進するリョウ。時々ある格子からは、廊下や教室が見える。


(混乱しているな……って、こっち見ているな)


ダクトに逃げたという情報は、既に伝わっていた。廊下に居る者も、教室に居る者も、皆天井を見ている。


(このダクトは、屋外につながっている。これを伝っていけば、地上に出ることも容易かもしれない)


下の階のダクトへと繋がる部分から、リョウは両手両足を突っ張らせて下っていった。S〇S〇K〇の、ス〇イダ〇ウォ〇クのような動きだ。




どうにか、地上にたどり着いた。埃をはたいた。ここは、『立ち入り禁止』と書かれた柵の中にある、機器類の陰。ここに居れば、見つかることは無い。しかし……


(ミユは、この校内の構造を全て把握している筈だ。そうなると、ここの場所を突き止めることも容易……駐車場棟だ)


この棟から、駐車場棟へは、草が茂ったこの校舎裏を伝ってすぐ。移動を始めたその時。


『可哀想なので、リョウくんは駐車場棟屋上のスイッチを押したら、イベントを終了させられるという追加ルールを作ります。リョウくん? 潔く……諦 め て ね ?』


(諦める!? 馬鹿を言うな! 丁度いい。押してやる。そのスイッチを……!)


珍しく、物事に本気になったリョウ。


(押す……絶対に!)


と、ここでその意思を踏み躙るような一声が、校舎裏に響く。


「いたぞおおおおおおお!! 校舎裏だあああああああ!!」


生い茂る草を退かして、全力で走るリョウ。巨大階段まで出ると、そこには生徒の壁が……


「俺と勝負するか……?」

「ズボンを取れえええええええ!!」


前方と後方から、万力の様に迫り来る壁。それに立ち向かったリョウは……


退()け!」


リョウは、生徒の壁の一部の顎に一発、拳を食らわした。食らった生徒はよろけて勢いが落ち、その隙間からすり抜けるように階段を駆け上がっていった。




駆け上がった先にある駐車場棟。丁度来た、来賓の車の陰に潜みながら、屋上へと向かう。なお、この敷地内の制限速度は10km/h。その為、走れば車と並走できる。


(いける……いけるぞ!)


来賓の車は屋上の1つ下の階で停まったが、リョウはそのままスロープを駆け抜けていく。そして……


(あれが……ボタン……!)


ボタン目がけて死力を尽くして駆け抜けるリョウ。しかし…………


「何ッ!?」


前方に停っていた車の陰から、タクミとタツヤ、ミハヤとヒカリ、サユリとアヤカ、ミユとミヅカがそれぞれペアで出て来た。


「そんなに俺を追いかけ回して楽しいか!?」


『そうだよ!』


その回答に、リョウは呆れた。


「お前ら酷すぎるだろ……な? ハヤト。見ているにならこっちに来い」


物陰に隠れてこれを見ていたハヤトが、リョウの所へ。


「ハヤト……今は、お前だけしか頼れる人間がいない。ボタンを押すのに協力してくれ」


リョウは、ハヤトに協力を要請した。しかし。



「嫌だね。その方が、面白いだろ」



現状、1vs9。足は震え、東西南北と前方に居る(望団)に怯えているリョウ。ここで、最後の賭けに出た。


「もう……どうにでもッッッ!!」


震える足を黙らせて、無理やりボタンへと突っ込んでいったリョウ。ボタンを……


「リョォォォォォォォウ! そのズボン貰ったァァァァァッ!!」


1人、リョウの横からズボン目がけて突っ込んで行ったミユ。ズボンを……



「押したぞッッッ!」



その感触で、幸福感に包まれたリョウ。しかし……



「取ったぞーッ!!!!!」



足に、風がよく当たる。ズボンを着ているのならば、ありえないであろう太腿の感触。


それを感じたリョウ。幸福感は、瞬間的に絶望へと形を変えた。



「ははは…………ズボンは何処だぁ…………?」


「此処にあるよ!」



9つの視線は、全てリョウのパンツに刺さっていた。


どう見ても女の子用で、イチゴのワンポイント。


……ミヅカのパンツだ。しかも…………


「何で…………バザーに出そうとした小学校時代の奴を穿いてるの?」


その事実に、リョウの脳内は完全に真っ白になっていた。


「ミヅカ……お前だよな? お前が渡したパンツだよな?」


「確認してないのは兄貴じゃん」



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」



その絶叫(さけび)は、この枝光中に響き渡った。


その絶叫(さけび)は、枝光の伝説になった。



その絶叫(さけび)は…………リョウの人生が(ある意味社会的な意味で)終わったことを告げる合図だった。



午後1時57分。それが、醜態を晒した時間(確保時間)であった。

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