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星を手に入れた天使

作者: きたさん

『声を無くした悪魔とお節介な天使』


生まれつき声が出せなかった落ちこぼれ悪魔はいつも泉で読書をしていました

声が出せない自分では人を惑わす事も出来ない為、他の悪魔から迫害を受けていたからです

しかし、いつもそんな悪魔の元に変わった訪問者が現れました


「今日はこっちの方にいたのか」


お喋りな天使です


この天使は悪魔の自分を見つけても滅しようとしない変わった天使でした

初めてこの天使に会った時悪魔は「(やっと自分を殺してもらえる)」と思いました

しかしその天使は幾度となく泉に現れ、ただ無口な自分に対して話しかけるだけで何かしようとはしませんでした


今日も新しい本を読んでいると天使が現れました

返す言葉もない自分の元によく足繁く通うなと半ば呆れながら本を読み進めると、天使が何かに気がついたかのように近づいて言いました


「なぁ、その新しい本は面白いのか?」


悪魔は驚きました

表紙はいつも同じものを選んでるはずなのになぜ新しい本だと分かったのか

驚いた悪魔に気がついたのか笑いながら天使は言いました


「いつも悲しい感想しか言わないのに今日はワクワクしてるみたいだから」

もしかして、と悪魔は思いました

そして思い切って心の中で話しかけました


「(僕の声が聞こえるの?)」

「聞こえてるとも!とても美しい星のような声だ!」


悪魔は泣きました

生まれて初めて泣きました

周りの人も両親も誰も自分の声を聞いたことがなかったからです


いきなり泣き始めた悪魔を見て天使は慌てました

「ど、どうしたんだ?聞こえたらまずかったのか?聞こえないふりをしてた方が良かったか?」


慌てる天使を横目に悪魔は顔を上げる事が出来ませんでした

この天使は最初から自分と【会話】をしようとしていたのです

嬉しくないはずがありませんでした


それから悪魔は話せなかった時間を取り戻すように天使と【会話】をしました

それは他の人から見たら天使が一方的に悪魔に話しかけているようにも見えましたが、2人にとっては立派な会話でした


そんな穏やかな日が続いたある日、突然天使が泉に来なくなりました

悪魔は困惑しました

自分が何かしてしまったのか

自分が変な事を言ったせいで来なくなったのかと

天使が来なくなって10日過ぎると、悪魔は心を決めて魔女の元に向かいました


魔女の元に着くと悪魔は自分の羽根を切り落として魔女に渡しました

そして一つの手紙を渡しました

『天使がどうしてるのか見てみたい』

魔女はその手紙を受け取ると大きな水桶を覗き込むように言いました

水桶を覗き込むとあの天使がいました

しかし、牢屋に入れられ顔に生気が感じられません

周りの大天使からは「悪魔に魅せられた以上、眷属として作り変えることしか出来ない」という言葉が聞こえます


そこで悪魔は初めて自分が悪魔である事に深い悲しみを覚えました

悪魔は目の前の魔女にもう一つ手紙を渡しました

『天使を救いたいがどうしたらいいか』

手紙を受け取った魔女は高らかに笑いました

魔女の自分に天使を助けろと言うのですからおかしくて仕方ありません


しかし悪魔は真剣でした

自分を認識してくれたあの馬鹿な天使に恩返しがしたかったのです

魔女は少し考えてこう言いました

「助ける為にはその藍色の目をよこしなさい」

悪魔は初めて笑いました


その夜牢屋に入れられた天使が魔女に攫われるという事件が起きました

魔女の実験台や食事になったんだと噂が立ちましたが、まさか悪魔が依頼したとは誰も思いませんでした


助けられた天使は魔女に問いました

「なぜ助けたんだ?何か目的があるんだろ?」

「何もありゃしないさ

ただの可愛そうな子供の頼みを聞いただけだよ」


魔女は泉の畔で天使を下ろすと帰っていきました

天使はすぐに悪魔の元に向かいました

悪魔が泉の近くの小屋に住んでいることは知っていましたが、目の前に来るのは初めてでした


「いるんだろ?ここを開けてくれよ」


しかしいくらノックしても悪魔は出てきません

痺れを切らせた天使は扉を強引に開け、中に入ると大きな椅子が見えました

こちらからは見えませんがそこに悪魔が座っている事は分かりました


「(…なんでここに来たの?)」


震える声で悪魔は問いかけます


「(僕のせいで酷い目にあったのに…僕の事を忘れればまた天使に戻れるのに…)」


「星の声を聞きに来たんだよ」

「(…僕は星のように綺麗じゃない

君は勘違いをしてるんだよ)」


「…初めに君を見つけた時に聞いたんだ

キラキラと美しい、白くて青い星の声を

天使と言っても欲ばっかりの人達ばかりだ

初めて…初めて聞いたんだ、『天使の声』を」


「天使と言うと君は嫌がるかと思って言えなかった

天使の僕よりよっぽど美しい心を持ってる

そんな君をほっとけなかった!喋りたかった!


一緒にいたかったんだよ!」


悪魔は天使が泣いている様子に大きく動揺しました

自分は悪魔だ

天使と一緒にいてはいけない

そんな事赤子でも分かっている事なのに

この天使は悪魔である自分と過ごしたいと泣いています


泣きながら天使は衝動的に足を進めました

とにかく悪魔の姿を見ておきたかったからです


しかし、足音がして悪魔は慌てました

「(それ以上近づかないで!!!!!)」

それは天使にとっては初めての拒絶でした

ショックを受けつつも足は止まりません

遂に椅子の前まで来て、視界に悪魔を入れました


そこには羽根もなく、目元に包帯をしながら体を抱きしめて泣いている悪魔がいました

「なっ…!?」

天使は驚きつつもすぐに魔女の存在を思い出しました

この救出劇が悪魔からの依頼なら代償を取られるのは当然悪魔からだろう

そしてそれを払わせたのは他でもない自分のせいだと思いました


「ごめん…ごめんな…僕のせいだ…」

「(泣かないで)」

下を向く天使の気配を感じた悪魔は顔を上げて【笑いました】


その笑顔は天使が見た表情の中でも特に美しい【天使のような微笑み】でした


天使は悪魔の足元に膝をつき、悪魔に言いました

「これから天使として最後の仕事をする

それは到底許される事ではないから僕は2度と天使にはなれないだろう


天使じゃない僕とずっと過ごしてくれるかい?」

「(…悪いけど、今まで君を天使だと思った事はないよ)」

笑うように言った悪魔の言葉に釣られるように天使が笑うと、悪魔の足の甲に静かにキスを落としました───


いつしか街にこんな噂が流れていました

─綺麗な泉の畔には2人組の神様が現れる─


【この絵本を愛する天使アルジルに捧ぐ】

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