手記2 生きる糧
「起きろ、朝だ。」
ベッドに仲良く串団子の様に並んだ双子を起こすべく、カーテンを全開にした。
昨夜はソファに寝たお蔭で身体中が軋む。
幼い頃には想像もつかなかったが、20代後半になると本当に身体にガタが来るのが早い。
「師匠、お腹空いた…。」
「なっ、夕べあれだけ食べておいてか!?」
これが育ちざかりか。
そんな君たちに、更なるミッションを与えよう。
「さて、君たちはこんな言葉を知っているか?」
「・・・・・?」
「働かざる者、食うべからず。」
さて、二人に水汲みと魚釣りを教えてやらなくては。
朝食のサンドイッチ、紅茶、釣竿を三竿とバケツ、水桶を持って川へと向かった。
「日毎の糧と言ってね、今日頂く分だけ持ち帰るのだよ。」
「なんで?」
「オシリス、我々は今から尊い命の入れ物を頂こうとしている。彼らは我々の事情なんて知らない。乱獲なぞされた日には、さぞかし理不尽だろうな。同じ命なのに。」
「あっ・・・。お魚さん、今までゴメンね。」
「謝る必要はない、感謝して食べれば彼らにも気持ちは伝わる。」
流石は霊害孤児、飲み込みが早い。
命の尊さは、誰よりも身に染みて分かっている。
「…私たちの身体を造ってくださり有難うございます。今日も日毎の糧を頂きます。」
「「いただきます。」」
祈りの言葉を復唱する双子、良い子じゃないか。
―結局、釣り慣れた私が全員分の魚を釣ることになった。
遅めの朝ごはんを片手に、魚の血抜きをする。
一番美味しいところは森の神に還すことにしている、これも後で教えないといけないな。
時々、霊たちが側に寄って来て双子を物珍しそうに見ている。
「ところで、君たちはお祓いの手段は持っているのか?というか、霊魂と会話できるのか?」
「お祓いの手段なら有る。声は手を繋がなきゃ聞こえないわ。」
そう言って、イシスがランチョンマットの上に道具を一式広げた。
タロット、オラクル、振り子、アストロダイス、ワンド、クリスタルチューナー…
どうやらお祓い初級者セットの様だ。
これだけ有れば上等だろう、恐らく二人の才能はまだ未知数と言ったところか。
「なるほどね、安全パイだ。」
「パイ…?」
「まあ、要するに無難な道具だな。ふふっ」
「どうやって使うの?」
「もしかして、全くの無知なのか?」
協会め、やってくれたな。
明日、朝イチで文句を言いに行ってやる。
ふと、ポケットから昨夜の手紙がはみ出ている事に気が付いた。
そうだ、あのままポケットに捻じ込んで寝てしまったんだ。
どうやら、送り主は協会の長老らしい。
返信不要とのことらしいが…